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飛んで火に入る夏のヒナ
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▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽
「ん……」
眩しい。
中途半端に開いたカーテンの間から差し込む光が顔に当たるらしかった。目を開けて、ベッドのそばの時計を見る。まもなく九時だ。朝食の受付時間には間に合いそうにない。
「うーん」
上体を起こして伸びをする。
私は全裸で寝ていた。枕の下に玩具が忍ばされていたことから、どうも一人で遊んでいるうちに力尽きて寝たようだ。
シャワー浴びて来よ。
ベッドのそばに置いてあった私の旅行鞄から着替えや化粧品やらを引っ張り出して浴室に向かう。
明希は私を放置して朝食に行ってしまったのだろう。私の寝起きが悪いことは一緒に旅行したこともある仲なのでよく知っている。放っておいてくれたに違いない。
「にしても、あの夢はないわ……」
元カレと意中の人に挟まれる夢。あり得ないにも程があるし、欲求不満すぎるだろう。夢を見過ぎだ。どっちも高嶺の花だというのに。
体がちょっと重いのは、昨日のパーティで走り回ったからだろう。まだ二十代だしと思って甘く見ていたが、体力をつけ直しておく必要があるのかもしれない。
全身をマッサージしてシャワーを浴びる。さっぱりしたところで、しっかりと保湿。メイクをろくに落とさないまま寝たはずなので、きちんと整えておこう。
着替えを終えて部屋に戻る。まだ明希は戻っていないらしい。
「ちょっと遅くない?」
食べるのが大好きな明希のことだから、朝食ビュッフェを堪能していることだろう。だが、十時近くなっているこの時間まで戻らないのは妙だ。
私はスマホを確認することにした。なんらかのトラブルが発生しているなら連絡があるはずだ。
「……え」
ショルダーバッグにしまいっぱなしだったスマホを取り出す。明希からのメッセージは届いていた。それも、四時間ほど前。
そのメッセージは次のとおりだ。
《なかなか起きないだろうから、荷物を運んでおいたよー》
《渋谷くんが出て来ると思ったのに品川さんが出てきてびっくりしたんだけど、品川さんの隣で渋谷くんとイチャイチャしたの? それとも渋谷くんの隣で品川さんと?》
《気になり過ぎて食べすぎちゃう!責任とってね!》
私は頭を抱えた。
ここは陽貴と品川さんの部屋なのだ。ショックである。
よく見れば、綺麗に片付けられていて見落としたが、見慣れた陽貴の鞄と品川さんの物だろう旅行鞄が並んでいた。
つまり、夢じゃない。
「って、カードキーはっ」
このまま部屋で待っている必要はない。それに十一時からは打ち合わせが入っている。明希と一緒に部屋を出るつもりでいたが、ここに居ても彼女は迎えに来ないだろう。それどころか、陽貴と品川さんが戻って来るはずである。
荷物を確認して、ここを出ようとしたときだった。
「あ、良かった良かった。起きたみたいだね」
「緋夏。お前、どうせ朝食ビュッフェには間に合わねえだろ。菓子パン、買ってきたぞ」
ドアが開いて、私服の陽貴と品川さんが現れた。
私のために菓子パンを買いに行っていたから、ビュッフェは終わっているのに時間がかかったのだろう。さすがは陽貴なのだが、そういう問題じゃない。
「えっと……あの……」
「おや、昨夜のこと、忘れてしまったのかな?」
にこやかに尋ねてくる品川さんだが、どことなく脅迫めいた気配を帯びている。怖い。
「忘れてないだろ、その顔は」
「ええっと……私がオモチャで致していたことについては、どうか黙っていただく方向で……」
「うん? これはちょっと思い出してもらったほうがよさそうかな?」
二人に挟まれた。背の高い彼らに見下ろされると逃げ場がない。冷や汗が流れてくる。
「緋夏、逃げたいなら俺を選べ」
「緋夏ちゃん? なかったことにはさせないよ。君が結論を保留にしたんだから、ね?」
なんでこんなことになってしまったのだろう。
「と、とりあえず、菓子パンはいただいていい? このあと打ち合わせがあるから、話はそのあと……で?」
私が提案すると、二人は顔を見合わせておかしそうに笑った。
「ま、頭が回らんことにはな」
陽貴がさげてきたビニール袋を受け取る。中を見ると、菓子パンのほかに小さな箱が一つ。このパッケージの中身を私は知っている。
「……セクハラですか?」
避妊具である。私が見上げると、二人はニコニコしていた。私は引き攣った笑みを返す。
「あのあと、陽貴と相談してね。その箱が空になるまでは決着しなくてもいいし、仲良くしようってことになったんだ」
語る品川さんはとても楽しそうだ。
対して、陽貴は面白くなさそうにむすっとしている。
「緋夏が俺を選ばないのが悪い」
「わー、ほかの選択肢がないー」
棒読みで返す。
なんだ、夢か。夢なのか?
「しばらくよろしくね、緋夏ちゃん」
「欲求不満にはさせないから、覚悟しろよ」
「えっと……とりあえず、いただきます?」
現実逃避をしたくて菓子パンをかじる。私の大好きなメロンパン。さすがは陽貴、よくわかってる。
「僕も緋夏ちゃんの好きなもの、ちゃんと覚えるからいろいろ教えてよ」
「お、覚えなくて大丈夫、です」
「でもお前、わかりやすいからなー」
「陽貴は黙って」
こうして、どういうわけか私は社内でも人気の二人に挟まれることになってしまったのだった。
私がどちらを選ぶのか、あるいは二人と仲良くし続けるのかは、明日の私もきっと知らない。
《ひとまず終わり》
「ん……」
眩しい。
中途半端に開いたカーテンの間から差し込む光が顔に当たるらしかった。目を開けて、ベッドのそばの時計を見る。まもなく九時だ。朝食の受付時間には間に合いそうにない。
「うーん」
上体を起こして伸びをする。
私は全裸で寝ていた。枕の下に玩具が忍ばされていたことから、どうも一人で遊んでいるうちに力尽きて寝たようだ。
シャワー浴びて来よ。
ベッドのそばに置いてあった私の旅行鞄から着替えや化粧品やらを引っ張り出して浴室に向かう。
明希は私を放置して朝食に行ってしまったのだろう。私の寝起きが悪いことは一緒に旅行したこともある仲なのでよく知っている。放っておいてくれたに違いない。
「にしても、あの夢はないわ……」
元カレと意中の人に挟まれる夢。あり得ないにも程があるし、欲求不満すぎるだろう。夢を見過ぎだ。どっちも高嶺の花だというのに。
体がちょっと重いのは、昨日のパーティで走り回ったからだろう。まだ二十代だしと思って甘く見ていたが、体力をつけ直しておく必要があるのかもしれない。
全身をマッサージしてシャワーを浴びる。さっぱりしたところで、しっかりと保湿。メイクをろくに落とさないまま寝たはずなので、きちんと整えておこう。
着替えを終えて部屋に戻る。まだ明希は戻っていないらしい。
「ちょっと遅くない?」
食べるのが大好きな明希のことだから、朝食ビュッフェを堪能していることだろう。だが、十時近くなっているこの時間まで戻らないのは妙だ。
私はスマホを確認することにした。なんらかのトラブルが発生しているなら連絡があるはずだ。
「……え」
ショルダーバッグにしまいっぱなしだったスマホを取り出す。明希からのメッセージは届いていた。それも、四時間ほど前。
そのメッセージは次のとおりだ。
《なかなか起きないだろうから、荷物を運んでおいたよー》
《渋谷くんが出て来ると思ったのに品川さんが出てきてびっくりしたんだけど、品川さんの隣で渋谷くんとイチャイチャしたの? それとも渋谷くんの隣で品川さんと?》
《気になり過ぎて食べすぎちゃう!責任とってね!》
私は頭を抱えた。
ここは陽貴と品川さんの部屋なのだ。ショックである。
よく見れば、綺麗に片付けられていて見落としたが、見慣れた陽貴の鞄と品川さんの物だろう旅行鞄が並んでいた。
つまり、夢じゃない。
「って、カードキーはっ」
このまま部屋で待っている必要はない。それに十一時からは打ち合わせが入っている。明希と一緒に部屋を出るつもりでいたが、ここに居ても彼女は迎えに来ないだろう。それどころか、陽貴と品川さんが戻って来るはずである。
荷物を確認して、ここを出ようとしたときだった。
「あ、良かった良かった。起きたみたいだね」
「緋夏。お前、どうせ朝食ビュッフェには間に合わねえだろ。菓子パン、買ってきたぞ」
ドアが開いて、私服の陽貴と品川さんが現れた。
私のために菓子パンを買いに行っていたから、ビュッフェは終わっているのに時間がかかったのだろう。さすがは陽貴なのだが、そういう問題じゃない。
「えっと……あの……」
「おや、昨夜のこと、忘れてしまったのかな?」
にこやかに尋ねてくる品川さんだが、どことなく脅迫めいた気配を帯びている。怖い。
「忘れてないだろ、その顔は」
「ええっと……私がオモチャで致していたことについては、どうか黙っていただく方向で……」
「うん? これはちょっと思い出してもらったほうがよさそうかな?」
二人に挟まれた。背の高い彼らに見下ろされると逃げ場がない。冷や汗が流れてくる。
「緋夏、逃げたいなら俺を選べ」
「緋夏ちゃん? なかったことにはさせないよ。君が結論を保留にしたんだから、ね?」
なんでこんなことになってしまったのだろう。
「と、とりあえず、菓子パンはいただいていい? このあと打ち合わせがあるから、話はそのあと……で?」
私が提案すると、二人は顔を見合わせておかしそうに笑った。
「ま、頭が回らんことにはな」
陽貴がさげてきたビニール袋を受け取る。中を見ると、菓子パンのほかに小さな箱が一つ。このパッケージの中身を私は知っている。
「……セクハラですか?」
避妊具である。私が見上げると、二人はニコニコしていた。私は引き攣った笑みを返す。
「あのあと、陽貴と相談してね。その箱が空になるまでは決着しなくてもいいし、仲良くしようってことになったんだ」
語る品川さんはとても楽しそうだ。
対して、陽貴は面白くなさそうにむすっとしている。
「緋夏が俺を選ばないのが悪い」
「わー、ほかの選択肢がないー」
棒読みで返す。
なんだ、夢か。夢なのか?
「しばらくよろしくね、緋夏ちゃん」
「欲求不満にはさせないから、覚悟しろよ」
「えっと……とりあえず、いただきます?」
現実逃避をしたくて菓子パンをかじる。私の大好きなメロンパン。さすがは陽貴、よくわかってる。
「僕も緋夏ちゃんの好きなもの、ちゃんと覚えるからいろいろ教えてよ」
「お、覚えなくて大丈夫、です」
「でもお前、わかりやすいからなー」
「陽貴は黙って」
こうして、どういうわけか私は社内でも人気の二人に挟まれることになってしまったのだった。
私がどちらを選ぶのか、あるいは二人と仲良くし続けるのかは、明日の私もきっと知らない。
《ひとまず終わり》
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