10 / 13
百合のように艶やかに、薔薇のように芳しく 4
しおりを挟む
* * * * *
どことなくぎこちないまま、俺たちはゴールデンウィーク前日までの三日間を過ごした。
特に美樹は様子がおかしかった。授業で指名されても上の空だったし、普段の凛とした空気がない。
クラスメートたちもそれには気付いたらしくて俺に訊きに来るコもいたが、さすがに答えにくくて「さぁ」と言って適当に誤魔化した。
だって、なんと答えたらいいっていうんだよ?
そして放課後。
明日からは連休となるため、実家に帰るクラスメートも多い。みながなんとなくそわそわしている中で俺が寮に戻る支度をしていると、担任が手招きしているのが目に入った。俺のことかと指で示すとコクリと頷いて返してきたので、渋々ついていくことにする。
(一体、何の用事だろうか……)
案内されたのは生徒指導室だった。他に生徒はおらず、廊下を行き交う生徒たちの声がわずかに聞こえる。
扉を閉めて二人きりになったところで、ようやく担任の女教師である本橋先生は本題に入った。
「――あなたたち、何かあったの?」
腰ほどの高さのスチール製の棚に体重を預け、腕を組みながらの台詞。やれやれ世話が焼けると言いたげな感じだ。
「えっと……それはワタシと冠城との間でってことでしょうか?」
本橋先生がどこまで俺らのことを知っているのかはわからない。警戒しながら、探るように問いで返す。
「そう。――彼女は我が校の模範生徒。今はまだ良いけど、この状態が長引くと困るのよ」
なんとも勝手な理由だ。俺は苛立つ気持ちを抑えて返す。
「模範生徒ってことはわかりますが、冠城だって他の生徒と同じですよ、先生。学校がどうとか関係ないと思いますが」
やんわりと言うつもりだったのに、ついてでた声は思ったより語気が強かった。
「そうかしら? 『彼』には大事なことだと思うんだけど?」
(『彼』――彼って言った?!)
俺は反射的にはっと目を見開いた。あからさまに動揺している。隠し切れない。
本橋先生は口の端を上げた。
「――ヨシキ君がこのカサブランカに身を置くことを学院長が許可したのは教諭全員が知っていることよ。君も例外的に認められているってことも、ね。何故許可されているのかは明かされていないけど」
「そう……ですか」
先生たちは美樹がこの聖カサブランカ女学院にいる理由を知らない――つまり、入学許可を決めた学院長だけが美樹の事情を知っていると考えられる。
冷静さを取り戻して分析している俺に、本橋先生は話を続ける。
「でも、そんな例外だからこそ、君たちには他の生徒たちの見本であり続けてもらわないと困るわ。そのくらいの気持ちでいてくれないと、君たちを守ることはできないもの。だから、良い意味で影響を与え合う分には構わないけど、ギクシャクしてボロが出るようになるなら部屋を分けることも検討しないと――」
「ちょっ……そんな勝手すぎではありませんか!?」
俺は慌てて割り込んだ。部屋を分けることについてはそれほどの不都合はないはずなのだが、気持ちとしては納得できなかった。
「そう言うなら、厄介なことになる前に収めてちょうだい。生徒たちの動揺が続くのは面倒よ。幸い明日からはゴールデンウィークに入るわ。その間にどうにかして」
「は、はい……わかりました」
静かに俺が頷くと、本橋先生は教室を出て行った。
どことなくぎこちないまま、俺たちはゴールデンウィーク前日までの三日間を過ごした。
特に美樹は様子がおかしかった。授業で指名されても上の空だったし、普段の凛とした空気がない。
クラスメートたちもそれには気付いたらしくて俺に訊きに来るコもいたが、さすがに答えにくくて「さぁ」と言って適当に誤魔化した。
だって、なんと答えたらいいっていうんだよ?
そして放課後。
明日からは連休となるため、実家に帰るクラスメートも多い。みながなんとなくそわそわしている中で俺が寮に戻る支度をしていると、担任が手招きしているのが目に入った。俺のことかと指で示すとコクリと頷いて返してきたので、渋々ついていくことにする。
(一体、何の用事だろうか……)
案内されたのは生徒指導室だった。他に生徒はおらず、廊下を行き交う生徒たちの声がわずかに聞こえる。
扉を閉めて二人きりになったところで、ようやく担任の女教師である本橋先生は本題に入った。
「――あなたたち、何かあったの?」
腰ほどの高さのスチール製の棚に体重を預け、腕を組みながらの台詞。やれやれ世話が焼けると言いたげな感じだ。
「えっと……それはワタシと冠城との間でってことでしょうか?」
本橋先生がどこまで俺らのことを知っているのかはわからない。警戒しながら、探るように問いで返す。
「そう。――彼女は我が校の模範生徒。今はまだ良いけど、この状態が長引くと困るのよ」
なんとも勝手な理由だ。俺は苛立つ気持ちを抑えて返す。
「模範生徒ってことはわかりますが、冠城だって他の生徒と同じですよ、先生。学校がどうとか関係ないと思いますが」
やんわりと言うつもりだったのに、ついてでた声は思ったより語気が強かった。
「そうかしら? 『彼』には大事なことだと思うんだけど?」
(『彼』――彼って言った?!)
俺は反射的にはっと目を見開いた。あからさまに動揺している。隠し切れない。
本橋先生は口の端を上げた。
「――ヨシキ君がこのカサブランカに身を置くことを学院長が許可したのは教諭全員が知っていることよ。君も例外的に認められているってことも、ね。何故許可されているのかは明かされていないけど」
「そう……ですか」
先生たちは美樹がこの聖カサブランカ女学院にいる理由を知らない――つまり、入学許可を決めた学院長だけが美樹の事情を知っていると考えられる。
冷静さを取り戻して分析している俺に、本橋先生は話を続ける。
「でも、そんな例外だからこそ、君たちには他の生徒たちの見本であり続けてもらわないと困るわ。そのくらいの気持ちでいてくれないと、君たちを守ることはできないもの。だから、良い意味で影響を与え合う分には構わないけど、ギクシャクしてボロが出るようになるなら部屋を分けることも検討しないと――」
「ちょっ……そんな勝手すぎではありませんか!?」
俺は慌てて割り込んだ。部屋を分けることについてはそれほどの不都合はないはずなのだが、気持ちとしては納得できなかった。
「そう言うなら、厄介なことになる前に収めてちょうだい。生徒たちの動揺が続くのは面倒よ。幸い明日からはゴールデンウィークに入るわ。その間にどうにかして」
「は、はい……わかりました」
静かに俺が頷くと、本橋先生は教室を出て行った。
0
お気に入りに追加
24
あなたにおすすめの小説
小学生最後の夏休みに近所に住む2つ上のお姉さんとお風呂に入った話
矢木羽研
青春
「……もしよかったら先輩もご一緒に、どうですか?」
「あら、いいのかしら」
夕食を作りに来てくれた近所のお姉さんを冗談のつもりでお風呂に誘ったら……?
微笑ましくも甘酸っぱい、ひと夏の思い出。
※性的なシーンはありませんが裸体描写があるのでR15にしています。
※小説家になろうでも同内容で投稿しています。
※2022年8月の「第5回ほっこり・じんわり大賞」にエントリーしていました。
女装とメス調教をさせられ、担任だった教師の亡くなった奥さんの代わりをさせられる元教え子の男
湊戸アサギリ
BL
また女装メス調教です。見ていただきありがとうございます。
何も知らない息子視点です。今回はエロ無しです。他の作品もよろしくお願いします。
初恋の幼馴染の女の子の恰好をさせられメス調教もされて「彼女」の代わりをさせられる男の娘シンガー
湊戸アサギリ
BL
またメス調教ものです。今回はエロ無しです。女装で押し倒されいますがエロはありません
女装させられ、女の代わりをさせられる屈辱路線です。メス調教ものは他にも書いていますのでよろしくお願いいたします
性的イジメ
ポコたん
BL
この小説は性行為・同性愛・SM・イジメ的要素が含まれます。理解のある方のみこの先にお進みください。
作品説明:いじめの性的部分を取り上げて現代風にアレンジして作成。
全二話 毎週日曜日正午にUPされます。
ママと中学生の僕
キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。
部室強制監獄
裕光
BL
夜8時に毎日更新します!
高校2年生サッカー部所属の祐介。
先輩・後輩・同級生みんなから親しく人望がとても厚い。
ある日の夜。
剣道部の同級生 蓮と夜飯に行った所途中からプチッと記憶が途切れてしまう
気づいたら剣道部の部室に拘束されて身動きは取れなくなっていた
現れたのは蓮ともう1人。
1個上の剣道部蓮の先輩の大野だ。
そして大野は裕介に向かって言った。
大野「お前も肉便器に改造してやる」
大野は蓮に裕介のサッカーの練習着を渡すと中を開けて―…
ずっと女の子になりたかった 男の娘の私
ムーワ
BL
幼少期からどことなく男の服装をして学校に通っているのに違和感を感じていた主人公のヒデキ。
ヒデキは同級生の女の子が履いているスカートが自分でも履きたくて仕方がなかったが、母親はいつもズボンばかりでスカートは買ってくれなかった。
そんなヒデキの幼少期から大人になるまでの成長を描いたLGBT(ジェンダーレス作品)です。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる