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後編
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私はせっかく着た上着とシャツを脱がされた。スカートも引き抜かれて、下着姿にされる。
「……そういえば、黄色、なんだな」
私の身につけた下着の色を見て手を止めるなり告げた。
確かに、私は黄色の下着を買った。今までのは白か肌に近い色の地味なものばかりだったが、今日はいつもと違う色がほしくてそうしたのだ。デザインも、気分転換がしたかったので可愛いものだと思う。珍しくフリルやレースもついている。あまり趣味ではないそういうデザインのものを買ったのは、店員さんに勧められたからで、他意はない。
「えっと……似合わないですかね?」
誰に見せるわけでもないので似合わなくても構わないわけだが、なんとなく話の流れで質問してしまった。
「この色、俺の色だなって……」
そう呟いて、シトリンは顔を真っ赤にした。
ここにきてどうした⁉︎
「あ、いや、自意識過剰だな。今の発言は忘れてくれ」
口元を腕で隠しながらシトリンが慌てている。珍しい。
ああ、そういえば、下着のお店では外で待っていてもらったんだった。女性もののそういうものは照れてしまうから、と。だから、私が買った下着を、彼は知らなかったのだと気づく。
それに、さっき同じ部屋で着替えていたわけだが、彼は律儀に着替え終わるまで別の方向を見ながら待っていたのだろうことも察せられた。真面目である。
「自意識過剰ではないですよ? シトリンさんと買いにきたから、黄色を選んだので」
店内に入って、隣に目立つ黄色い青年がいなくなってしまったら、なんとなく寂しくなってしまったのだ。それで、下着を黄色に決めた。できるだけ、彼と同じ色味のものを選んだつもりだ。
私の言葉に、シトリンは大きな目をパチパチとさせて、ますます顔を赤くした。
「な、なぜ」
「可愛いじゃないですか、この色。……ああ、でも、シトリンさんを喜ばせるためにこの下着を選んだわけではないので、その点については勘違いしないでいただきたいのですが」
「悪いが、勘違いしたままでいさせてほしい」
シトリンはそう宣言をして、私の鎖骨に口づけを落とす。
「ひゃっ」
「あんまりにも可愛いことをされたので、驚いた」
「だから、シトリンさんのためじゃないって!」
「俺のことを、少しでも思い浮かべたのだろうことがわかったから嬉しいのだ」
私の顔を覗いて、シトリンは笑う。とてもとても幸せそうな微笑み。
こんな風な笑い方もするのか。
気難しい表情をしがちなのは性格によるものかと思っていたが、周りに問題児が多いからというのもあったのかもしれない。一緒に買い物をしている時のシトリンは、彼の兄のアメシストに似て表情がいつもより幾分か柔らかかったことを思い出す。
「……だったら、そういうことでいいです。あなたはきっと、言いふらしたりしないでしょうし」
ふたりだけの秘密であれば、無かったことにしなくていいような気がした。
「しない。黙っておこう」
嬉しそうだ。
私のこと、契約者だからという理由以外でも慕ってくれているのだな。
彼の思いが恋愛感情なのか性欲なのか判断しにくいが、私のことを慕っていて、大事にしようと常に考えているということは伝わっている気がする。
「それはそれとして、じっくりと見ても構わないだろうか?」
「いやらしいことをしないなら、いいですよ」
「それは約束しかねるが……努力はしよう」
約束しかねると言ったが、たぶん大丈夫だろう。
シトリンがじっと私の肌を見ている。下着姿を見られるのもやっぱり恥ずかしい。人に見せるような姿ではないのだから。
「……マスター?」
「なんでしょうか」
「また、一緒に出かけてくれないだろうか」
次のデートの約束だろうか。
「緊急招集がかからなければ、時間を作れると思いますが」
「俺は、身体の快楽に興味があったから、君に触れたいと願っていた。今後の戦況次第では、知っていたほうがいいとも思えたからな、経験しておきたい、と」
「はい」
「だが、純粋に君のことが知りたい。一緒に出かけて、楽しかった。俺は鉱物人形だから、日常のことにうつつを抜かしている場合じゃないとも考えていたが……こういう喜びがあるからこそ、守らねばならないと強く感じられた。だから、また、機会を得られるなら君とふたりで出かけたい」
シトリンの言葉に、私は小さく笑った。大笑いしないように堪えているから、涙が出そうだ。
「シトリンさんは生真面目ですねえ」
「わ、笑ってくれるな」
「でも、そういうところが好きですよ」
「勘違いさせるような発言は控えてくれ。これで終わりにして帰ろうという決意が揺らいでしまう」
「触れたいというのと違うのは確かですが、好意は好意として受け取ってください。前向きに、次のお出かけ、検討しますよ」
着替え直そうと上半身を起こす。そのタイミングで唇を塞がれた。唇を優しく食んで離れる。シトリンにしては珍しい、いたずらっ子の顔をしていた。
「できれば、口づけも」
「……そこは、ええっと、戦場で活躍したら、褒美として、ね?」
恋人でさえないのに、気軽にキスをするものではないと思う。
私が説得を試みると、シトリンは頷いた。
「そうだな。褒美で」
「でも、無理はしないでくださいね。緊急の魔力供給ですることになるのは許しませんから」
「心に銘じておこう」
きっと、シトリンは約束を守ってくれるだろう。
私たちは微笑みあって、部屋を出る準備を始めたのだった。
※※※※※
帰宅した私の服が変わっていたことに、みんな気づいてあれこれ言われることになったが、ふたりして適当に話をかわしたのがちょっと楽しかったということも、付け加えておく。
《終わり》
「……そういえば、黄色、なんだな」
私の身につけた下着の色を見て手を止めるなり告げた。
確かに、私は黄色の下着を買った。今までのは白か肌に近い色の地味なものばかりだったが、今日はいつもと違う色がほしくてそうしたのだ。デザインも、気分転換がしたかったので可愛いものだと思う。珍しくフリルやレースもついている。あまり趣味ではないそういうデザインのものを買ったのは、店員さんに勧められたからで、他意はない。
「えっと……似合わないですかね?」
誰に見せるわけでもないので似合わなくても構わないわけだが、なんとなく話の流れで質問してしまった。
「この色、俺の色だなって……」
そう呟いて、シトリンは顔を真っ赤にした。
ここにきてどうした⁉︎
「あ、いや、自意識過剰だな。今の発言は忘れてくれ」
口元を腕で隠しながらシトリンが慌てている。珍しい。
ああ、そういえば、下着のお店では外で待っていてもらったんだった。女性もののそういうものは照れてしまうから、と。だから、私が買った下着を、彼は知らなかったのだと気づく。
それに、さっき同じ部屋で着替えていたわけだが、彼は律儀に着替え終わるまで別の方向を見ながら待っていたのだろうことも察せられた。真面目である。
「自意識過剰ではないですよ? シトリンさんと買いにきたから、黄色を選んだので」
店内に入って、隣に目立つ黄色い青年がいなくなってしまったら、なんとなく寂しくなってしまったのだ。それで、下着を黄色に決めた。できるだけ、彼と同じ色味のものを選んだつもりだ。
私の言葉に、シトリンは大きな目をパチパチとさせて、ますます顔を赤くした。
「な、なぜ」
「可愛いじゃないですか、この色。……ああ、でも、シトリンさんを喜ばせるためにこの下着を選んだわけではないので、その点については勘違いしないでいただきたいのですが」
「悪いが、勘違いしたままでいさせてほしい」
シトリンはそう宣言をして、私の鎖骨に口づけを落とす。
「ひゃっ」
「あんまりにも可愛いことをされたので、驚いた」
「だから、シトリンさんのためじゃないって!」
「俺のことを、少しでも思い浮かべたのだろうことがわかったから嬉しいのだ」
私の顔を覗いて、シトリンは笑う。とてもとても幸せそうな微笑み。
こんな風な笑い方もするのか。
気難しい表情をしがちなのは性格によるものかと思っていたが、周りに問題児が多いからというのもあったのかもしれない。一緒に買い物をしている時のシトリンは、彼の兄のアメシストに似て表情がいつもより幾分か柔らかかったことを思い出す。
「……だったら、そういうことでいいです。あなたはきっと、言いふらしたりしないでしょうし」
ふたりだけの秘密であれば、無かったことにしなくていいような気がした。
「しない。黙っておこう」
嬉しそうだ。
私のこと、契約者だからという理由以外でも慕ってくれているのだな。
彼の思いが恋愛感情なのか性欲なのか判断しにくいが、私のことを慕っていて、大事にしようと常に考えているということは伝わっている気がする。
「それはそれとして、じっくりと見ても構わないだろうか?」
「いやらしいことをしないなら、いいですよ」
「それは約束しかねるが……努力はしよう」
約束しかねると言ったが、たぶん大丈夫だろう。
シトリンがじっと私の肌を見ている。下着姿を見られるのもやっぱり恥ずかしい。人に見せるような姿ではないのだから。
「……マスター?」
「なんでしょうか」
「また、一緒に出かけてくれないだろうか」
次のデートの約束だろうか。
「緊急招集がかからなければ、時間を作れると思いますが」
「俺は、身体の快楽に興味があったから、君に触れたいと願っていた。今後の戦況次第では、知っていたほうがいいとも思えたからな、経験しておきたい、と」
「はい」
「だが、純粋に君のことが知りたい。一緒に出かけて、楽しかった。俺は鉱物人形だから、日常のことにうつつを抜かしている場合じゃないとも考えていたが……こういう喜びがあるからこそ、守らねばならないと強く感じられた。だから、また、機会を得られるなら君とふたりで出かけたい」
シトリンの言葉に、私は小さく笑った。大笑いしないように堪えているから、涙が出そうだ。
「シトリンさんは生真面目ですねえ」
「わ、笑ってくれるな」
「でも、そういうところが好きですよ」
「勘違いさせるような発言は控えてくれ。これで終わりにして帰ろうという決意が揺らいでしまう」
「触れたいというのと違うのは確かですが、好意は好意として受け取ってください。前向きに、次のお出かけ、検討しますよ」
着替え直そうと上半身を起こす。そのタイミングで唇を塞がれた。唇を優しく食んで離れる。シトリンにしては珍しい、いたずらっ子の顔をしていた。
「できれば、口づけも」
「……そこは、ええっと、戦場で活躍したら、褒美として、ね?」
恋人でさえないのに、気軽にキスをするものではないと思う。
私が説得を試みると、シトリンは頷いた。
「そうだな。褒美で」
「でも、無理はしないでくださいね。緊急の魔力供給ですることになるのは許しませんから」
「心に銘じておこう」
きっと、シトリンは約束を守ってくれるだろう。
私たちは微笑みあって、部屋を出る準備を始めたのだった。
※※※※※
帰宅した私の服が変わっていたことに、みんな気づいてあれこれ言われることになったが、ふたりして適当に話をかわしたのがちょっと楽しかったということも、付け加えておく。
《終わり》
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