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【番外編】キューピットストーンの粋な計らい

*21*【A】

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「ば、抜折羅ばさらっ!?」

 抜折羅の方に少し引き寄せられたかと思うと、あっさりと押し倒された。唐突な行動でも、怪我をさせまいと細心の注意が払われていることは伝わってくる。

「お前は俺に不満があるから、白浪しらなみ先輩とそういうことをするのか?」

 見下ろしてくる抜折羅の顔にはやるせなさが浮かぶ。

「そんなことはないし、そんなつもりもないわ。抜折羅があたしに付きっきりになる必要はないと思うし、あなたからの想いが感じられれば、あたしは充分よ? 白浪先輩が言っていたことを気にしているの?」

 満足させてあげられているのか――確か遊輝ゆうきはそんなことを抜折羅に告げて挑発した。あの場ではそんなに気にしているようには見えなかったが、意識していたのかもしれない。

こうが充分で満足しているとしても、俺が同じだとは限らないだろ?」

 その告白は、もっともだと思った。

 ――だけど、そうなると……。

 今、逃げ場はない。狭い車内、走行中。しかも押し倒されて、組み敷かれているとも言える状況だ。脱出することは可能でも、無傷でとはいかないだろう。
 紅は抜折羅を信じることにした。

「……なら、抜折羅が満足するようなこと、しても良いわよ? 何かして欲しいのなら、できるだけ応じるから」

 受け入れる覚悟は決めた。逃げたところで先延ばしになってしまうだけだ。適度なガス抜きに付き合わないほど冷たい恋人ではない。

 ――いつだって我慢させているのだから、たまの我が儘くらい付き合うわよ。

「ったく……少しは頭を働かせてくれよ」

 抜折羅は紅の頬に掛かっていた髪の毛を、骨ばった指でそっとよける。その流れのまま、紅は口付けを受けた。押し付けるような、そんな力任せな口付け。
 短い口付けのあと、至近距離で彼に見つめられる。熱を感じる視線だ。

「もう俺は焼き餅を焼く程度にはお前に夢中なんだから」

 再び口付けられた。味わうように食まれて、それが心地よい。

 ――いつもの触れるだけのキスじゃない……。

 薄く唇を開けば、ぬるりとした感触を口内に感じた。同時に全身に熱が宿る。

「ん……」

 抜折羅からの初めてのディープキスはぎこちない。行き先に迷う舌を、紅は導くように招いて舌を絡める。少し触れただけでも熱が増していき、気持ちが高揚するのがわかる。

「んんぅ……」

 タルトに使われたラズベリーソースの甘酸っぱい香りを思い出す。口の中に残っていたのか、もっとその味を感じたくて、紅は抜折羅の求めに応じた。
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