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青玉の求婚は突然に
★2★ 7月23日火曜日、昼
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夏期講習に参加するつもりがない抜折羅は、自宅兼事務所のエキセシオルビル七階でこれまでの事件を洗い出していた。
日本に戻ってきてからもうすぐふた月が経とうとしている。しかし状況は変わらない。手配した資料も空振りが続き、進捗は芳しくなかった。
――のんびり学園生活に浸っている場合じゃないんだがな……。
左肩に埋まる青いダイヤモンドを撫でる。まだ異常はないようだが、最近のホープはおとなしい。静かにしないと動きが取れなくなる程度にまで弱っているのだろう。
――むしろ、ここまで維持できている方が不思議だ。一度アメリカに戻って補給することも視野に入れないと。
今のところ、ホープに繋がりそうなのは、紅が襲われた二件のみ。
一つ目は紅との出会いの事件。犯人が何者だったのかは先週になって判明した。代議士の秘書をしている人物だ。
二つ目は視聴覚室での事件。犯人は一年B組の担任で数学教師である岩ヶ峰だ。せっかく学生という身分を手に入れたので話を聞きに行ったのだが、その当時の記憶があやふやだそうで、参考になりそうな話は聞き出せていない。
どういうわけか、視聴覚室での事件以降は動きがない。これをどう判断したらよいのか、抜折羅は考えあぐねていた。
――この二人の犯人に直接の接点があるようには見えない。もう一つ事例があれば浮かび上がるか……?
手持ちのカードを思い返したとき、白浪遊輝の姿が脳裏を過ぎった。彼は感知に特化したタリスマントーカーだ。良い顔はしないだろうが、訊いてみる価値はある。
抜折羅は、紅をホテルに拉致した件の時に手に入れた遊輝の電話番号を呼び出すと、予定を取り付けた。
沢山のキャンバスが部屋の隅に立て掛けられている。ドアの近くにある棚には様々な画家の名が刻まれた巨大な本が並ぶ。遊輝の自宅にある私室兼アトリエに入ると、イーゼルの前に座っていた彼にあからさまに嫌な顔をされた。
「紅ちゃんいないんだ」
「それが目的で了承したのか」
あまりにもあっさりとスケジュールを押さえられたので奇妙に感じていた抜折羅だったが、これで納得できた。
「下心くらいあってもいいでしょ? ――で、僕に何の用事だい?」
「ホープの行方、感知できないか?」
「それが君の〝使命〟ってわけか」
遊輝は抜折羅を見つめてふうんと唸る。片目を細めて笑むと続けた。
「どうだろうね。紅ちゃんとのアトリエデートを次の日曜日にセッティングできたら、本気を出してもいいよ?」
その提案に抜折羅は逡巡する。紅をだしにするのは本分から外れる。巻き込むわけにはいかない。
さぁどうすると問いたげな遊輝の鋭い視線に負けて、抜折羅はスマートフォンを手に取った。訊いてみるだけなら構わないだろう。今なら昼休みのはずだ。
日曜日の予定を尋ねると彼女は歯切れ悪く返事をしてきた。どうやら先約があるらしい。わかったと告げて通話を切る。
「――という感じで断られてしまったんだが、他の条件を出すか?」
面白くないと雄弁に語る表情を浮かべながらおとなしく耳を傾けてくれていた遊輝だったが、何かを思いついたように突然瞳を輝かせた。
「うん。これは実に良いアイデアだ。ふふ」
言ってほくそ笑む遊輝を見ながら、抜折羅は頼る相手を間違えたかなぁと後悔しつつあった。
日本に戻ってきてからもうすぐふた月が経とうとしている。しかし状況は変わらない。手配した資料も空振りが続き、進捗は芳しくなかった。
――のんびり学園生活に浸っている場合じゃないんだがな……。
左肩に埋まる青いダイヤモンドを撫でる。まだ異常はないようだが、最近のホープはおとなしい。静かにしないと動きが取れなくなる程度にまで弱っているのだろう。
――むしろ、ここまで維持できている方が不思議だ。一度アメリカに戻って補給することも視野に入れないと。
今のところ、ホープに繋がりそうなのは、紅が襲われた二件のみ。
一つ目は紅との出会いの事件。犯人が何者だったのかは先週になって判明した。代議士の秘書をしている人物だ。
二つ目は視聴覚室での事件。犯人は一年B組の担任で数学教師である岩ヶ峰だ。せっかく学生という身分を手に入れたので話を聞きに行ったのだが、その当時の記憶があやふやだそうで、参考になりそうな話は聞き出せていない。
どういうわけか、視聴覚室での事件以降は動きがない。これをどう判断したらよいのか、抜折羅は考えあぐねていた。
――この二人の犯人に直接の接点があるようには見えない。もう一つ事例があれば浮かび上がるか……?
手持ちのカードを思い返したとき、白浪遊輝の姿が脳裏を過ぎった。彼は感知に特化したタリスマントーカーだ。良い顔はしないだろうが、訊いてみる価値はある。
抜折羅は、紅をホテルに拉致した件の時に手に入れた遊輝の電話番号を呼び出すと、予定を取り付けた。
沢山のキャンバスが部屋の隅に立て掛けられている。ドアの近くにある棚には様々な画家の名が刻まれた巨大な本が並ぶ。遊輝の自宅にある私室兼アトリエに入ると、イーゼルの前に座っていた彼にあからさまに嫌な顔をされた。
「紅ちゃんいないんだ」
「それが目的で了承したのか」
あまりにもあっさりとスケジュールを押さえられたので奇妙に感じていた抜折羅だったが、これで納得できた。
「下心くらいあってもいいでしょ? ――で、僕に何の用事だい?」
「ホープの行方、感知できないか?」
「それが君の〝使命〟ってわけか」
遊輝は抜折羅を見つめてふうんと唸る。片目を細めて笑むと続けた。
「どうだろうね。紅ちゃんとのアトリエデートを次の日曜日にセッティングできたら、本気を出してもいいよ?」
その提案に抜折羅は逡巡する。紅をだしにするのは本分から外れる。巻き込むわけにはいかない。
さぁどうすると問いたげな遊輝の鋭い視線に負けて、抜折羅はスマートフォンを手に取った。訊いてみるだけなら構わないだろう。今なら昼休みのはずだ。
日曜日の予定を尋ねると彼女は歯切れ悪く返事をしてきた。どうやら先約があるらしい。わかったと告げて通話を切る。
「――という感じで断られてしまったんだが、他の条件を出すか?」
面白くないと雄弁に語る表情を浮かべながらおとなしく耳を傾けてくれていた遊輝だったが、何かを思いついたように突然瞳を輝かせた。
「うん。これは実に良いアイデアだ。ふふ」
言ってほくそ笑む遊輝を見ながら、抜折羅は頼る相手を間違えたかなぁと後悔しつつあった。
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