さあ、婚約破棄から始めましょう

一花カナウ

文字の大きさ
上 下
57 / 80
さあ、婚約破棄から始めましょう!

幸せな目覚め

しおりを挟む
・#・#・#・#・#・


 目が覚める。誰かの腕の中に自分の身体がおさまっていることに驚いて、ゴーティエ王子の抱き枕になっているのだと理解する。
 戻ってきてしまった……。
 私は心の中でため息をついた。ヴァランティーヌが表面に出てきたなら、私は消えてなくなろうと願っていたのに。今の彼らなら道を誤ることなく国民を導けるだろうと期待していたから、なおのこと残念だった。
 私は結末を見届けるつもりはないのに。
 ゴーティエ王子とヴァランティーヌの幸せな結末を望んではいる。でも、そのために私があれこれ動こうとは、今は思えない。
 ゴーティエ王子には信頼できる仲間がいる。彼らと協力することが、この『プリンセス・ソニア』という物語の正しい姿だろう。私は外部の人間なのだから、できる限り介入すべきではない。

「……ヴァランティーヌ?」

 ゴーティエ王子がゆっくりと目を開けた。彼の瞳が私を映す。

「おはようございます、ゴーティエさま」

 私は微笑んでみせた。彼の負担にはなりたくなかった。

「疲れは残っていないか?」
「えっと……少し身体が重いです」

 私の意識が飛んでいる間にイチャイチャしていたのだろう感覚が残っている。ヴァランティーヌはゴーティエ王子を拒まず受け入れたのだろう。

「そうか……」
「あ、あの。私、途中から記憶がなくて。その、子ができるような行為は、えっと……」

 不安になって尋ねると、ゴーティエ王子は困ったように笑った。

「案ずるな。触れただけで挿れてはいない。貴女の意に反することはせんぞ」

 そう返して、私の額に唇を落とした。くすぐったい。
 たぶん、本当なんだろうな……。
 ヴァランティーヌとともに歩く未来のために、彼なりに抑えているのだろう。

「……ですよね」
「疲れて眠ってしまった貴女の身体を拭ってはおいたが、入浴は必要か?」
「いえ。……ですが、ゴーティエさまが入浴するのであればお付き合いいたしますわ」

 王族は一人では入浴をしない。安全のためでもあるので、そういうものだと理解している。
 私が提案すると、ゴーティエ王子は目をまんまるくして驚いたあとに、優しく微笑んだ。

「可愛いことをいう。ならば、ともに入ろうか」
「お湯の準備は」
「ここは温泉があるのだ。案内しよう」

 温泉? ゲームにそんなシーンはなかったよね?
 今度は私が驚く番だ。目を瞬かせていると、ゴーティエ王子はするりとベッドからおりる。

「貴女の着替えはそこにある。服を着て、着替えを持つといい」
「は、はい。すぐに支度いたします」
「ゆっくりでいいぞ。今はまだ、時間がある」

 窓の外を見やってはっきりと告げる。確信しているような口ぶりだった。
 ゴーティエさまは王都がどんな状態なのかわかっているのかしら。
 王都で攻略対象たちが手を組んでクーデターを起こすルートを私は知らないが、ゴーティエ王子は何かを察しているのか既知のこととして理解しているかのような言動だ。
 ゴーティエ王子の様子に気を配りながら、私はドレスを着込むのだった。
しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

魅了が解けた貴男から私へ

砂礫レキ
ファンタジー
貴族学園に通う一人の男爵令嬢が第一王子ダレルに魅了の術をかけた。 彼女に操られたダレルは婚約者のコルネリアを憎み罵り続ける。 そして卒業パーティーでとうとう婚約破棄を宣言した。 しかし魅了の術はその場に運良く居た宮廷魔術師に見破られる。 男爵令嬢は処刑されダレルは正気に戻った。 元凶は裁かれコルネリアへの愛を取り戻したダレル。 しかしそんな彼に半年後、今度はコルネリアが婚約破棄を告げた。 三話完結です。

【完結】もう…我慢しなくても良いですよね?

アノマロカリス
ファンタジー
マーテルリア・フローレンス公爵令嬢は、幼い頃から自国の第一王子との婚約が決まっていて幼少の頃から厳しい教育を施されていた。 泣き言は許されず、笑みを浮かべる事も許されず、お茶会にすら参加させて貰えずに常に完璧な淑女を求められて教育をされて来た。 16歳の成人の義を過ぎてから王子との婚約発表の場で、事あろうことか王子は聖女に選ばれたという男爵令嬢を連れて来て私との婚約を破棄して、男爵令嬢と婚約する事を選んだ。 マーテルリアの幼少からの血の滲むような努力は、一瞬で崩壊してしまった。 あぁ、今迄の苦労は一体なんの為に… もう…我慢しなくても良いですよね? この物語は、「虐げられる生活を曽祖母の秘術でざまぁして差し上げますわ!」の続編です。 前作の登場人物達も多数登場する予定です。 マーテルリアのイラストを変更致しました。

悪役令嬢は永眠しました

詩海猫
ファンタジー
「お前のような女との婚約は破棄だっ、ロザリンダ・ラクシエル!だがお前のような女でも使い道はある、ジルデ公との縁談を調えてやった!感謝して公との間に沢山の子を産むがいい!」 長年の婚約者であった王太子のこの言葉に気を失った公爵令嬢・ロザリンダ。 だが、次に目覚めた時のロザリンダの魂は別人だった。 ロザリンダとして目覚めた木の葉サツキは、ロザリンダの意識がショックのあまり永遠の眠りについてしまったことを知り、「なぜロザリンダはこんなに努力してるのに周りはクズばっかりなの?まかせてロザリンダ!きっちりお返ししてあげるからね!」 *思いつきでプロットなしで書き始めましたが結末は決めています。暗い展開の話を書いているとメンタルにもろに影響して生活に支障が出ることに気付きました。定期的に強気主人公を暴れさせないと(?)書き続けるのは不可能なようなのでメンタル状態に合わせて書けるものから書いていくことにします、ご了承下さいm(_ _)m

下げ渡された婚約者

相生紗季
ファンタジー
マグナリード王家第三王子のアルフレッドは、優秀な兄と姉のおかげで、政務に干渉することなく気ままに過ごしていた。 しかしある日、第一王子である兄が言った。 「ルイーザとの婚約を破棄する」 愛する人を見つけた兄は、政治のために決められた許嫁との婚約を破棄したいらしい。 「あのルイーザが受け入れたのか?」 「代わりの婿を用意するならという条件付きで」 「代わり?」 「お前だ、アルフレッド!」 おさがりの婚約者なんて聞いてない! しかもルイーザは誰もが畏れる冷酷な侯爵令嬢。 アルフレッドが怯えながらもルイーザのもとへと訪ねると、彼女は氷のような瞳から――涙をこぼした。 「あいつは、僕たちのことなんかどうでもいいんだ」 「ふたりで見返そう――あいつから王位を奪うんだ」

乙女ゲームの世界だと、いつから思い込んでいた?

シナココ
ファンタジー
母親違いの妹をいじめたというふわふわした冤罪で婚約破棄された上に、最北の辺境地に流された公爵令嬢ハイデマリー。勝ち誇る妹・ゲルダは転生者。この世界のヒロインだと豪語し、王太子妃に成り上がる。乙女ゲームのハッピーエンドの確定だ。 ……乙女ゲームが終わったら、戦争ストラテジーゲームが始まるのだ。

勝手にしなさいよ

恋愛
どうせ将来、婚約破棄されると分かりきってる相手と婚約するなんて真っ平ごめんです!でも、相手は王族なので公爵家から破棄は出来ないのです。なら、徹底的に避けるのみ。と思っていた悪役令嬢予定のヴァイオレットだが……

彼女がいなくなった6年後の話

こん
恋愛
今日は、彼女が死んでから6年目である。 彼女は、しがない男爵令嬢だった。薄い桃色でサラサラの髪、端正な顔にある2つのアーモンド色のキラキラと光る瞳には誰もが惹かれ、それは私も例外では無かった。 彼女の墓の前で、一通り遺書を読んで立ち上がる。 「今日で貴方が死んでから6年が経ったの。遺書に何を書いたか忘れたのかもしれないから、読み上げるわ。悪く思わないで」 何回も読んで覚えてしまった遺書の最後を一息で言う。 「「必ず、貴方に会いに帰るから。1人にしないって約束、私は破らない。」」 突然、私の声と共に知らない誰かの声がした。驚いて声の方を振り向く。そこには、見たことのない男性が立っていた。 ※ガールズラブの要素は殆どありませんが、念の為入れています。最終的には男女です! ※なろう様にも掲載

アルバートの屈辱

プラネットプラント
恋愛
妻の姉に恋をして妻を蔑ろにするアルバートとそんな夫を愛するのを諦めてしまった妻の話。 『詰んでる不憫系悪役令嬢はチャラ男騎士として生活しています』の10年ほど前の話ですが、ほぼ無関係なので単体で読めます。

処理中です...