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さあ、婚約破棄から始めましょう!

有意義な会議のあとで 3

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「あれの目的は国王の座を得ることではないだろう。だが一方で、この国が滅ぶまでを繰り返していることに終止符を打つことだけがエルベルの目的であれば、オレの願いと衝突する可能性は捨てられん」
「そうだな」
「――アロルドはこの共闘で何を得ようと企んでいる?」

 ゴーティエ王子の鋭い視線を、アロルドは逃げずにしっかりと受け止めた。口の端が片方だけ上がった。

「繰り返される世界から解放されるためなら、君を殺すことを受け入れるかということか?」
「ああ、そうだ」

 アロルドの問いに、ゴーティエ王子は頷く。お互いの覚悟が透けて見えた。
 しばし腹の中を探るように見つめ合っていたが、サッと両手を挙げて苦笑したのはアロルドだった。

「はは。今回はしねえよ。君たちの幸せを願うことに全力を尽くす所存だ。ただ――」

 アロルドの視線が私に向けられる。悲しげな色がそこにあった。
 アロルドさま……?
 私と目が合うとすぐにアロルドは首を小さく横に振って、視線をゴーティエ王子に向ける。

「いや、なんでもない。俺は君に従う。君の騎士として一生を捧げる。壊れていく君を救うためとはいえ、もう君に刃を向けるようなことはしたくない」
「それはオレに、壊れないように努めろ、そのときが来たら首を落とすという宣言か?」
「そのほうが都合がいいなら、そういうことにしておいてくれ」
「よくわかってるじゃないか」
「褒めるなよ」

 やれやれといった様子のアロルドを見ているゴーティエ王子はどこか満足そうに見えた。物騒な会話をしている二人だが、築いてきた絆が言葉以上の心の交流を可能にしているのだろう。
 アロルドさまは信用できそうね。でも――
 私に向けられた視線の意味。それは、消えかけているヴァランティーヌの意識にあるのだろう。
 ゴーティエ王子が愛したヴァランティーヌはいなくなろうとしている。外側だけ残っている状態では、ゴーティエ王子が望む結末を得られないかもしれない。ここにいる私が、ゴーティエ王子の願いの障壁となっている。
 協力したいと思うのにどうしたらいいのか私にはわからない。胸が痛む。

「……廊下にエルベルが残っていたら部屋に引っ張っていってやるよ」
「よろしく頼む」
「だから、朝迎えにこの部屋に入ることを許せ」
「アロルドに任せよう」
「御意」

 剣を携えると、アロルドは扉を開ける。廊下側でがさりと音がしたあたり、エルベルが残っていたのかもしれない。アロルドの大きなため息とともに扉は閉められた。
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