上 下
48 / 70
さあ、婚約破棄から始めましょう!

有意義な会議のあとで 1

しおりを挟む
 現状と前世の記憶を整理する作業はとても興味深く、議論は白熱した。お茶と軽食を取りながらの意見交換の場は有用なものになったに違いない。私たち五人は時が経つのも忘れて没頭していたのだが――。

「あら、いけない。そろそろお暇しないと」

 紅茶のおかわりが尽きていることに気づいたエリーが、意匠の凝った懐中時計を取り出して時刻を確認する。

「部屋を用意したほうがいいか?」

 ゴーティエ王子が一瞬だけ外に目をやってから、エリーに話しかける。
 窓の外は真っ暗で、とても静かだ。王都で大きな事件が起きているなんて信じられないほどに。

「いえ。あたしがここにいるのが知られると話がややこしくなりますから」

 エリーはゴーティエ王子の提案にそう応えて、私たちを見やる。そして頭巾を目深に被り直した。

「必要なときに呼んでくださいな。いつでもどこでも馳せ参じましょう。あなたさまの身代わりに命を差し出せとお申し付けの際も喜んで」

 口元が笑みを作る。そう見えたと認識したときには、エリーの姿は忽然として消え去っていた。
 身代わり計画は却下したはずなのに。
 私は小さく息を吐き出す。エリーがこの場に姿を現したこと自体が彼の覚悟を示しているのだとしたら、私たちが説得を試みたところでそう簡単に揺らがないのかもしれないけれど。

「――バグ、ねえ」

 一連のやり取りを黙って見ていたアロルドが興味深そうに呟く。エルベルは早速書類を片付け始めていた。

「僕たちも休息をとりましょう。ちょうどキリのいいところですし、事態が急変したときにすぐさま対処できなければ意味がない」
「それもそうだな」

 ゴーティエ王子の返答に、エルベルは解散の許可を得たと考えたのだろう。書類をテーブルの上にまとめると、食器類を手際よく片付けてくれた。

「では、僕は先に失礼しますね」

 エルベルは私たちにひらひらと手を振って立ち去る。

「――休息も大事ですよね。事態は急速に動いている最中なのだもの」

 エリーとエルベルの行動の早さから考えると、彼らは自身の疲労回復を優先させたのかもしれない。このまま続けていても有意義な結論は得られないと踏んだのだろう。賢明な判断である。

「それで、アロルドはなにゆえに残っているのだ?」

 なかなか退出しようとしないアロルドをゴーティエ王子がひと睨みした。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

断腸の思いで王家に差し出した孫娘が婚約破棄されて帰ってきた

兎屋亀吉
恋愛
ある日王家主催のパーティに行くといって出かけた孫娘のエリカが泣きながら帰ってきた。買ったばかりのドレスは真っ赤なワインで汚され、左頬は腫れていた。話を聞くと王子に婚約を破棄され、取り巻きたちに酷いことをされたという。許せん。戦じゃ。この命燃え尽きようとも、必ずや王家を滅ぼしてみせようぞ。

5年も苦しんだのだから、もうスッキリ幸せになってもいいですよね?

gacchi
恋愛
13歳の学園入学時から5年、第一王子と婚約しているミレーヌは王子妃教育に疲れていた。好きでもない王子のために苦労する意味ってあるんでしょうか。 そんなミレーヌに王子は新しい恋人を連れて 「婚約解消してくれる?優しいミレーヌなら許してくれるよね?」 もう私、こんな婚約者忘れてスッキリ幸せになってもいいですよね? 3/5 1章完結しました。おまけの後、2章になります。 4/4 完結しました。奨励賞受賞ありがとうございました。 1章が書籍になりました。

婚約者が私以外の人と勝手に結婚したので黙って逃げてやりました〜某国の王子と珍獣ミミルキーを愛でます〜

平川
恋愛
侯爵家の莫大な借金を黒字に塗り替え事業を成功させ続ける才女コリーン。 だが愛する婚約者の為にと寝る間を惜しむほど侯爵家を支えてきたのにも関わらず知らぬ間に裏切られた彼女は一人、誰にも何も告げずに屋敷を飛び出した。 流れ流れて辿り着いたのは獣人が治めるバムダ王国。珍獣ミミルキーが生息するマサラヤマン島でこの国の第一王子ウィンダムに偶然出会い、強引に王宮に連れ去られミミルキーの生態調査に参加する事に!? 魔法使いのウィンロードである王子に溺愛され珍獣に癒されたコリーンは少しずつ自分を取り戻していく。 そして追い掛けて来た元婚約者に対して少女であった彼女が最後に出した答えとは…? 完結済全6話

冤罪を掛けられて大切な家族から見捨てられた

ああああ
恋愛
優は大切にしていた妹の友達に冤罪を掛けられてしまう。 そして冤罪が判明して戻ってきたが

【完結】皇太子の愛人が懐妊した事を、お妃様は結婚式の一週間後に知りました。皇太子様はお妃様を愛するつもりは無いようです。

五月ふう
恋愛
 リックストン国皇太子ポール・リックストンの部屋。 「マティア。僕は一生、君を愛するつもりはない。」  今日は結婚式前夜。婚約者のポールの声が部屋に響き渡る。 「そう……。」  マティアは小さく笑みを浮かべ、ゆっくりとソファーに身を預けた。    明日、ポールの花嫁になるはずの彼女の名前はマティア・ドントール。ドントール国第一王女。21歳。  リッカルド国とドントール国の和平のために、マティアはこの国に嫁いできた。ポールとの結婚は政略的なもの。彼らの意志は一切介入していない。 「どんなことがあっても、僕は君を王妃とは認めない。」  ポールはマティアを憎しみを込めた目でマティアを見つめる。美しい黒髪に青い瞳。ドントール国の宝石と評されるマティア。 「私が……ずっと貴方を好きだったと知っても、妻として認めてくれないの……?」 「ちっ……」  ポールは顔をしかめて舌打ちをした。   「……だからどうした。幼いころのくだらない感情に……今更意味はない。」  ポールは険しい顔でマティアを睨みつける。銀色の髪に赤い瞳のポール。マティアにとってポールは大切な初恋の相手。 だが、ポールにはマティアを愛することはできない理由があった。 二人の結婚式が行われた一週間後、マティアは衝撃の事実を知ることになる。 「サラが懐妊したですって‥‥‥!?」

妹がいなくなった

アズやっこ
恋愛
妹が突然家から居なくなった。 メイドが慌ててバタバタと騒いでいる。 お父様とお母様の泣き声が聞こえる。 「うるさくて寝ていられないわ」 妹は我が家の宝。 お父様とお母様は妹しか見えない。ドレスも宝石も妹にだけ買い与える。 妹を探しに出掛けたけど…。見つかるかしら?

【短編】捨てられた公爵令嬢ですが今さら謝られても「もう遅い」

みねバイヤーン
恋愛
「すまなかった、ヤシュナ。この通りだ、どうか王都に戻って助けてくれないか」 ザイード第一王子が、婚約破棄して捨てた公爵家令嬢ヤシュナに深々と頭を垂れた。 「お断りします。あなた方が私に対して行った数々の仕打ち、決して許すことはありません。今さら謝ったところで、もう遅い。ばーーーーーか」 王家と四大公爵の子女は、王国を守る御神体を毎日清める義務がある。ところが聖女ベルが現れたときから、朝の清めはヤシュナと弟のカルルクのみが行なっている。務めを果たさず、自分を使い潰す気の王家にヤシュナは切れた。王家に対するざまぁの準備は着々と進んでいる。

私が死んで満足ですか?

マチバリ
恋愛
王太子に婚約破棄を告げられた伯爵令嬢ロロナが死んだ。 ある者は面倒な婚約破棄の手続きをせずに済んだと安堵し、ある者はずっと欲しかった物が手に入ると喜んだ。 全てが上手くおさまると思っていた彼らだったが、ロロナの死が与えた影響はあまりに大きかった。 書籍化にともない本編を引き下げいたしました

処理中です...