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さあ、婚約破棄から始めましょう!
貴女は誰だ? 3
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「ごめんなさい、ゴーティエさま。私は、ヴァランティーヌだとしかお伝えできないのです。ただ、あなたさまの幼馴染であったはずの私は、もう、消えかけているから……お許しください」
ポロポロと涙が溢れる。この体に残るヴァランティーヌの魂は、愛している相手から剣を向けられていることが悲しくてたまらないのだ。
「ヴァランティーヌ……」
「生き延びたいのであれば、私を斬り捨ててください。そうすれば、あなたさまだけでも生き延びれる。私は、ヴァランティーヌとしての私は、もう、長く居られないから」
ああ。やっとわかった。《私》がここにいる理由。
ヴァランティーヌも気づいていたのだ。この世界は、どう足掻いてもゴーティエ王子とヴァランティーヌに幸せな未来は訪れないのだと。
それは彼らが悪役として倒されるべき存在としてデザインされているからだ。
ヴァランティーヌは幾度目かの結末で祈ったのだろう。いつかの未来で、幸せな結婚をしたい。せめて、ゴーティエさまの幸せを願いたい、と。
それがゴーティエルートへの合流だった。だが、それはヴァランティーヌ自身の死を意味する。
かつてゴーティエはヴァランティーヌに告げていた。「オレの気持ちを受け止めてくれるのなら、一生愛し、尽くすことができるだろうとは思っているよ」と。それはヴァランティーヌに向けた言葉で、《私》に向けられたものではない。
だから私は、嘘はつけない。
剣先が揺れた。
「ゴーティエ、そこまでにしておけ」
アロルドが静かに立ち上がり、ゴーティエ王子の剣を下げさせる。エルベルもそれを見てゴーティエ王子の剣を取り上げた。
「ヴァランティーヌ」
ゴーティエ王子が一歩足を踏み出す。手元に武器はない。
「私の知る限りでは、あなたさまに命を奪われる未来はございません。運命を変えたいと願うなら、あなたさまの手でどうか私を――」
「ヴァランティーヌっ」
彼の手が伸びた。ゴーティエ王子が望むようにしようと抵抗せずに身を任せれば、彼は私の身体をしっかりと抱き締めた。
「……まだ、そこにいるではないか。愚か者。一人で消えようなどと思うな。オレだって、貴女の生きる未来を望んでいるのだ。オレはもうどうなってもいい。ただ貴女を、愛する貴女を守り抜く未来が、オレの願いなのに」
抱き締められているので彼の顔は見えない。ただ、彼が涙を流していることは、私の耳に触れる彼の頬が濡れていることから明らかだった。
「ゴーティエさま……」
私はそっと彼の背中に手を回す。
どうすれば、この窮地を脱することができるのだろう。私には何ができるのだろう。ヴァランティーヌとゴーティエのために、《私》は何が。
思考を巡らせていると、扉が強めに叩かれた。
ポロポロと涙が溢れる。この体に残るヴァランティーヌの魂は、愛している相手から剣を向けられていることが悲しくてたまらないのだ。
「ヴァランティーヌ……」
「生き延びたいのであれば、私を斬り捨ててください。そうすれば、あなたさまだけでも生き延びれる。私は、ヴァランティーヌとしての私は、もう、長く居られないから」
ああ。やっとわかった。《私》がここにいる理由。
ヴァランティーヌも気づいていたのだ。この世界は、どう足掻いてもゴーティエ王子とヴァランティーヌに幸せな未来は訪れないのだと。
それは彼らが悪役として倒されるべき存在としてデザインされているからだ。
ヴァランティーヌは幾度目かの結末で祈ったのだろう。いつかの未来で、幸せな結婚をしたい。せめて、ゴーティエさまの幸せを願いたい、と。
それがゴーティエルートへの合流だった。だが、それはヴァランティーヌ自身の死を意味する。
かつてゴーティエはヴァランティーヌに告げていた。「オレの気持ちを受け止めてくれるのなら、一生愛し、尽くすことができるだろうとは思っているよ」と。それはヴァランティーヌに向けた言葉で、《私》に向けられたものではない。
だから私は、嘘はつけない。
剣先が揺れた。
「ゴーティエ、そこまでにしておけ」
アロルドが静かに立ち上がり、ゴーティエ王子の剣を下げさせる。エルベルもそれを見てゴーティエ王子の剣を取り上げた。
「ヴァランティーヌ」
ゴーティエ王子が一歩足を踏み出す。手元に武器はない。
「私の知る限りでは、あなたさまに命を奪われる未来はございません。運命を変えたいと願うなら、あなたさまの手でどうか私を――」
「ヴァランティーヌっ」
彼の手が伸びた。ゴーティエ王子が望むようにしようと抵抗せずに身を任せれば、彼は私の身体をしっかりと抱き締めた。
「……まだ、そこにいるではないか。愚か者。一人で消えようなどと思うな。オレだって、貴女の生きる未来を望んでいるのだ。オレはもうどうなってもいい。ただ貴女を、愛する貴女を守り抜く未来が、オレの願いなのに」
抱き締められているので彼の顔は見えない。ただ、彼が涙を流していることは、私の耳に触れる彼の頬が濡れていることから明らかだった。
「ゴーティエさま……」
私はそっと彼の背中に手を回す。
どうすれば、この窮地を脱することができるのだろう。私には何ができるのだろう。ヴァランティーヌとゴーティエのために、《私》は何が。
思考を巡らせていると、扉が強めに叩かれた。
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