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さあ、婚約破棄から始めましょう!
貴女は誰だ? 2
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「愛していたヴァランティーヌ嬢がもうこの世界にいないことを殿下は察しているのでしょう? 聡いあなたでしたら知っていて、こうしてごっこ遊びに興じていらっしゃるんですよね?」
「エルベル!」
名を呼んで胸ぐら掴んで立ち上がったのはゴーティエ王子ではなくアロルドだった。激昂するアロルドに、エルベルは薄ら笑いで応じる。
「……君も【気付いた側】じゃないか。殿下と敵対する未来を避けるために、僕に薬学令嬢との婚姻を勧めたわけで。でも、僕も同じですよ。僕が薬学令嬢と結ばれても、殿下は死ぬ。そういう物語の筋書きですからね」
「だから、その筋書きを変えるためにこうして――」
「もう手遅れじゃないですか? ヴァランティーヌ嬢の様子が違うことに気づいたからか、予知された事象が前倒して始まっている。それも同時多発的に。僕らは阻止するために手を組んでいたから動きませんけれど、彼らは違う」
「……くっ」
アロルドは反論する言葉が出なかったらしい。悔しそうにしてエルベルを椅子に下ろした。
エルベルは胸元をただしてゴーティエ王子に目を向ける。
「どうします? 逃げますか?」
「案ずるな。それについては手を打っている」
ゴーティエ王子がさらりと返す。エルベルがあからさまに驚いた顔をした。
「ん? オレが【気付いた側】であることは察しているのだろう? 隣国に要請して、クーデターを鎮める手助けをするように書簡のやり取りをしてある。あいつが裏切らなければ、ロドリク様が王座につくことはない」
「で、ですが、そうなると殿下の立場は」
エルベルが狼狽える。ゴーティエ王子の行動は想像していなかったらしい。
ゴーティエ王子は薄く笑った。
「ヴァランティーヌを失わない未来を手に入れるためなら安いものだろう? この王国が滅んだからといって、この国の民を傷つけるようなアイツではないし」
ゴーティエ王子の言う「アイツ」が誰なのか思い出した。おそらく隣国の王子ギーセルベルトだろう。私も幼い頃にお会いしたことがある上、ゲームでは攻略対象の一人だ。
ヴァランティーヌと結婚し国王となったゴーティエが悪政を施すようになり、かつての友人を諭すために軍を向かわせることになる正義の人。現状、国王にもゴーティエにも非はないはずなので、ゴーティエ王子からの要請には応じてくれることだろう。
「それでこちらに、ですか」
策があって行動していることを理解したのだろう。エルベルは微苦笑を浮かべた。
「ここはギーセルベルト殿下の指揮する軍が通る街道に近い。必要であればそこに合流するが、その前に確認したいことがある」
ゴーティエ王子が立ち上がる。そして腰にさげていた長剣を抜くなり、私の顔に剣先を向けた。
ああ、そうなるのか。
焦ることなく、私は運命を察した。
「貴女は誰だ?」
「ヴァランティーヌ・グールドンですわ」
「もう一人いるはずだ。下手な演技をすればその首を刎ねると思え」
そんなにも悲しそうなお顔で、冷たくおっしゃるのですね。
私は自然と涙を流した。
「エルベル!」
名を呼んで胸ぐら掴んで立ち上がったのはゴーティエ王子ではなくアロルドだった。激昂するアロルドに、エルベルは薄ら笑いで応じる。
「……君も【気付いた側】じゃないか。殿下と敵対する未来を避けるために、僕に薬学令嬢との婚姻を勧めたわけで。でも、僕も同じですよ。僕が薬学令嬢と結ばれても、殿下は死ぬ。そういう物語の筋書きですからね」
「だから、その筋書きを変えるためにこうして――」
「もう手遅れじゃないですか? ヴァランティーヌ嬢の様子が違うことに気づいたからか、予知された事象が前倒して始まっている。それも同時多発的に。僕らは阻止するために手を組んでいたから動きませんけれど、彼らは違う」
「……くっ」
アロルドは反論する言葉が出なかったらしい。悔しそうにしてエルベルを椅子に下ろした。
エルベルは胸元をただしてゴーティエ王子に目を向ける。
「どうします? 逃げますか?」
「案ずるな。それについては手を打っている」
ゴーティエ王子がさらりと返す。エルベルがあからさまに驚いた顔をした。
「ん? オレが【気付いた側】であることは察しているのだろう? 隣国に要請して、クーデターを鎮める手助けをするように書簡のやり取りをしてある。あいつが裏切らなければ、ロドリク様が王座につくことはない」
「で、ですが、そうなると殿下の立場は」
エルベルが狼狽える。ゴーティエ王子の行動は想像していなかったらしい。
ゴーティエ王子は薄く笑った。
「ヴァランティーヌを失わない未来を手に入れるためなら安いものだろう? この王国が滅んだからといって、この国の民を傷つけるようなアイツではないし」
ゴーティエ王子の言う「アイツ」が誰なのか思い出した。おそらく隣国の王子ギーセルベルトだろう。私も幼い頃にお会いしたことがある上、ゲームでは攻略対象の一人だ。
ヴァランティーヌと結婚し国王となったゴーティエが悪政を施すようになり、かつての友人を諭すために軍を向かわせることになる正義の人。現状、国王にもゴーティエにも非はないはずなので、ゴーティエ王子からの要請には応じてくれることだろう。
「それでこちらに、ですか」
策があって行動していることを理解したのだろう。エルベルは微苦笑を浮かべた。
「ここはギーセルベルト殿下の指揮する軍が通る街道に近い。必要であればそこに合流するが、その前に確認したいことがある」
ゴーティエ王子が立ち上がる。そして腰にさげていた長剣を抜くなり、私の顔に剣先を向けた。
ああ、そうなるのか。
焦ることなく、私は運命を察した。
「貴女は誰だ?」
「ヴァランティーヌ・グールドンですわ」
「もう一人いるはずだ。下手な演技をすればその首を刎ねると思え」
そんなにも悲しそうなお顔で、冷たくおっしゃるのですね。
私は自然と涙を流した。
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