上 下
42 / 63
さあ、婚約破棄から始めましょう!

貴女は誰だ? 1

しおりを挟む
「急にここを訪れることにした件について察するところもあっただろうが……いよいよロドリク様が動き出した。ティエリ公爵とカミーユも向こうにつくらしい」

 そこで大きくため息をつく。
 ゴーティエ王子の衝撃的な発言にもかかわらず、アロルドとエルベルはそれぞれ目配せをしただけで落ち着いている。

「それは……ゴーティエさまと敵対するということでしょうか?」

 王弟ロドリクとゴーティエ王子の弟カミーユ、王家の血を引くティエリ公爵が手を結んでいるという報告は、ゲーム本編ではなかった。それぞれにそれぞれの理由があってゴーティエ王子と敵対する展開はあれど、共闘する話はなかったはずだ。

「ああ、そうだな」

 ゴーティエ王子は頷いた。これはよからぬ展開だ。
 想定外の事態に、ゲーム攻略知識を呼び出そうと記憶を巡っているとエルベルが挙手した。そのまま言葉を続ける。

「では、グールドン家はどちらにつくのでしょうね?」
「え?」

 ウチ?
 グールドン家の名を出されて、私は驚いた。なにを言い出したのだ。
 思考を中断してエルベルを見やる。彼はきょとんとしていた。

「不思議そうにしていらっしゃいますが、元々、宰相殿は王弟派でしょうに」
「かつてはそうだったかもしれませんけれど、ゴーティエさまと婚約が決まったのですから」
「なにを。政略結婚でしょう。人質としての立場をお忘れですか?」
「私に人質としての価値がなくなったかのような発言はどうかと思いますわ」

 グールドン家は確かに王弟派なのだ。ヴァランティーヌの父は現国王にいい顔をしているものの、祖母や叔父らは王弟派だったりする。宰相として国の発展に尽くすこと、王に逆らわないことを示すために、娘である私をゴーティエ王子の幼馴染にして忠義を誓っていたはずだ。
 私が返すと、エルベルは薄く笑った。見た者をぞくりとさせる嫌な笑み。

「価値、ねえ」
「エルベル、これ以上の発言は侮辱と見做すぞ」

 ゴーティエ王子が告げれば、エルベルは両手を小さく挙げた。

「ああ、それは失礼いたしました。でも、気にならないんですか、殿下は?」
「ヴァランティーヌをあの家に残していたら、いずれ処分される。ならばオレの手元に置いておくほうがいい」
「死にゆく様を見届けるために?」
「今度は死なせん」

 はっきりと宣言して、ゴーティエ王子は私の腰を引き寄せた。
 今度は……。ゴーティエさまは、私が死ぬ運命であることを知っているの?

「そうおっしゃいますが、もう彼女は死んでいるではありませんか」

 エルベルの発言に、場が凍りついた。
 私の腰にまわっていたゴーティエ王子の手が震える。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

婚約者が、私より従妹のことを信用しきっていたので、婚約破棄して譲ることにしました。どうですか?ハズレだったでしょう?

珠宮さくら
恋愛
婚約者が、従妹の言葉を信用しきっていて、婚約破棄することになった。 だが、彼は身をもって知ることとになる。自分が選んだ女の方が、とんでもないハズレだったことを。 全2話。

悪役令嬢の去った後、残された物は

たぬまる
恋愛
公爵令嬢シルビアが誕生パーティーで断罪され追放される。 シルビアは喜び去って行き 残された者達に不幸が降り注ぐ 気分転換に短編を書いてみました。

悪役令嬢の末路

ラプラス
恋愛
政略結婚ではあったけれど、夫を愛していたのは本当。でも、もう疲れてしまった。 だから…いいわよね、あなた?

初夜に「俺がお前を抱く事は無い!」と叫んだら長年の婚約者だった新妻に「気持ち悪い」と言われた上に父にも予想外の事を言われた男とその浮気女の話

ラララキヲ
恋愛
 長年の婚約者を欺いて平民女と浮気していた侯爵家長男。3年後の白い結婚での離婚を浮気女に約束して、新妻の寝室へと向かう。  初夜に「俺がお前を抱く事は無い!」と愛する夫から宣言された無様な女を嘲笑う為だけに。  しかし寝室に居た妻は……  希望通りの白い結婚と愛人との未来輝く生活の筈が……全てを周りに知られていた上に自分の父親である侯爵家当主から言われた言葉は──  一人の女性を蹴落として掴んだ彼らの未来は……── <【ざまぁ編】【イリーナ編】【コザック第二の人生編(ザマァ有)】となりました> ◇テンプレ浮気クソ男女。 ◇軽い触れ合い表現があるのでR15に ◇ふんわり世界観。ゆるふわ設定。 ◇ご都合展開。矛盾は察して下さい… ◇なろうにも上げてます。 ※HOTランキング入り(1位)!?[恋愛::3位]ありがとうございます!恐縮です!期待に添えればよいのですがッ!!(;><)

【完結】幼い頃から婚約を誓っていた伯爵に婚約破棄されましたが、数年後に驚くべき事実が発覚したので会いに行こうと思います

菊池 快晴
恋愛
令嬢メアリーは、幼い頃から将来を誓い合ったゼイン伯爵に婚約破棄される。 その隣には見知らぬ女性が立っていた。 二人は傍から見ても仲睦まじいカップルだった。 両家の挨拶を終えて、幸せな結婚前パーティで、その出来事は起こった。 メアリーは彼との出会いを思い返しながら打ちひしがれる。 数年後、心の傷がようやく癒えた頃、メアリーの前に、謎の女性が現れる。 彼女の口から発せられた言葉は、ゼインのとんでもない事実だった――。 ※ハッピーエンド&純愛 他サイトでも掲載しております。

私が死んだあとの世界で

もちもち太郎
恋愛
婚約破棄をされ断罪された公爵令嬢のマリーが死んだ。 初めはみんな喜んでいたが、時が経つにつれマリーの重要さに気づいて後悔する。 だが、もう遅い。なんてったって、私を断罪したのはあなた達なのですから。

いや、あんたらアホでしょ

青太郎
恋愛
約束は3年。 3年経ったら離縁する手筈だったのに… 彼らはそれを忘れてしまったのだろうか。 全7話程の短編です。

私が我慢する必要ありますか?

青太郎
恋愛
ある日前世の記憶が戻りました。 そして気付いてしまったのです。 私が我慢する必要ありますか? 他サイトでも公開中です

処理中です...