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さあ、婚約破棄から始めましょう!
主要人物たちの思惑 5
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ゴーティエ王子が私を見つめながら、心配そうに微笑む。
「もう怖がらなくていい。ここが現実だ。わかるだろう?」
「は、はい……目が覚めてよかったです」
今のキスはつまり、ちゃんと起きていることを自覚させるためってことでしょうか。刺激が強めでしたが……。
胸がドキドキしている。このままキスより先のことを、とねだってしまいそうな気分だ。引いてくれたことで名残惜しく感じてしまっている。ここにはエルベルとアロルドがいるのに。
ちらっと彼らに目をやると、二人ともやれやれといった表情を浮かべて見守っていた。
私たちが仲良くしていることについては、悪いようには思っていないってことね。
エルベルが訪ねてきた真意については、またそのうちに知ることになるのだろう。【気づいた側】が何を指しているのか、ちゃんと問いただす必要がある。
エルベルに対してどうアプローチをしたものかと考えている間に、ゴーティエ王子が二人に向き直った。
「――この部屋にヴァランティーヌがいることを話しておかなかったのは悪かったと思うが、どうしてこの部屋の近くをエルベルが通りかかったのかは気になるところだな」
「少々時間があったので、屋敷内を探検していただけですよ」
エルベルはゴーティエ王子の問いにさらりと何食わぬ声で答えた。
「行動するときは二人一組でと指示したはずだ」
「僕と対になっていた彼は部屋で休んでいたいと言うので、置いてきました。部屋にこもって休むなんて退屈ではないですか。警備のためにも屋敷内を知っておくのは良いことだと考えたのです。――むしろ、今回は何もなかったとはいえ、ヴァランティーヌ嬢を警備の兵を外に立てていない部屋の中に鎖で繋いで閉じ込めるなんて、その方が問題だと僕は考えますけど」
ゴーティエ王子相手に、エルベルは物怖じせずに指摘する。無理のある言い訳のような気がするが、とうとうと述べたあとに非難の言葉を添えれば、追及を避けられそうではある。
真実を語っている気はしないのがなあ……。エルベルの目的はなんなの?
ゴーティエ王子は鼻をふんと鳴らした。
「この屋敷の警備ならば心配ない。ここにオレたちがいることを知っているのはここにきた人間だけだ。普段から来る人も限られている」
そこまで告げて、ゴーティエ王子はエルベルに鋭い視線を向けた。
「――ああ、そうだな。裏切り者がいたら、安全は保障されないか」
睨まれたはずのエルベルは、とても穏やかな微笑みを浮かべた。
「僕が裏切り者だとおっしゃるのでしたら、城に帰れと命じてくださって結構ですよ。従いましょう」
「いや、別の用を命じるだけだ」
「承知いたしました。――では、この場は席を外しましょうか?」
エルベルが出て行きたい気持ちはよくわかる。ゴーティエ王子がピリピリしているのが明白だからだ。
だが、エルベルの提案にゴーティエ王子は首を横に振って却下した。
「ここに残れ、エルベル。せっかくだ、今のうちに話しておきたいことがある」
「さようでございますか……」
渋々といった様子でエルベルが承知する。それを待って、アロルドが席を用意した。
なんの話が始まるのかしら?
私とゴーティエ王子はベッドに腰を下ろし、その正面に座れるように椅子を配置してアロルドとエルベルが座ると、ゴーティエ王子が口を開いた。
「もう怖がらなくていい。ここが現実だ。わかるだろう?」
「は、はい……目が覚めてよかったです」
今のキスはつまり、ちゃんと起きていることを自覚させるためってことでしょうか。刺激が強めでしたが……。
胸がドキドキしている。このままキスより先のことを、とねだってしまいそうな気分だ。引いてくれたことで名残惜しく感じてしまっている。ここにはエルベルとアロルドがいるのに。
ちらっと彼らに目をやると、二人ともやれやれといった表情を浮かべて見守っていた。
私たちが仲良くしていることについては、悪いようには思っていないってことね。
エルベルが訪ねてきた真意については、またそのうちに知ることになるのだろう。【気づいた側】が何を指しているのか、ちゃんと問いただす必要がある。
エルベルに対してどうアプローチをしたものかと考えている間に、ゴーティエ王子が二人に向き直った。
「――この部屋にヴァランティーヌがいることを話しておかなかったのは悪かったと思うが、どうしてこの部屋の近くをエルベルが通りかかったのかは気になるところだな」
「少々時間があったので、屋敷内を探検していただけですよ」
エルベルはゴーティエ王子の問いにさらりと何食わぬ声で答えた。
「行動するときは二人一組でと指示したはずだ」
「僕と対になっていた彼は部屋で休んでいたいと言うので、置いてきました。部屋にこもって休むなんて退屈ではないですか。警備のためにも屋敷内を知っておくのは良いことだと考えたのです。――むしろ、今回は何もなかったとはいえ、ヴァランティーヌ嬢を警備の兵を外に立てていない部屋の中に鎖で繋いで閉じ込めるなんて、その方が問題だと僕は考えますけど」
ゴーティエ王子相手に、エルベルは物怖じせずに指摘する。無理のある言い訳のような気がするが、とうとうと述べたあとに非難の言葉を添えれば、追及を避けられそうではある。
真実を語っている気はしないのがなあ……。エルベルの目的はなんなの?
ゴーティエ王子は鼻をふんと鳴らした。
「この屋敷の警備ならば心配ない。ここにオレたちがいることを知っているのはここにきた人間だけだ。普段から来る人も限られている」
そこまで告げて、ゴーティエ王子はエルベルに鋭い視線を向けた。
「――ああ、そうだな。裏切り者がいたら、安全は保障されないか」
睨まれたはずのエルベルは、とても穏やかな微笑みを浮かべた。
「僕が裏切り者だとおっしゃるのでしたら、城に帰れと命じてくださって結構ですよ。従いましょう」
「いや、別の用を命じるだけだ」
「承知いたしました。――では、この場は席を外しましょうか?」
エルベルが出て行きたい気持ちはよくわかる。ゴーティエ王子がピリピリしているのが明白だからだ。
だが、エルベルの提案にゴーティエ王子は首を横に振って却下した。
「ここに残れ、エルベル。せっかくだ、今のうちに話しておきたいことがある」
「さようでございますか……」
渋々といった様子でエルベルが承知する。それを待って、アロルドが席を用意した。
なんの話が始まるのかしら?
私とゴーティエ王子はベッドに腰を下ろし、その正面に座れるように椅子を配置してアロルドとエルベルが座ると、ゴーティエ王子が口を開いた。
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