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さあ、婚約破棄から始めましょう!

主要人物たちの思惑 2

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 返事をすべきか迷っているうちにゆっくりとドアが開かれる。それが直前のノックと不釣り合いで、私はとっさに毛布を被った。

「起きているのか?」

 男性にしては高い方に感じられる小さな呼びかけは、ゴーティエ王子のものではなかった。アロルドのものでもない。

 え、誰?

 だが、この綺麗な声には聞き覚えがある。そのときは画面越しだったはずだ。
 声の記憶に間違いがなければ、そこにいるのは黒髪眼鏡のクール系爽やか青年のエルベル・ユーペルだ。
 ドアが閉まる音や風の動きから察するに、入ってきたのは彼のみ。

 なんで一人でこんな場所に?

 次に取る行動を考えていると、足音は着々とベッドに近づいてくる。できるだけ音を抑えるようにして歩みを進めているのが気になる。私が寝ているなら起こさないようにとの配慮かもしれないが、こうして近づいてくるのは眠っているかどうかを確認をするためだけだろうか。
 それにしても足音が異様に重い。自分の手元につながる鎖以外の金属音が部屋に響いて、私は状況を理解した。

 これは暗殺⁉︎

 迷いはなかった。こんなところで殺されるわけにはいかない。毛布をエルベルの姿が目に入る前に投げて、彼を覆い隠す。

「なっ‼︎」

 突然のことにエルベルが怯んだ。
 私は自分の左手首につながれた鎖を思いっきり引っ張り、立ち尽くすエルベルの身体にくるりと巻きつける。

 やった! 思ったより上手く拘束できた!

 自分の足元で響くじゃらじゃらと鳴る鎖の音で、高揚感がすっと消える。拘束できたのは僥倖であるが、それは自分の左手首につながっている鎖によって、なのだ。

 それはそれとして、この状況は私も逃げられないんで危険なんですけど。

 腕の立つ騎士を相手にどこまで素人が太刀打ちできるのだろうか。

「待て、君は本当にヴァランティーヌか⁉︎」

 うろたえる声。想定していた展開とは違うのだろう。
 私は鎖をしっかりと握る。

「私はヴァランティーヌです。エルベル、あなた何のつもりでこんなことを? 王太子の婚約者に害を与えたら、ただじゃ済まないでしょうに」

 しっかりと絡めとってエルベルの身動きを封じる。もがいているが、彼は諦めたのか静かになった。なお、毛布を全身に被ったままなので顔はわからない。

「おや、僕の名前をご存知だったとは。直接お話ししたことはなかったはずですが」
「アロルドから聞いていたから、そうじゃないかと思いまして」
「でも、君は僕の顔、見ていないでしょう?」

 指摘されて、言葉が出てこなくなった。

 確かに矛盾する!

 しまったと思ったが、言葉のあやだと告げて逃げるにはいささか喋りすぎている。

 さすがは頭脳系キャラ……って褒めたいけど、誘導されて引き出されたわけじゃなくて、たんに私の失言だと思うとへっぽこすぎじゃない?

 知略にとんだキャラであるヴァランティーヌに申し訳ない。冷や汗を流しながら次の言葉を探していると、エルベルは喉の奥で笑った。

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