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さあ、婚約破棄から始めましょう!

変わり始めるシナリオ 2

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 ゴーティエ王子の私室に設けられている応接用のスペースに私は案内される。革張りのソファーに腰を下ろして互いに向き合うと、カミーユ王子は口を開いた。

「姉さんと兄の間に何かあったのではありませんか? 結婚が絡んだ話だろうと考えておりますが、いかがでしょうか?」

 単刀直入な切り出しに、私は動じることはなかった。
 この話題の振り方からすると、カミーユ王子もゴーティエ王子の異変に気づいているってことかしらね。
 カミーユ王子から情報を引き出しておこうと、私はにこやかに微笑んだ。

「それは当然ですわ。婚約者候補から婚約者と名乗ることになりましたし、そのことはゴーティエ王子も大変喜んでくださりました。私も喜ばしいことと存じます。私と結ばれることになって、気持ちが高揚していらっしゃるのでしょう」

 穏やかにのほほんと告げると、カミーユ王子は疑いの眼差しを向けた。

「本当に、心から結婚を望んでいらっしゃいますか?」
「ええ。出会ったときから結婚を誓い合っていたのですから、嘘ではございません」
「…………」

 まだ探るような目でこちらを見つめている。
 何を知りたいのかしら?
 ゴーティエ王子を幼くしたような容姿のカミーユ王子はとても愛らしい。公務が続いてすぐに大人らしい振る舞いに馴染んでしまったゴーティエ王子にも、少年らしいこんな可愛い時代があったのだなあとしみじみ深く思う。
 そういえば、カミーユ王子もソフィエットの攻略対象だったわよね……。

「――先程は、いらぬ誤解を受けたくないと申しましたが、姉さんが望むのであれば、協力しても構いませんよ?」
「何をでしょう?」

 彼の言葉の意図が掴めなくて、私は小首を傾げる。
 カミーユ王子は不敵に笑った。

「兄との婚約破棄のために、一芝居しても構わないと申したのです、ヴァランティーヌ姉さん」

 天使のような彼からは想像しにくい悪い顔をしているが、ゴーティエ王子と比べたら仔猫の威嚇程度で可愛らしく感じられた。ゴーティエ王子が本気で怒ると、獅子の威嚇よりも怖い。
 ふむ。婚約破棄のために、ね……。
 私が予知を理由に婚約破棄を望んでいると知っているのか、あるいは実はゴーティエ王子が何らかの理由で婚約破棄を望んでおり、それに加担しようとしているのか――それはまだわからない。
 とりあえず、私が婚約破棄を望んでいるわけではないと訂正しておこうかしら。そこからの反応次第で、出す情報を変えよう。

「あら、それなら間に合っておりますので、ご心配なく」
「それは、アロルドさんと逃げる計画が進んでいるからですか?」
「まさか。そもそも、婚約破棄をするつもりはありませんもの。どうしてそのようなご心配を?」

 逆に私から尋ねれば、カミーユ王子はバツが悪そうな顔をして、下を向いた。

「何かあったのはあなたさまのほうではありませんこと?」

 黙ったままでも構わないのだが、理由が知りたい。ゴーティエ王子の留守中に私と二人きりで話そうなどと考えてやって来たのだ。独占欲の強いゴーティエ王子に見つかったら、おそらくタダでは済まされない。危険をおかしてでもどうにかしたいことがあるはずなのだ。

「……姉さん。本当に結婚を望まれているのですか?」

 声に涙が混じっている。苦しそうだ。

「どうしたの?」
「僕はヴァランティーヌ姉さんのことが好きでした。兄の愛と比べたら大した想いではなかったのでしょうけど」
「好いてくださり、嬉しく思います……けど、それとこれとはなんの関係が?」

 要領を得ない。カミーユ王子は俯いたままで、表情がよくわからなかった。

「お伝えしにくいことなのですが……きっとこの結婚はうまくいきません。結婚を取りやめて、ヴァランティーヌ姉さんには領地で余生を送ってほしいのです」
「どうしてそのようなことを?」

 また予言者による占いだろうか。予言者の誰かが、私とゴーティエ王子を引き離そうとしているという可能性はある。
 私が促すように問うと、カミーユ王子はやっと顔を上げた。潤んだ瞳が私にしっかりと向けられている。

「近々、クーデターが起きます」

 え? クーデター、だと?
 この場ではおよそ聞かないだろう単語に、私は目をパチクリさせていた。
 カミーユ王子は言葉を続ける。

「父と兄はそのときに命を落とすことになるでしょう。僕はあらかじめ逃げますが」
「え、え? お待ちください。クーデターだなんて物騒な。それに、その情報を握っていて自分だけ逃げるなんて……主犯、あるいは近いところにご自分がいると明かしているようなものではありませんか」

 私が指摘すると、カミーユ王子はクスッと笑った。感情の起伏が激しい。どうしたというのだろう。

「さすがはヴァランティーヌ姉さんですね」
「現体制に不満があるのですか? でしたら――」
「違うよ、姉さん」

 彼は間のローテーブルに片手をつけると、私の顔に自身の美麗な顔を寄せた。凍てつくような青い瞳が私を映す。

「あんたがこの国を狂わせるんだ。だからその前に出て行けって命じている。僕はヴァランティーヌ姉さんのことが好きなんだ」
「まさか、あなた……」

 カミーユ王子の指摘は、確かにもっともだと感じた。
 彼は《ヴァランティーヌ》が好きなのであって、《私》のことが好きなわけではないと宣言している。
 つまり、見抜かれている!
 冷や汗が流れた。

「考えて、姉さん。姉さんだって兄さんを失いたくないだろう? だからここにいるんでしょう?」

 どこまで察しているのかはわからない。返答に困っていると、ドアが開いた。
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