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さあ、婚約破棄から始めましょう!

甘い拘束に酔いしれて 5

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「……はぁ」

 気絶して目が覚めたとき、ゴーティエ王子は私を抱きしめて眠っていた。私はベッドの端に手首を縛られた状態で、逃げることはできない。
 なんでこんなことに……。
 ため息をついてわかったが、声がすっかり枯れている。ひょっとしたら、私に助けを呼ばせないためかもしれない。
 ゴーティエ王子は充分に有能な人のはずなんだけど……。
 抱かれているときに気づいたのだが、どうもゴーティエ王子は寝不足だったようだ。今は気持ちよさそうに眠っているので、多少は改善すると思う。言動が妙だったのは寝不足で本来の能力を発揮できなかったのだと考えられなくもない。

 しかし、それはそれとして私が前世を思い出してから様子がおかしい。振る舞いが極端だ。
 こんな人ではなかったのに――いや、まあ、溺愛からの監禁はありがちか。アロルドさまもああおっしゃっていたし……。
 婚約破棄をしたいだけだったはずが、なにゆえにこうなったのか。生き延びたいという願いを叶えるために必死になりすぎている気がする。

 部屋は暗い。明け方までは時間があるようだ。
 もうひと眠りしておこう……起きてから再開する可能性もあるもんね。体力は回復させておかねば。
 ゴーティエ王子の体力は並ではない。それに付き合うことを考えると、休めるときには休むのが吉だ。
 寝直すことを決意してまぶたを閉じ――そこで肌がザワッとし、思わず目を見開く。違和感を得た窓際に顔を向けて目を凝らすと、人影がある。

「誰⁉︎」

 ゴーティエ王子を起こすためにも声を張り上げたつもりだが、かすれてしまっていて音量が足りない。
 ただ、ゴーティエ王子は目を開けてはくれなかったものの、闖入者には私が起きていることが伝わったらしかった。足音が近づいてくる。
 って、やっばっ。私、拘束されて動けないじゃない!
 ごそごそ動いてゴーティエ王子を起こそうと試みるが、寝息を立てているだけでぐっすり熟睡中。反応はない。
 早く起きてください! ピンチですよ‼︎
 こんな時間に第一王子の私室に入り込んでくる人間なんてロクな存在じゃないに決まっている。自分だけでなく、ゴーティエ王子も危険だ。
 どうしよう。声をかけたのは失敗だった⁉︎
 私が身を硬くして冷や汗を流していると、ベッドの隣に立たれた。怖い。

「――ふふ。ヴァランティーヌ嬢は起きていたのですね」

 男性とも女性ともつかぬ艶っぽい声には聞き覚えがあった。正確には、前世の記憶の中で、だが。
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