18 / 70
さあ、婚約破棄から始めましょう!
甘い拘束に酔いしれて 1
しおりを挟む
ゴーティエ王子の部屋に案内される。御付きの人たちは廊下で待機しているので二人きりだ。
一昨日にも訪れたゴーティエ王子の私室であるが、あの日は横抱きのまま足早に通過しただけだったので今日はじっくり様子を知ることができた。
第一王子の私室というだけあって、広いだけじゃなく装飾も多い。我が家とは雲泥の差だ。私のうちだって名家で裕福な家なのだけども、ここまできらびやかではない。
そしてどの調度品も一級品であることが一目でわかった。両親から調度品の見方を教えられていてよかったと密かに感謝する。迂闊に触れて汚したり壊してしまったら弁償できないものばかりなのだ。
万が一のことがあってはまずいと緊張していると、ゴーティエ王子に手を引かれて隣の部屋に連れていかれる。その先にあったのは、天蓋付きの大きなベッドだ。
ええ……ここに一人で寝ているの? それとも、女性をはべらせて寝ているのかしら……。
数人は余裕で寝転がれる広い寝台を眺めながら、私は若い女性たちと眠るゴーティエ王子を想像する。美男美女に豪華なベッドが揃っているとなると絵としては綺麗だが、胸の奥がチクリと痛んだ。
「――ヴァランティーヌ」
「は、はい」
彼の声はあからさまに気が立っていて、私は背筋をシャキッと伸ばす。
ゴーティエ王子は私の手を離すと、しっかり向き合って私の顔を真っ直ぐに見た。顔には必死そうな、切なげな表情が浮かんでいる。
なぜ、そのような顔をするのですか?
私の鼓動は少しずつ早くなった。
「未来は変わらないのか?」
尋ねて、私の肩に手を添えた。一瞬、両手に力が込められた気がしたが、それらは激しく震えているだけで肩の痛みは感じられない。添えただけで、掴まれていないらしかった。
ゴーティエ王子?
私は声を出せない。顔面蒼白の彼を見ていると、彼が心配なのと同時に恐ろしかった。
彼は黙った私に代わるように言葉を続ける。
「オレは貴女との子がほしい。もしかすると、幸せな結婚にならないかもしれない。それでも、貴女と一緒にいられるならオレはそれでいいんだ。なぜ神は、オレから貴女と子を奪おうとするんだ?」
その言葉を聞いた直後、私の視界がくるりと回転した。次には天蓋と、まもなくゴーティエ王子の悲痛な顔が目に入る。
「ヴァランティーヌ、予言は嘘だったと言ってくれ。気が動転して口走ってしまっただけなのだと、そう告げてくれよ。ずっと、ずっと待っていたんだ。貴女を手に入れて、貴女を幸せにする日を。なのに、どうして……」
彼の綺麗な顔を涙が濡らした。
ああ、胸が痛い。
シナリオ通りであれば私は死ぬことになる。でも、これまでの情報からするとシナリオは少し変化しているようだ。ひょっとしたら、私は死なずに済むかもしれない。
ただ、それによって物語にどういう影響が出るのかは未知数だ。私が前世を思い出して動き始める前から筋書きが変わっていたらしいことを思うと、なおさらどう変わっていくのか推測できない。
一昨日にも訪れたゴーティエ王子の私室であるが、あの日は横抱きのまま足早に通過しただけだったので今日はじっくり様子を知ることができた。
第一王子の私室というだけあって、広いだけじゃなく装飾も多い。我が家とは雲泥の差だ。私のうちだって名家で裕福な家なのだけども、ここまできらびやかではない。
そしてどの調度品も一級品であることが一目でわかった。両親から調度品の見方を教えられていてよかったと密かに感謝する。迂闊に触れて汚したり壊してしまったら弁償できないものばかりなのだ。
万が一のことがあってはまずいと緊張していると、ゴーティエ王子に手を引かれて隣の部屋に連れていかれる。その先にあったのは、天蓋付きの大きなベッドだ。
ええ……ここに一人で寝ているの? それとも、女性をはべらせて寝ているのかしら……。
数人は余裕で寝転がれる広い寝台を眺めながら、私は若い女性たちと眠るゴーティエ王子を想像する。美男美女に豪華なベッドが揃っているとなると絵としては綺麗だが、胸の奥がチクリと痛んだ。
「――ヴァランティーヌ」
「は、はい」
彼の声はあからさまに気が立っていて、私は背筋をシャキッと伸ばす。
ゴーティエ王子は私の手を離すと、しっかり向き合って私の顔を真っ直ぐに見た。顔には必死そうな、切なげな表情が浮かんでいる。
なぜ、そのような顔をするのですか?
私の鼓動は少しずつ早くなった。
「未来は変わらないのか?」
尋ねて、私の肩に手を添えた。一瞬、両手に力が込められた気がしたが、それらは激しく震えているだけで肩の痛みは感じられない。添えただけで、掴まれていないらしかった。
ゴーティエ王子?
私は声を出せない。顔面蒼白の彼を見ていると、彼が心配なのと同時に恐ろしかった。
彼は黙った私に代わるように言葉を続ける。
「オレは貴女との子がほしい。もしかすると、幸せな結婚にならないかもしれない。それでも、貴女と一緒にいられるならオレはそれでいいんだ。なぜ神は、オレから貴女と子を奪おうとするんだ?」
その言葉を聞いた直後、私の視界がくるりと回転した。次には天蓋と、まもなくゴーティエ王子の悲痛な顔が目に入る。
「ヴァランティーヌ、予言は嘘だったと言ってくれ。気が動転して口走ってしまっただけなのだと、そう告げてくれよ。ずっと、ずっと待っていたんだ。貴女を手に入れて、貴女を幸せにする日を。なのに、どうして……」
彼の綺麗な顔を涙が濡らした。
ああ、胸が痛い。
シナリオ通りであれば私は死ぬことになる。でも、これまでの情報からするとシナリオは少し変化しているようだ。ひょっとしたら、私は死なずに済むかもしれない。
ただ、それによって物語にどういう影響が出るのかは未知数だ。私が前世を思い出して動き始める前から筋書きが変わっていたらしいことを思うと、なおさらどう変わっていくのか推測できない。
5
お気に入りに追加
1,597
あなたにおすすめの小説
5年も苦しんだのだから、もうスッキリ幸せになってもいいですよね?
gacchi
恋愛
13歳の学園入学時から5年、第一王子と婚約しているミレーヌは王子妃教育に疲れていた。好きでもない王子のために苦労する意味ってあるんでしょうか。
そんなミレーヌに王子は新しい恋人を連れて
「婚約解消してくれる?優しいミレーヌなら許してくれるよね?」
もう私、こんな婚約者忘れてスッキリ幸せになってもいいですよね?
3/5 1章完結しました。おまけの後、2章になります。
4/4 完結しました。奨励賞受賞ありがとうございました。
1章が書籍になりました。
政略より愛を選んだ結婚。~後悔は十年後にやってきた。~
つくも茄子
恋愛
幼い頃からの婚約者であった侯爵令嬢との婚約を解消して、学生時代からの恋人と結婚した王太子殿下。
政略よりも愛を選んだ生活は思っていたのとは違っていた。「お幸せに」と微笑んだ元婚約者。結婚によって去っていた側近達。愛する妻の妃教育がままならない中での出産。世継ぎの王子の誕生を望んだものの産まれたのは王女だった。妻に瓜二つの娘は可愛い。無邪気な娘は欲望のままに動く。断罪の時、全てが明らかになった。王太子の思い描いていた未来は元から無かったものだった。後悔は続く。どこから間違っていたのか。
他サイトにも公開中。
我慢するだけの日々はもう終わりにします
風見ゆうみ
恋愛
「レンウィル公爵も素敵だけれど、あなたの婚約者も素敵ね」伯爵の爵位を持つ父の後妻の連れ子であるロザンヌは、私、アリカ・ルージーの婚約者シーロンをうっとりとした目で見つめて言った――。
学園でのパーティーに出席した際、シーロンからパーティー会場の入口で「今日はロザンヌと出席するから、君は1人で中に入ってほしい」と言われた挙げ句、ロザンヌからは「あなたにはお似合いの相手を用意しておいた」と言われ、複数人の男子生徒にどこかへ連れ去られそうになってしまう。
そんな私を助けてくれたのは、ロザンヌが想いを寄せている相手、若き公爵ギルバート・レンウィルだった。
※本編完結しましたが、番外編を更新中です。
※史実とは関係なく、設定もゆるい、ご都合主義です。
※独特の世界観です。
※中世〜近世ヨーロッパ風で貴族制度はありますが、法律、武器、食べ物など、その他諸々は現代風です。話を進めるにあたり、都合の良い世界観となっています。
※誤字脱字など見直して気を付けているつもりですが、やはりございます。申し訳ございません。
[完]本好き元地味令嬢〜婚約破棄に浮かれていたら王太子妃になりました〜
桐生桜月姫
恋愛
シャーロット侯爵令嬢は地味で大人しいが、勉強・魔法がパーフェクトでいつも1番、それが婚約破棄されるまでの彼女の周りからの評価だった。
だが、婚約破棄されて現れた本来の彼女は輝かんばかりの銀髪にアメジストの瞳を持つ超絶美人な行動過激派だった⁉︎
本が大好きな彼女は婚約破棄後に国立図書館の司書になるがそこで待っていたのは幼馴染である王太子からの溺愛⁉︎
〜これはシャーロットの婚約破棄から始まる波瀾万丈の人生を綴った物語である〜
夕方6時に毎日予約更新です。
1話あたり超短いです。
毎日ちょこちょこ読みたい人向けです。
【完結】皇太子の愛人が懐妊した事を、お妃様は結婚式の一週間後に知りました。皇太子様はお妃様を愛するつもりは無いようです。
五月ふう
恋愛
リックストン国皇太子ポール・リックストンの部屋。
「マティア。僕は一生、君を愛するつもりはない。」
今日は結婚式前夜。婚約者のポールの声が部屋に響き渡る。
「そう……。」
マティアは小さく笑みを浮かべ、ゆっくりとソファーに身を預けた。
明日、ポールの花嫁になるはずの彼女の名前はマティア・ドントール。ドントール国第一王女。21歳。
リッカルド国とドントール国の和平のために、マティアはこの国に嫁いできた。ポールとの結婚は政略的なもの。彼らの意志は一切介入していない。
「どんなことがあっても、僕は君を王妃とは認めない。」
ポールはマティアを憎しみを込めた目でマティアを見つめる。美しい黒髪に青い瞳。ドントール国の宝石と評されるマティア。
「私が……ずっと貴方を好きだったと知っても、妻として認めてくれないの……?」
「ちっ……」
ポールは顔をしかめて舌打ちをした。
「……だからどうした。幼いころのくだらない感情に……今更意味はない。」
ポールは険しい顔でマティアを睨みつける。銀色の髪に赤い瞳のポール。マティアにとってポールは大切な初恋の相手。
だが、ポールにはマティアを愛することはできない理由があった。
二人の結婚式が行われた一週間後、マティアは衝撃の事実を知ることになる。
「サラが懐妊したですって‥‥‥!?」
婚約者に毒を飲まされた私から【毒を分解しました】と聞こえてきました。え?
こん
恋愛
成人パーティーに参加した私は言われのない罪で婚約者に問い詰められ、遂には毒殺をしようとしたと疑われる。
「あくまでシラを切るつもりだな。だが、これもお前がこれを飲めばわかる話だ。これを飲め!」
そう言って婚約者は毒の入ったグラスを渡す。渡された私は躊躇なくグラスを一気に煽る。味は普通だ。しかし、飲んでから30秒経ったあたりで苦しくなり初め、もう無理かも知れないと思った時だった。
【毒を検知しました】
「え?」
私から感情のない声がし、しまいには毒を分解してしまった。私が驚いている所に友達の魔法使いが駆けつける。
※なろう様で掲載した作品を少し変えたものです
うたた寝している間に運命が変わりました。
gacchi
恋愛
優柔不断な第三王子フレディ様の婚約者として、幼いころから色々と苦労してきたけど、最近はもう呆れてしまって放置気味。そんな中、お義姉様がフレディ様の子を身ごもった?私との婚約は解消?私は学園を卒業したら修道院へ入れられることに。…だったはずなのに、カフェテリアでうたた寝していたら、私の運命は変わってしまったようです。
母の中で私の価値はゼロのまま、家の恥にしかならないと養子に出され、それを鵜呑みにした父に縁を切られたおかげで幸せになれました
珠宮さくら
恋愛
伯爵家に生まれたケイトリン・オールドリッチ。跡継ぎの兄と母に似ている妹。その2人が何をしても母は怒ることをしなかった。
なのに母に似ていないという理由で、ケイトリンは理不尽な目にあい続けていた。そんな日々に嫌気がさしたケイトリンは、兄妹を超えるために頑張るようになっていくのだが……。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる