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さあ、婚約破棄から始めましょう!

甘い拘束に酔いしれて 1

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 ゴーティエ王子の部屋に案内される。御付きの人たちは廊下で待機しているので二人きりだ。
 一昨日にも訪れたゴーティエ王子の私室であるが、あの日は横抱きのまま足早に通過しただけだったので今日はじっくり様子を知ることができた。
 第一王子の私室というだけあって、広いだけじゃなく装飾も多い。我が家とは雲泥の差だ。私のうちだって名家で裕福な家なのだけども、ここまできらびやかではない。
 そしてどの調度品も一級品であることが一目でわかった。両親から調度品の見方を教えられていてよかったと密かに感謝する。迂闊に触れて汚したり壊してしまったら弁償できないものばかりなのだ。
 万が一のことがあってはまずいと緊張していると、ゴーティエ王子に手を引かれて隣の部屋に連れていかれる。その先にあったのは、天蓋付きの大きなベッドだ。
 ええ……ここに一人で寝ているの? それとも、女性をはべらせて寝ているのかしら……。
 数人は余裕で寝転がれる広い寝台を眺めながら、私は若い女性たちと眠るゴーティエ王子を想像する。美男美女に豪華なベッドが揃っているとなると絵としては綺麗だが、胸の奥がチクリと痛んだ。

「――ヴァランティーヌ」
「は、はい」

 彼の声はあからさまに気が立っていて、私は背筋をシャキッと伸ばす。
 ゴーティエ王子は私の手を離すと、しっかり向き合って私の顔を真っ直ぐに見た。顔には必死そうな、切なげな表情が浮かんでいる。
 なぜ、そのような顔をするのですか?
 私の鼓動は少しずつ早くなった。

「未来は変わらないのか?」

 尋ねて、私の肩に手を添えた。一瞬、両手に力が込められた気がしたが、それらは激しく震えているだけで肩の痛みは感じられない。添えただけで、掴まれていないらしかった。
 ゴーティエ王子?
 私は声を出せない。顔面蒼白の彼を見ていると、彼が心配なのと同時に恐ろしかった。
 彼は黙った私に代わるように言葉を続ける。

「オレは貴女との子がほしい。もしかすると、幸せな結婚にならないかもしれない。それでも、貴女と一緒にいられるならオレはそれでいいんだ。なぜ神は、オレから貴女と子を奪おうとするんだ?」

 その言葉を聞いた直後、私の視界がくるりと回転した。次には天蓋と、まもなくゴーティエ王子の悲痛な顔が目に入る。

「ヴァランティーヌ、予言は嘘だったと言ってくれ。気が動転して口走ってしまっただけなのだと、そう告げてくれよ。ずっと、ずっと待っていたんだ。貴女を手に入れて、貴女を幸せにする日を。なのに、どうして……」

 彼の綺麗な顔を涙が濡らした。
 ああ、胸が痛い。
 シナリオ通りであれば私は死ぬことになる。でも、これまでの情報からするとシナリオは少し変化しているようだ。ひょっとしたら、私は死なずに済むかもしれない。
 ただ、それによって物語にどういう影響が出るのかは未知数だ。私が前世を思い出して動き始める前から筋書きが変わっていたらしいことを思うと、なおさらどう変わっていくのか推測できない。
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