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さあ、婚約破棄から始めましょう!

思惑どおりにならない 2

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 私がゆっくりと振り向くと、そこには怖い目をしたゴーティエ王子が立っていた。彼に睨まれているアロルドは涼しい顔をしている。

「遅くなってすまなかったな、ヴァランティーヌ。――では、オレの婚約者を口説く不届き者は退場願おうか?」

 アロルドに向けられたものは、目つきだけでなく声も低くて怖かった。私への声かけが甘く優しいものだったから、なおさらその落差が激しくておそろしい。

「自分で呼び出しておいてそれはないだろう、ゴーティエ」
「オレの目が届かない場所でヴァランティーヌに話しかけるのは禁じよう」

 アロルドに命じるなり、ゴーティエ王子は私の身体を引き寄せた。ギュウっときつく抱きしめて顔を近づけると、私をさりげなく嗅いでいる。
 くすぐったい……。
 昨日は一日中顔を合わせなかったので、その反動で過剰なスキンシップになっているのだと思っておこう。

「おいおい。挨拶ぐらいいいじゃないか。顔見知りなんだし」
「今度ヴァランティーヌに余計な話をしたら決闘を申し込む」
「あのな……」

 アロルドがあきれている。頭痛を覚えたのか、額に手を当てて俯いていた。
 婚約破棄の提案でここまで変わるものなのかしら?
 ゴーティエ王子の気持ちがよくわからない。愛情を持って接してくれているのはわかるのだけども、私の周囲から異性を排除しようとするのが理解できない。

「――君たちが俺の前でイチャイチャするのはまったく構わないが、少しは本題のことに触れてくれないか? 見せつけたいだけなら、部屋のほうが都合がいいと思うんだが」

 アロルドの提案に、ゴーティエ王子は私を抱きしめる力を強める。

「……悪趣味だな」

 腹部のあたりをさわさわと撫でられて、私はくすぐったさに耐えた。これはなんの拷問ですか、ゴーティエ王子。

「君はどういう想像をしたんだ」

 ゴーティエ王子がよからぬことを考えたらしいことは口調からわかる。だからだろう、アロルドの声が引き気味だった。
 友人にこんな態度をさせるなんて、どうなんでしょうね……?

「オレたちが愛し合っているさまは、詰所で見せつけたつもりだったんだがな。そんなにオレのヴァランティーヌへの愛情が疑わしいのであれば、証明してやるのもやぶさかではないぞ」
「いえ、それ以上は結構です」

 ゴーティエ王子の言葉にかぶせるくらいの勢いでアロルドが拒否を示した。ありがたい。
 詰所でのアレはやっぱり牽制のつもりだったのか……。
 思い出すと恥ずかしくなる。人前であのような熱烈な口づけは一般的にはしないものだからだ。
 気を取り直そう。
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