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さあ、婚約破棄から始めましょう!
恋は空回る 4
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バスタブにお湯がはられる。隣の部屋に湯を溜める場所があり、そこから注がれるようになっているらしい。我が家のお風呂とは仕組みが違って興味深い。
「――おとなしいな」
私の身体を泡だてた布で優しく拭いながらゴーティエ王子が呟く。
「抵抗するのも疲れました」
ため息混じりに答えると、ゴーティエ王子はフッと小さく笑う。
馬車の中で愛されまくった私は、もう体力切れなのである。普通の御令嬢として育てられているので、体力はあまりないのだ。ダンスレッスン以外は運動らしい運動はしなかったし。身の回りのことも使用人たちがやってくれるので、そんなに動かずに済む。体力は必要ない。
「そうか。――風呂は使用人に手伝ってもらうのか?」
「髪を洗うときは時々」
長い髪なので、一人で洗うには大変なのだ。頻繁に洗うわけではないにしろ、髪を整える際には手助けが必要なのだった。
私の返事に、ゴーティエ王子の手が止まる。
「男性に触れさせることはなかっただろうな?」
「ええ、私の身の回りの世話をする使用人は全て女性ですので。その点はご心配なく」
本当に嫉妬深い人である。下手したら監禁ルートもあるんじゃなかろうか。
ゲーム内ではそういう話はなかったはずだけども。
私が微苦笑を浮かべると、ゴーティエ王子はホッと息をついた。
「……なんだろうな、貴女との関係を周囲に認められて浮かれている一方で、独占権を得たと錯覚している気持ちも感じられてよくないな。オレのことが重いと、煩わしいと感じているなら、正直に言ってくれ」
身体を洗う作業を再開させたゴーティエ王子は、懺悔するように告げる。自分の感情の動きに戸惑っているようだ。
私はゆっくりと首を横に振って否定した。
「別に不快ではありませんわ。愛され慣れていなくて、どうお応えしたものかわかりませんので、あなたさまが望む反応ができていないことは否めませんが」
投げやりな気持ちになることはしばしばだし、流されてしまっているとも思うけれど、不快だと感じたことはないのである。そこは多分、ゴーティエ王子がヴァランティーヌと築いてきた関係が良好だったおかげなのだろう。
「そうか……想像よりも可愛い答えで驚いた。オレと結ばれるのが嫌で婚約をなかったことにしたいわけではないのだな……」
しみじみと言われて、私はふと思った。
「嫌われたほうがよかったみたいな言い方ですね」
「そのほうがわかりやすいからな。その理由であっても、感情的には諦められないだろうが、周囲の説得はしやすい。でも、時が解決してくれるだろう」
私の指摘に、ゴーティエ王子は真面目な声で応じた。
「私があなたさまを嫌いであっても婚約をなかったことにできないなら、お飾りとしての結婚になるでしょうね」
「そうなるだろうな。貴女には悪いが、付き合わせることになるだろう。無理矢理抱いて、後継者を産むことを強要することになっただろうな」
「それもまた、お仕事でしょうから、やむなしでしょうね」
私は頷いた。王太子妃としての仕事だと割り切る覚悟は必要なのだろうと。
「――おとなしいな」
私の身体を泡だてた布で優しく拭いながらゴーティエ王子が呟く。
「抵抗するのも疲れました」
ため息混じりに答えると、ゴーティエ王子はフッと小さく笑う。
馬車の中で愛されまくった私は、もう体力切れなのである。普通の御令嬢として育てられているので、体力はあまりないのだ。ダンスレッスン以外は運動らしい運動はしなかったし。身の回りのことも使用人たちがやってくれるので、そんなに動かずに済む。体力は必要ない。
「そうか。――風呂は使用人に手伝ってもらうのか?」
「髪を洗うときは時々」
長い髪なので、一人で洗うには大変なのだ。頻繁に洗うわけではないにしろ、髪を整える際には手助けが必要なのだった。
私の返事に、ゴーティエ王子の手が止まる。
「男性に触れさせることはなかっただろうな?」
「ええ、私の身の回りの世話をする使用人は全て女性ですので。その点はご心配なく」
本当に嫉妬深い人である。下手したら監禁ルートもあるんじゃなかろうか。
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私が微苦笑を浮かべると、ゴーティエ王子はホッと息をついた。
「……なんだろうな、貴女との関係を周囲に認められて浮かれている一方で、独占権を得たと錯覚している気持ちも感じられてよくないな。オレのことが重いと、煩わしいと感じているなら、正直に言ってくれ」
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私はゆっくりと首を横に振って否定した。
「別に不快ではありませんわ。愛され慣れていなくて、どうお応えしたものかわかりませんので、あなたさまが望む反応ができていないことは否めませんが」
投げやりな気持ちになることはしばしばだし、流されてしまっているとも思うけれど、不快だと感じたことはないのである。そこは多分、ゴーティエ王子がヴァランティーヌと築いてきた関係が良好だったおかげなのだろう。
「そうか……想像よりも可愛い答えで驚いた。オレと結ばれるのが嫌で婚約をなかったことにしたいわけではないのだな……」
しみじみと言われて、私はふと思った。
「嫌われたほうがよかったみたいな言い方ですね」
「そのほうがわかりやすいからな。その理由であっても、感情的には諦められないだろうが、周囲の説得はしやすい。でも、時が解決してくれるだろう」
私の指摘に、ゴーティエ王子は真面目な声で応じた。
「私があなたさまを嫌いであっても婚約をなかったことにできないなら、お飾りとしての結婚になるでしょうね」
「そうなるだろうな。貴女には悪いが、付き合わせることになるだろう。無理矢理抱いて、後継者を産むことを強要することになっただろうな」
「それもまた、お仕事でしょうから、やむなしでしょうね」
私は頷いた。王太子妃としての仕事だと割り切る覚悟は必要なのだろうと。
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