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さあ、婚約破棄から始めましょう!
それならこれでどうだッ! 3
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――と、その時だ。
「おい、オレの最愛の婚約者に手を出すとは、どういう了見ではたらいているのか説明していただこうか、アロルド」
鋭く刺すような声が詰所に響く。ゴーティエ王子の声だ。
アロルドの手はビクッと震えたのちに私の頬から離れて行く。
かと思うと、パラソルが引っ張られて地面に落ち、私の身体は背後からやって来た人物に抱きすくめられてしまう。
「何をやっているんだ、ヴァランティーヌ。こういうときこそ毅然とした態度で逃れなければダメじゃないか」
「す、すみません、ゴーティエ王子……」
私を背中側から抱きしめて耳元で叱責したのはゴーティエ王子だった。
なんでこんなところに?
ここにはお付きもいたのに誰も止めようとしなかったのは、私が助けを求めなかったからもあるだろうし、アロルドも侯爵家の人間なので下手に割り込むと面倒ごとになりかねなかったからだろう。警戒するようにちゃんと言っておけばよかった。
心の中で反省していると、なにやら様子がおかしいことに気づく。いつまで背後にくっついているんだ、ゴーティエ王子。
「ゴーティエ、悪かった。そんなに怒らないでくれ。あまりにも君の婚約者が可愛いから、少しからかってみたくなったんだよ。挨拶程度の頬への口づけくらいなら、許容できる範囲だろ?」
アロルドの声がちょっと遠い。数歩下がって私たちの様子をうかがっている。ゴーティエ王子の殺気に気圧されているように見えた。
なだめようと弁解するアロルドに、ゴーティエ王子はそれこそ獅子が威嚇するような調子で鼻を鳴らした。
「あいにく、許容範囲外だな。オレの婚約者に触れることさえ許せぬ。しかも素手でなんて、もってのほかだ。頬への口づけは万死に値する。未遂でよかったな」
おお、こわっ。めちゃくちゃお怒りですね、ゴーティエ王子……
私が震えていると、ゴーティエ王子の抱擁がきつくなった。
「ああ、アロルドが怖かったのだな、ヴァランティーヌ。かわいそうに。こんなに怯えて」
あ、いえ。恐れているのはあなたさまです――とは言える状況にない。
ゴーティエ王子の指先が私の頬をそっと撫でていく。
「泣かずによく耐えた。貴女は強い女性だ」
囁かれると背中がゾクゾクする。恐怖でなにも言葉が出ずにいると、ゴーティエ王子が動く。私の顔を横に向けさせると、唇を重ねてきた。
「んっ、ふぅっ……⁉︎」
触れるだけではなかった。舌がにゅるりと入り込み、歯列をなぞる。快感を引き出す動きに翻弄されているうちに口が自然と弛緩して、舌の侵入を許してしまった。
「あっ……」
ジュルジュルとわざとらしく音を立てられ、唾液が流しこまれる。拒もうとすれば、身体は優しく拘束されてしまった。
頭がクラクラする……
軽い酸欠で意識が朦朧としてきた。飲み込めない唾液が口の端からこぼれていく。
「ヴァランティーヌ。視察はこの辺で切り上げて、部屋に戻ろうか」
ゴーティエ王子は私の返事を待たなかった。私の身体を軽々と抱きあげて歩き出してしまう。アロルドが何も言わなかったのは、あっけに取られていたからだろうか。
こんなことをしなくてもいいのに……
無抵抗のまま運ばれたのは、ゴーティエ王子が乗ってきたらしい馬車の中だった。
「おい、オレの最愛の婚約者に手を出すとは、どういう了見ではたらいているのか説明していただこうか、アロルド」
鋭く刺すような声が詰所に響く。ゴーティエ王子の声だ。
アロルドの手はビクッと震えたのちに私の頬から離れて行く。
かと思うと、パラソルが引っ張られて地面に落ち、私の身体は背後からやって来た人物に抱きすくめられてしまう。
「何をやっているんだ、ヴァランティーヌ。こういうときこそ毅然とした態度で逃れなければダメじゃないか」
「す、すみません、ゴーティエ王子……」
私を背中側から抱きしめて耳元で叱責したのはゴーティエ王子だった。
なんでこんなところに?
ここにはお付きもいたのに誰も止めようとしなかったのは、私が助けを求めなかったからもあるだろうし、アロルドも侯爵家の人間なので下手に割り込むと面倒ごとになりかねなかったからだろう。警戒するようにちゃんと言っておけばよかった。
心の中で反省していると、なにやら様子がおかしいことに気づく。いつまで背後にくっついているんだ、ゴーティエ王子。
「ゴーティエ、悪かった。そんなに怒らないでくれ。あまりにも君の婚約者が可愛いから、少しからかってみたくなったんだよ。挨拶程度の頬への口づけくらいなら、許容できる範囲だろ?」
アロルドの声がちょっと遠い。数歩下がって私たちの様子をうかがっている。ゴーティエ王子の殺気に気圧されているように見えた。
なだめようと弁解するアロルドに、ゴーティエ王子はそれこそ獅子が威嚇するような調子で鼻を鳴らした。
「あいにく、許容範囲外だな。オレの婚約者に触れることさえ許せぬ。しかも素手でなんて、もってのほかだ。頬への口づけは万死に値する。未遂でよかったな」
おお、こわっ。めちゃくちゃお怒りですね、ゴーティエ王子……
私が震えていると、ゴーティエ王子の抱擁がきつくなった。
「ああ、アロルドが怖かったのだな、ヴァランティーヌ。かわいそうに。こんなに怯えて」
あ、いえ。恐れているのはあなたさまです――とは言える状況にない。
ゴーティエ王子の指先が私の頬をそっと撫でていく。
「泣かずによく耐えた。貴女は強い女性だ」
囁かれると背中がゾクゾクする。恐怖でなにも言葉が出ずにいると、ゴーティエ王子が動く。私の顔を横に向けさせると、唇を重ねてきた。
「んっ、ふぅっ……⁉︎」
触れるだけではなかった。舌がにゅるりと入り込み、歯列をなぞる。快感を引き出す動きに翻弄されているうちに口が自然と弛緩して、舌の侵入を許してしまった。
「あっ……」
ジュルジュルとわざとらしく音を立てられ、唾液が流しこまれる。拒もうとすれば、身体は優しく拘束されてしまった。
頭がクラクラする……
軽い酸欠で意識が朦朧としてきた。飲み込めない唾液が口の端からこぼれていく。
「ヴァランティーヌ。視察はこの辺で切り上げて、部屋に戻ろうか」
ゴーティエ王子は私の返事を待たなかった。私の身体を軽々と抱きあげて歩き出してしまう。アロルドが何も言わなかったのは、あっけに取られていたからだろうか。
こんなことをしなくてもいいのに……
無抵抗のまま運ばれたのは、ゴーティエ王子が乗ってきたらしい馬車の中だった。
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