さあ、婚約破棄から始めましょう

一花カナウ

文字の大きさ
上 下
5 / 80
さあ、婚約破棄から始めましょう!

それならこれでどうだッ! 1

しおりを挟む
 最後までしていなくとも、寝かせてくれないだけで体力は削られるものである。丸一日愛され続けた私は、熱を出して寝込むハメになった。

「……すまない、ヴァランティーヌ」

 帰宅後に発熱して医者を呼んだと聞かされたらしいゴーティエ王子は、私の屋敷にとんできて申し訳なさそうに頭を下げてくれた。

「いえ。休んでいればよくなりますので」

 公務で忙しいはずなのに、こうしてすぐに会いに来てくれたことは素直に嬉しかった。冷たい言葉をかけることなく、優しく労ってくれる。
 私が知るゲーム世界ではオレ様エス系ヒーローという設定だったはずなのに、こんなに溺愛されるとは。
 握る手は温かくて頼もしい。ヴァランティーヌとしてはもともと嫌いな相手ではなかっただけに、こうして接してくれるとほだされてしまいそうだ。私って案外と流されやすいたちなんだなと心の中で苦笑する。

「できるだけ長く貴女のそばにいたいのだが、やらねばならないことが多くてな。極力毎日顔を出すようにするから、早く元気になってくれ」

 ゴーティエ王子に頭を撫でられるとくすぐったい。嫌悪感がないのは好意を持っている証拠になりうるかもしれない。

「そんな。お気持ちだけで充分です。……どうか、ご無理はなさらないで」
「はじめに無理をさせたのはオレだ。様子を見に訪ねるくらいはさせてほしい。ゆっくり休みたいから邪魔だというなら、使用人に伝えておいてくれればそれで構わないから」

 心の底から案じてくれていると伝わる言葉に、私は顔を綻ばせた。

「わかりました。お好きなようになさってください。私も早く起き上がれるようにおとなしくしておきますので」

 私が応えると、ゴーティエ王子は熱くなった私の頬に口づけしてくれた。

「愛しているよ、ヴァランティーヌ。元気になったら、どこかへ遊びに行こうな」
「はい、喜んで」

 幸せそうに微笑まれると、胸がキュンとしてしまう。
 安い女だな、私。ってか、こういう部分にときめくなんて、DV男に引っかかりやすいってことでもあるんじゃ……いやいや、うん。今は深く考えないでおこう。
 グールドン家では両親からの愛をしっかり受け取ってきた私だけれど、家族以外から愛された経験は薄い。前世もロクな男に出会わなかったので、こうして熱烈に愛されると戸惑ってしまう。けれど、それ以上に相手に応えてあげたいと思ってしまうから、悪い男に騙されてしまいそうだ。
 まあ、ゴーティエ王子は私の好みのドストライクではないというだけで、手放すには惜しい人だろうけど。
 彼から愛されると心地よいと感じられるのが私には驚きだったということだけは、ちゃんと覚えていようと思った。




 誕生日パーティーから一週間後。
 元気になった私は王立騎士団の詰所に顔を出していた。一応、公務である。
 王太子妃として私が婚約したことは、先週のゴーティエ王子の誕生日パーティーで改めて宣言されている。なので、王宮内の施設や機能についてを学ぶため、あるいは関係施設で働く人たちとの顔合わせと交流のために順番に回ることになったのだった。
 気が早いと思うけど、結婚してからはもっと忙しいものね……
 結婚すると、新婚旅行と称した外遊が始まる。なので、王宮内のことを学ぶなら婚前が都合がいいのだ。
しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

悪役令嬢の末路

ラプラス
恋愛
政略結婚ではあったけれど、夫を愛していたのは本当。でも、もう疲れてしまった。 だから…いいわよね、あなた?

あなたなんて大嫌い

みおな
恋愛
 私の婚約者の侯爵子息は、義妹のことばかり優先して、私はいつも我慢ばかり強いられていました。  そんなある日、彼が幼馴染だと言い張る伯爵令嬢を抱きしめて愛を囁いているのを聞いてしまいます。  そうですか。 私の婚約者は、私以外の人ばかりが大切なのですね。  私はあなたのお財布ではありません。 あなたなんて大嫌い。

もう終わってますわ

こもろう
恋愛
聖女ローラとばかり親しく付き合うの婚約者メルヴィン王子。 爪弾きにされた令嬢エメラインは覚悟を決めて立ち上がる。

勝手にしなさいよ

恋愛
どうせ将来、婚約破棄されると分かりきってる相手と婚約するなんて真っ平ごめんです!でも、相手は王族なので公爵家から破棄は出来ないのです。なら、徹底的に避けるのみ。と思っていた悪役令嬢予定のヴァイオレットだが……

【完結】幼い頃から婚約を誓っていた伯爵に婚約破棄されましたが、数年後に驚くべき事実が発覚したので会いに行こうと思います

菊池 快晴
恋愛
令嬢メアリーは、幼い頃から将来を誓い合ったゼイン伯爵に婚約破棄される。 その隣には見知らぬ女性が立っていた。 二人は傍から見ても仲睦まじいカップルだった。 両家の挨拶を終えて、幸せな結婚前パーティで、その出来事は起こった。 メアリーは彼との出会いを思い返しながら打ちひしがれる。 数年後、心の傷がようやく癒えた頃、メアリーの前に、謎の女性が現れる。 彼女の口から発せられた言葉は、ゼインのとんでもない事実だった――。 ※ハッピーエンド&純愛 他サイトでも掲載しております。

残念ながら、定員オーバーです!お望みなら、次期王妃の座を明け渡しますので、お好きにしてください

mios
恋愛
ここのところ、婚約者の第一王子に付き纏われている。 「ベアトリス、頼む!このとーりだ!」 大袈裟に頭を下げて、どうにか我儘を通そうとなさいますが、何度も言いますが、無理です! 男爵令嬢を側妃にすることはできません。愛妾もすでに埋まってますのよ。 どこに、捻じ込めると言うのですか! ※番外編少し長くなりそうなので、また別作品としてあげることにしました。読んでいただきありがとうございました。

政略より愛を選んだ結婚。~後悔は十年後にやってきた。~

つくも茄子
恋愛
幼い頃からの婚約者であった侯爵令嬢との婚約を解消して、学生時代からの恋人と結婚した王太子殿下。 政略よりも愛を選んだ生活は思っていたのとは違っていた。「お幸せに」と微笑んだ元婚約者。結婚によって去っていた側近達。愛する妻の妃教育がままならない中での出産。世継ぎの王子の誕生を望んだものの産まれたのは王女だった。妻に瓜二つの娘は可愛い。無邪気な娘は欲望のままに動く。断罪の時、全てが明らかになった。王太子の思い描いていた未来は元から無かったものだった。後悔は続く。どこから間違っていたのか。 他サイトにも公開中。

妹に正妻の座を奪われた公爵令嬢

岡暁舟
恋愛
妹に正妻の座を奪われた公爵令嬢マリアは、それでも婚約者を憎むことはなかった。なぜか? 「すまない、マリア。ソフィアを正式な妻として迎え入れることにしたんだ」 「どうぞどうぞ。私は何も気にしませんから……」 マリアは妹のソフィアを祝福した。だが当然、不気味な未来の陰が少しずつ歩み寄っていた。

処理中です...