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さあ、婚約破棄から始めましょう!

それならこれでどうだッ! 1

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 最後までしていなくとも、寝かせてくれないだけで体力は削られるものである。丸一日愛され続けた私は、熱を出して寝込むハメになった。

「……すまない、ヴァランティーヌ」

 帰宅後に発熱して医者を呼んだと聞かされたらしいゴーティエ王子は、私の屋敷にとんできて申し訳なさそうに頭を下げてくれた。

「いえ。休んでいればよくなりますので」

 公務で忙しいはずなのに、こうしてすぐに会いに来てくれたことは素直に嬉しかった。冷たい言葉をかけることなく、優しく労ってくれる。
 私が知るゲーム世界ではオレ様エス系ヒーローという設定だったはずなのに、こんなに溺愛されるとは。
 握る手は温かくて頼もしい。ヴァランティーヌとしてはもともと嫌いな相手ではなかっただけに、こうして接してくれるとほだされてしまいそうだ。私って案外と流されやすいたちなんだなと心の中で苦笑する。

「できるだけ長く貴女のそばにいたいのだが、やらねばならないことが多くてな。極力毎日顔を出すようにするから、早く元気になってくれ」

 ゴーティエ王子に頭を撫でられるとくすぐったい。嫌悪感がないのは好意を持っている証拠になりうるかもしれない。

「そんな。お気持ちだけで充分です。……どうか、ご無理はなさらないで」
「はじめに無理をさせたのはオレだ。様子を見に訪ねるくらいはさせてほしい。ゆっくり休みたいから邪魔だというなら、使用人に伝えておいてくれればそれで構わないから」

 心の底から案じてくれていると伝わる言葉に、私は顔を綻ばせた。

「わかりました。お好きなようになさってください。私も早く起き上がれるようにおとなしくしておきますので」

 私が応えると、ゴーティエ王子は熱くなった私の頬に口づけしてくれた。

「愛しているよ、ヴァランティーヌ。元気になったら、どこかへ遊びに行こうな」
「はい、喜んで」

 幸せそうに微笑まれると、胸がキュンとしてしまう。
 安い女だな、私。ってか、こういう部分にときめくなんて、DV男に引っかかりやすいってことでもあるんじゃ……いやいや、うん。今は深く考えないでおこう。
 グールドン家では両親からの愛をしっかり受け取ってきた私だけれど、家族以外から愛された経験は薄い。前世もロクな男に出会わなかったので、こうして熱烈に愛されると戸惑ってしまう。けれど、それ以上に相手に応えてあげたいと思ってしまうから、悪い男に騙されてしまいそうだ。
 まあ、ゴーティエ王子は私の好みのドストライクではないというだけで、手放すには惜しい人だろうけど。
 彼から愛されると心地よいと感じられるのが私には驚きだったということだけは、ちゃんと覚えていようと思った。




 誕生日パーティーから一週間後。
 元気になった私は王立騎士団の詰所に顔を出していた。一応、公務である。
 王太子妃として私が婚約したことは、先週のゴーティエ王子の誕生日パーティーで改めて宣言されている。なので、王宮内の施設や機能についてを学ぶため、あるいは関係施設で働く人たちとの顔合わせと交流のために順番に回ることになったのだった。
 気が早いと思うけど、結婚してからはもっと忙しいものね……
 結婚すると、新婚旅行と称した外遊が始まる。なので、王宮内のことを学ぶなら婚前が都合がいいのだ。
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