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さあ、婚約破棄から始めましょう!
フラグを確認しましょうか 2
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「ところで、あなたさまはソフィエット・ノートルベールをご存知?」
自分の話はこれでいいだろう。問題はこれからの私の身の振り方だ。
流産からの死亡エンドは回避できそうな雰囲気になってきたが、ヴァランティーヌはゲーム内では悪役令嬢である。ゲームのヒロイン――ソフィエット・ノートルベールと対峙せねばならない運命が待ち構えている可能性が高い。
私はというと、ソフィエットとは顔見知りである。
ソフィエット・ノートルベールは私より一つ若い十七歳の伯爵家の御令嬢だ。薬学に精通した医者の娘であり、それだけあって学術に優れている。前髪で目元を隠しているので陰気くさい印象だが、それなりの美人。体形はスレンダーであるけれど、つくべきところには脂肪がちゃんとついている。書物を読む際には眼鏡をかけるメガネっ娘だ。
親しいと言えるほどの仲ではないが、パーティー等で顔を合わせれば挨拶くらいはする。お互い、名前と顔が一致する程度の知り合いだと思う。ただ、彼女が私に対してどういう印象を持っているかは定かではない。
彼女がゴーティエ王子ルートに入っているってことは、面識がないってこともないはずだけど、どの程度進展しているのかしら?
「……ソフィエット・ノートルベール?」
ゴーティエ王子は急になんの話だろうかといった様子で目を瞬かせた。
私はすかさず補足する。
「ちまたで噂の薬学令嬢ですわ」
彼女の話題の中で一番有名そうなものを選んで教えるが、ゴーティエ王子からは手応えが感じられない。
なんだろう、この反応。絶対にどこかで顔を合わせているはずだし、その出会いはドラマチックだったはずなんだけど。ゲームの仕様上、それは確実。
うーん、前世を思い出したけど、ここはゲーム世界とは違うのかしら? 違うとすれば、どの程度の差異があるのだろう?
「色白で亜麻色の髪、紫水晶みたいな瞳の娘なんですが……」
だんだん不安になってきて、私は知っている情報で無難なものを伝える。必要以上に情報を与えてしまったら、シナリオ通りにならなくなるかもしれない。せっかくある程度の未来がわかっているというアドバンテージ持ちなのだから、それを大きく改変するようなことはしたくないのだ。
まあ、あのタイミングで思い出したのは、本能的に死を回避したかったからだと解釈しますけどね、はい。
少し悩むような顔をして、ゴーティエ王子はやっと何かを思い出したらしかった。
「……ああ、確かにそんな娘がいたな。公爵家のパーティーで酔っ払いに絡まれたところを、アロルドと助けてやったんだったか。礼状と粗品が届いていた」
アロルドさまと⁉︎
私は意外な人物の名前に目を瞬かせた。
記憶にあるシナリオでは、助けに入るのはゴーティエ王子かアロルドかのどちらかである。二人で助けるなんてシナリオはない。
ゴーティエ王子が助けに入る場合は、ソフィエットを助けるためではなく、酔っ払い自体に迷惑をかけられたために副次的に助けるシナリオだ。ちょっとイヤイヤな感じで、「貴女を助けるためにしたわけではない、気にするな」と言って立ち去る流れだったと思う。
それに対し、アロルドが助けに入るのは彼が正義感溢れる人間だからで、会場での異変にいち早く気づき、ソフィエットを助けるという流れだった。心配するアロルドに、ソフィエット側が「助けてくださりありがとうございました」と礼を言って足早に別れるシーンは何度も見ている。
そう考えると、ソフィエットを一緒に助けるには、シナリオを結構な分量で調整する必要がある。正直なところ、私はそういうルートを発注しようとは思わない。管理が面倒そうだからだ。
先日の公爵家のパーティー、私は欠席していたのよね……こんなことになるなら出席しておけばよかったわ。
後悔するも、時を戻すことはできない。そのときの状況については、近いうちに調査をしておこう。
「で、そのソフィエット嬢がどうしたというんだ?」
「あなたさまはソフィエットと結ばれる運命にあるのです。私とは縁がありませんの。どうか私との婚約を破棄してくださいませ」
両親には申し訳ないが、自分の命がかかっている。とにかく、ベッドインを避けて婚約破棄をしてしまえば、私の死亡フラグは折られる。あとはソフィエットとゴーティエ王子がくっつくように全力で盛り上げていけば、物語としては安泰だろう。演出としての意地悪については、目をつむってもらおう。
ゴーティエ王子が承諾してしまえば、なんらかの理由をでっち上げて婚約破棄はできると考えた。私を好いているようだが、生命と結婚とを天秤にかけたら私の生命を選んでくれると信じられた。
しかし、状況はうまく回らない。
自分の話はこれでいいだろう。問題はこれからの私の身の振り方だ。
流産からの死亡エンドは回避できそうな雰囲気になってきたが、ヴァランティーヌはゲーム内では悪役令嬢である。ゲームのヒロイン――ソフィエット・ノートルベールと対峙せねばならない運命が待ち構えている可能性が高い。
私はというと、ソフィエットとは顔見知りである。
ソフィエット・ノートルベールは私より一つ若い十七歳の伯爵家の御令嬢だ。薬学に精通した医者の娘であり、それだけあって学術に優れている。前髪で目元を隠しているので陰気くさい印象だが、それなりの美人。体形はスレンダーであるけれど、つくべきところには脂肪がちゃんとついている。書物を読む際には眼鏡をかけるメガネっ娘だ。
親しいと言えるほどの仲ではないが、パーティー等で顔を合わせれば挨拶くらいはする。お互い、名前と顔が一致する程度の知り合いだと思う。ただ、彼女が私に対してどういう印象を持っているかは定かではない。
彼女がゴーティエ王子ルートに入っているってことは、面識がないってこともないはずだけど、どの程度進展しているのかしら?
「……ソフィエット・ノートルベール?」
ゴーティエ王子は急になんの話だろうかといった様子で目を瞬かせた。
私はすかさず補足する。
「ちまたで噂の薬学令嬢ですわ」
彼女の話題の中で一番有名そうなものを選んで教えるが、ゴーティエ王子からは手応えが感じられない。
なんだろう、この反応。絶対にどこかで顔を合わせているはずだし、その出会いはドラマチックだったはずなんだけど。ゲームの仕様上、それは確実。
うーん、前世を思い出したけど、ここはゲーム世界とは違うのかしら? 違うとすれば、どの程度の差異があるのだろう?
「色白で亜麻色の髪、紫水晶みたいな瞳の娘なんですが……」
だんだん不安になってきて、私は知っている情報で無難なものを伝える。必要以上に情報を与えてしまったら、シナリオ通りにならなくなるかもしれない。せっかくある程度の未来がわかっているというアドバンテージ持ちなのだから、それを大きく改変するようなことはしたくないのだ。
まあ、あのタイミングで思い出したのは、本能的に死を回避したかったからだと解釈しますけどね、はい。
少し悩むような顔をして、ゴーティエ王子はやっと何かを思い出したらしかった。
「……ああ、確かにそんな娘がいたな。公爵家のパーティーで酔っ払いに絡まれたところを、アロルドと助けてやったんだったか。礼状と粗品が届いていた」
アロルドさまと⁉︎
私は意外な人物の名前に目を瞬かせた。
記憶にあるシナリオでは、助けに入るのはゴーティエ王子かアロルドかのどちらかである。二人で助けるなんてシナリオはない。
ゴーティエ王子が助けに入る場合は、ソフィエットを助けるためではなく、酔っ払い自体に迷惑をかけられたために副次的に助けるシナリオだ。ちょっとイヤイヤな感じで、「貴女を助けるためにしたわけではない、気にするな」と言って立ち去る流れだったと思う。
それに対し、アロルドが助けに入るのは彼が正義感溢れる人間だからで、会場での異変にいち早く気づき、ソフィエットを助けるという流れだった。心配するアロルドに、ソフィエット側が「助けてくださりありがとうございました」と礼を言って足早に別れるシーンは何度も見ている。
そう考えると、ソフィエットを一緒に助けるには、シナリオを結構な分量で調整する必要がある。正直なところ、私はそういうルートを発注しようとは思わない。管理が面倒そうだからだ。
先日の公爵家のパーティー、私は欠席していたのよね……こんなことになるなら出席しておけばよかったわ。
後悔するも、時を戻すことはできない。そのときの状況については、近いうちに調査をしておこう。
「で、そのソフィエット嬢がどうしたというんだ?」
「あなたさまはソフィエットと結ばれる運命にあるのです。私とは縁がありませんの。どうか私との婚約を破棄してくださいませ」
両親には申し訳ないが、自分の命がかかっている。とにかく、ベッドインを避けて婚約破棄をしてしまえば、私の死亡フラグは折られる。あとはソフィエットとゴーティエ王子がくっつくように全力で盛り上げていけば、物語としては安泰だろう。演出としての意地悪については、目をつむってもらおう。
ゴーティエ王子が承諾してしまえば、なんらかの理由をでっち上げて婚約破棄はできると考えた。私を好いているようだが、生命と結婚とを天秤にかけたら私の生命を選んでくれると信じられた。
しかし、状況はうまく回らない。
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