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可愛い僕の婚約者さま
長い入浴
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女性の入浴時間は長くなりがちである。
それにしては遅くなりすぎないか?
テオドラには「必ず部屋に戻るから待っていてください」と言われていたが、身体を温めるだけにしては時間が経ちすぎている気がする。
僕はテオドラを心配して浴室に向かった。
浴室の前では、テオドラを案内したメイドが待機していた。
「テアは?」
「しばらく一人にさせて欲しいからとおっしゃられまして。まだ中にいらっしゃいます」
入浴中もメイドが介助するのが普通なので、外に出ていることを咎められると思ったのかもしれない。
彼女は自分が部屋の外にいる理由を告げて、テオドラが中にいることを教えてくれた。
「一人きり、か。それにしては時間が経ちすぎている。中を確認しているのか?」
「いえ」
短く返答し、黙る。
「ずいぶん静かですね……?」
テア。
異常を察知して、僕はメイドの制止を聞かずに浴室に踏み入れることにした。
「テア。入るぞ」
ドアを開け放つ。浴室はランタンの灯りのみで薄暗い。
早足でバスタブに向かうと、テオドラの姿がすぐには見えなかった。そんなに広い部屋ではない。明かりが弱いからといって、湯けむりで人間の姿が隠れるほど視界が不明瞭ではないのに。
まさか。
嫌な予感がして、バスタブの中を覗いた。
すっと血の気が引く。
「テア‼︎」
底に沈むテオドラを見つけると同時に引き上げた。床に寝かせる。
「テア! 目を開けてくれ、テア!」
身体を横に向けて肺に水が入らないようにし、テオドラの頬を軽く叩く。
起きてくれ、テア。
何かの役に立つかもしれないからと心肺蘇生法を医者から聞いていたはずだが、どう動けばいいのか思い出せない。
「テア、起きて。テア」
背中を強めに叩くと、テオドラの口から水がゴボッと出て、激しく咳き込んだ。
「テア!」
「……にい……さま……?」
ドロテウスと混同しているのか――などと思いつつも、僕は彼女の上体を起こして抱きしめた。
「テア。よかった、テア……」
「……アルフレッドさま。あ、あの、すみません。気を失ってしまったみたいで……」
テオドラはまだぼんやりしているようだが、意識は取り戻せたようだ。僕が強めに抱きしめると、テオドラは僕の背中に手を回して優しく撫でた。
「助けてくださったのですね。ありがとうございます……あ、あの、服を濡らしてしまいますので、もう――」
「濡れてもいいさ。僕も入浴する。一緒に入ろう。そのほうがお互い心配しなくていいから」
「ですが、のぼせてしまったので……」
テオドラに言われて、確かに、と思う。
のぼせている人間を入浴に付き合わせるのはよくないよな……。
テオドラを抱きしめたまま僕は考えをめぐらす。それはそれとして、一緒に入りたい。
「……そうだね、先に出てもらったほうがいいよね……」
案が浮かばないので、名残惜しく思いながらテオドラを抱きしめる手を緩める。
するとテオドラが僕の腕の中で見上げてきた。濡れた髪が頬にはりついている。その頬は赤く染まっているのがこの距離だからかよくわかった。
すごく、艶っぽい。
ゴクッと生唾を飲み込む。のぼせてぼんやりとしている女性を襲うのは卑怯な気はするが、もっと触れていたいと思ってしまうことさえ罪になるものだろうか。
「寝室まで運ぼうか?」
僕の問いに、テオドラはゆっくりと首を横に振った。
「あの……着替えと入浴を手伝います。せっかくの服を濡らしてしまいましたから」
「……じゃあ、やってもらおうかな」
寝てもらったほうがいいに決まっているが、欲望に勝てなかった。僕が頷くと、テオドラはふんわりと嬉しそうに笑ってくれたのだった。
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