ミズカガミ ノ シンエン

一花カナウ

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水鏡の深淵

夏の旅行にて 4

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 目が覚める。ソファで裸のまま横たわっていた。薄手の毛布が掛けられてはいたが、服は着せてもらえなかったようだ。

「風呂、入るか?」

 目が合った彼がどちらなのかわからなかった。口調で、私を見つめているのが龍司だと理解する。彼はチノパンに開襟シャツの、悠真の相手をしていたときの服装になっていた。

「昇ちゃんは?」
「風呂」
「じゃあ行かないほうがよくない?」
「俺も行くから問題ないだろ」
「信用できないよ」
「鏡、大きいのがあるぞ」
「だからだよ」

 大きくため息をつく。上体をゆっくり起こしてローテーブルの上を見る。カナッペが減っている。グラスの一つが空になっていた。

「……龍ちゃんがシたいなら、応じるけど」
「幸菜が嫌ならしない」
「龍ちゃんはどうなのかって話だよ?」

 誰も口をつけていないだろうグラスを取って一口飲む。アルコール入りだ。ちょっと濃い気がするのは炭酸が抜けてきているからだろうか。

「俺は……」

 そう呟いて口篭り、龍司はグラスをあおった。

「龍ちゃんは、私が寝取られているのを見るのが好き?」
「…………」
「否定しないんだ」

 私は適当なカナッペを口に放り込んだ。生ハムとクリームチーズに柑橘が載っている。確かに美味しい。

「幸菜は昇太に抱かれているとき、すごく綺麗だと思う」
「なにそれ」
「俺に抱かれている幸菜はすごく可愛い」
「演じているつもりはないんだけど」

 何を言い出したんだ。酔っているのだろうか。龍司も昇太も酔っているところを私は見たことがないのだけど。
 龍司の顔は赤い。

「昇太の真似をして抱いたときも綺麗だと思った。艶っぽくて、そそられた」
「そう」

 龍司は何を考えているのだろう。軽く流すような返答しか私にはできない。

「艶っぽい幸菜を見たくて、昇太の誘いに乗った。それについては謝る」
「龍ちゃんの気が晴れたならいいよ」

 私だけで満足させることができないなら、仕方がないことだ。気持ちよくなってしまったのは事実だし、拒絶できない私も同罪だと思う。
 茹でエビとアボカドのカナッペを食べる。美味しい。お腹が空いていた。

「幸菜は昇太のこと、まだ好きなのか?」
「どうだろ」

 グラスのお酒を飲んで喉を潤す。アルコールが濃い。氷も半分は溶けたのに。

「好きなら、俺は――」
「待って」

 私は言葉を遮って、龍司をまっすぐ見つめた。

「私、恋愛するなら龍司がいいし、結婚する相手も龍司がいいって思ってるよ。今あなたがここにいるから、そう言っているわけでもないよ。誤解しないで」
「だが」
「私は触れられるなら龍司が好きだよ。優しく接してくれるあなたも、少し乱暴に振る舞うあなたも、私への愛情を感じられるから」

 私は毛布を体に巻きつけて龍司の隣に移動する。そして彼に口づけた。

「……酔ってるのか?」
「おかしい?」
「いや」
「じゃあ、現実を受け止めてよ」

 もう一度口づける。私から舌を差し込んで誘うと、返り討ちにあった。なんだ、ヤル気あるじゃん。

「う、んっ……」
「幸菜」

 彼の手が毛布の中に潜り込む。秘部に触れると濡れているのがわかった。

「誘っているつもりなのか?」

 指が小刻みに震える。感じやすい場所をさすられるとゾクっとして、龍司に体を預ける。

「続けて」
「いいのか?」
「今すぐイきたいの」
「加減しないぞ」
「いいよ」

 視界がぐるりと回った。床に毛布が広がって、そこに横たえられた私は龍司に身体をまさぐられた。

「あっ」
「気持ちがよさそうだな」
「もっと乱して」
「それは……ここじゃないほうがいい」

 妙なところで龍司は冷静である。でもそこが彼らしいし、口づけをくれたから満足である。帰ったら続きをしてもらえる。期待が体をさらに敏感にさせた。

「んっ」
「可愛いよ、幸菜」
「りゅぅ」

 私を満たして。空っぽな私を満たしてよ。
 求めるタイミングで彼の熱が私の体に穿たれた。

「ああんっ」
「はっ……絡みつくみたいにうねってる……熱いな」
「りゅぅ」

 手を伸ばす。龍司の首の後ろに手を回してキスをねだる。龍司は嬉しそうに笑って、深く深くキスをしてくれる。腰の動きが徐々に早まると私も釣られるように昂まった。

「りゅぅっ」
「幸菜」

 内側からゾクっとする。汗が吹き出し、呼吸が荒くなる。

「……幸菜、俺は君を満たすことができたか?」

 私は懸命に頷いて見せる。汗まみれの龍司は嬉しそうに笑った。
 ああ、この顔は。
 胸の奥がぞわぞわとする。

「龍ちゃん、好きだよ」
「行為が?」
「龍ちゃんの全部が好き。ずっと私のそばにいてくれた龍司が好き」
「……そうか」
「ねえ、お風呂に連れてって」
「酔ってるだろ?」
「龍ちゃんがいてくれるなら大丈夫だよ」
「……そうだな」

 何か迷うような間があって、私は龍司に横抱きにされた。

「落ちるなよ」
「うん」

 私が龍司に抱きついたのを確認すると、慎重な足取りで浴室に案内されたのだった。
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