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第4章:すれ違い
一人きりの帰り道
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住宅街と駅前商店街とに分かれる交差点に来た私たちはそこで手を振ってサヨナラを言った。小さくなっていくコノミの後ろ姿に手を振り続けた私は、見えなくなったところで自分の家のほうに身体を向ける。
――寂しいな……。
一人で通学路を歩くことがほとんどない私には、隣に誰もいないというこの状況がツラくてしょうがない。昨日は気づいたら家の前にいたので気にならなかったが、今日は途中までコノミと一緒だったせいで余分に寂しい気持ちが込み上げる。
「はぁ……」
自然と漏れるため息。
――よーちゃん、早く元気にならないかな?
そんなことを思っていると、スマートフォンが軽快に震える。もしやと思ってすぐに手に取ると画面には一件のメッセージが届いていることを示していた。しかし、期待していたよーちゃんからではなかった。
――って、典兎さんからじゃないっ。
がっかりしたのと同時にびっくりする。そして思い出す。夕方に店にいるかどうかを訊ねるメールを送っていたのだ。おそらくその返事なのだろう。
メールの本文に目を通す。
――なんだぁ、今日は店にいないんだ。
冒頭を読んでちょっぴり凹む。作ってきたぬいぐるみをいつ渡そうかと考えながら、まだ続くメッセージを読む。
「学校のそばまで来たけど、いつ終わる――って!」
衝撃のあまり、私は声を出して繰り返してしまう。
――なんで、典兎さんが学校に来てるわけ?
ショックのあまり、私は典兎さんに電話を掛けていた。
『あ、もしもし? 結衣ちゃん?』
コール音が数回鳴るとすぐに典兎さんの声がした。
「な、ななななんで学校の近くにいるんですかっ?」
『あ、動揺しているね?』
「からかってないで、質問に答えてくださいよっ!」
典兎さんの指摘の通り、私はかなり動揺していた。その理由は私にも分からない。
『ちょっとした用事で近くに来たから寄ってみただけだよ。そういうのも悪くないでしょ? 彼氏が迎えに来たみたいなシチュエーション』
――彼氏が迎えに……。
典兎さんの台詞に私は頬が火照るのを感じた。このときばかりは回りに知り合いがいないことを心底感謝した。
「――か、からかわないで下さいっ!」
返事までにやや間があったからだろう。電話の向こうで楽しそうに典兎さんが笑っているのがわかった。
――あぁっもうっ! なんなのよ!
『こんなことで動揺するなんて珍しいね。ひょっとして、意識してくれてる?』
「してませんっ!」
『で、今どこ? 行き違いになっちゃったかな?』
なかなか鋭い。通りを走る車の音が聞こえたのだろうか。
「えぇ、今、駅前に向かう交差点にいて」
気を取り直して答える。
『うわー本当に? お迎えを楽しみにしていたのになぁ』
「来なくて良いですから」
大げさなリアクションに私は疲れを感じる。
――電話したのは間違いだったわ……。
『なんで? ミロクとは登校するのに、僕とは下校したくないの?』
――あ、典兎さんが拗ねた。
本気で拗ねているのではなく、ノリで演じているだけだろう。前にも似たようなことがあったのを私は覚えている。
「そういうわけじゃないですけど……」
『けど、何?』
何かを期待するかのような声。
「なんでもないですっ!」
『ところで僕に何の用事? シフトを訊ねてくるなんて初めてだよね?』
典兎さんは歩き始めたようで、電話の向こうから聞こえてくるざわめきに変化があった。
「ポプリのお礼をしようと思って」
『別にいーよ、律儀だなぁ。あれは葉子ちゃんからのプレゼントでしょ?』
――典兎さんまで弥勒兄さんと同じことを言う……。
「それでも、貰いっぱなしっていうのは嫌なんです。それに、家まで送ってくれた礼もしたいんです」
『それだって、ミロクが言い出したことじゃない。僕は何にもしてないのと同じだよ』
――むぅ。なんでみんな私があげるって言っているのに、すぐに受け取ってくれないのかなぁ。私からの贈り物は要らないってこと?
「じゃあもういいです……。今日はおとなしく帰りますから」
無理に理由をつける必要はないのだ。しかし、何の理由もなしに贈り物をするなんてどこか恥ずかしい。ましてや手作りの品だ。何か理由をつけないとうまく渡せる気がしない。
『えー、ちょっと待ってよ。今向かっているから。――昨日はスペクターズ・ガーデンに寄ってくれなかっただろう? 少し話そうよ』
典兎さんの焦る声。私がこう返すとは思っていなかったのかもしれない。
「会う理由もなくなっちゃったんで、いいんです」
――また別の機会に渡せればいいや。ナマモノじゃないし。
しょんぼりと言い、電話を切ろうかと考えたところで典兎さんの声が割り込んできた。
『――僕にはまだ理由があるけど?』
急に真面目な声になる。
「ふぇ?」
――典兎さんの理由?
『僕が結衣ちゃんに会いたいんだ。それでも断る?』
「なっ……」
鼓動が早くなる。
――し、真剣な声で言わないでよっ! 冗談でしょって言い返せないじゃない!
『からかって悪かったよ。結衣ちゃんからのプレゼントだったら、どんなものでも断らないからさ』
「あ……謝らないで下さいっ」
真面目なトーンで続く言葉に、私の心臓は強く脈打つ。声が裏返ってしまったことに、彼は気づいただろうか。
『だから、怒らないで』
「私は怒ってなんかいません!」
『そう?』
不安げな、それでいて優しい声。典兎さんは今、どんな顔をしてこちらに向かっているのだろう。
「――だから、もう切りますよ! ここで待ってますから」
つい長話になってしまった。少し反省。
『はいはい。すぐに行く』
典兎さんは手短に答え、向こうから電話を切った。
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