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第3章:欠席
キーホルダー
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朝の教室は重い空気が漂っていた。
みんなの視線が私に集まり、それぞれに散ったかと思うとひそひそ話が始まる。
――うー……。嫌な空気だなぁ……。
コノミはまだ来ていないらしい。つまり、彼女からの弁解は済んでいない。
私は用心しながら自分の席に向かう。窓際にある自分の席がやたら遠くに感じた。
――今日は来るようなことを言っていたけど、本当に大丈夫なのかな?
自分の机にスポーツバッグを置く。
自然とコノミの席に視線を向けてしまう。鞄がないことからまだ彼女が登校していないことがわかった。
――まぁ、いつもコノミは遅刻ギリギリにやってくるんだけどね。
そんなことを思っていると、チャイムが鳴り始めると同時にコノミが入ってきた。
「はぁ、良かったぁ! セーフだね」
パタパタと小走りに教室中央の彼女の席に移動する。
「怪我の具合、どう?」
私が声を掛ける前に、コノミの隣の席に座っている少女が話し掛けた。
「大丈夫。みんな大げさなんだよっ。ちょっと打撲しただけだって。骨に問題はなかったよ?」
コノミは明るくはきはきと答える。本当になんでもなかったような様子に、私はほっと胸を撫でおろす。
「本当に? みんな心配したんだよ?」
言って、彼女は私に冷たい視線を一瞬向けて笑顔を作る。
このクラスの輪を乱したのは確かに私だ。だけど、どうしてそこまで目の敵にされなきゃいけないのだろう。
私はスポーツバッグの中からコノミに用意した紙袋を取り出す。
「ありがと。――あと、みんな誤解しているみたいだけど、あれはわたしが急に立ち上がった拍子に転んだだけなんだよ? 結衣は助けてくれようとしたの。そういう目で、わたしの友だちを見ないでくれる?」
「…………」
にこやかな表情で、それでありながら凍える低い声でコノミは注意した。
隣の席の少女は固まっている。怯えているように見えた。
その様子に、私の背筋に冷たいものが流れる。
――私のことをかばってくれたのに、こんなこと思っちゃダメだよ。
必死に気持ちを切り替えて、私はコノミの席に向かう。
「コノミ、昨日はすぐに手を貸してあげられなくてゴメンね。何が起きたのかすぐにわからなくって」
さりげなく声を掛けたつもりだったが、それが彼女の呪縛を解いたらしく、物凄い形相でこちらを振り向いた。
それを見た私の身体はビクリと震える。
「ううん。こちらこそゴメン! 気が動転しちゃって、ちゃんと説明できなかったから誤解させちゃったね!」
私たちの様子を見ていたはずなのに、コノミはにこにこしながら自然に返す。
「い……いいのよ、気にしないで」
私が答えるのと同時に、彼女は自分の席に戻る。
コノミの冷めた視線が彼女を追っているのに気づく。
「あと、これは昨日のお詫び」
そんな表情をするコノミを見ていられなくて、すかさず紙袋を差し出す。
「え?」
思ってもいなかったのだろう。ころっとコノミの表情が変わり、目を丸くする。
「話をちゃんと聞いていないのをコノミが怒ったでしょ。確かに悪かったなって思って。そのお詫びだよ」
「良いの?」
もらって良いのかどうしようかと迷っているらしく、出された手はなかなか紙袋に届かない。
「遠慮しないで受け取って。コノミのために作ったの」
「わたしのために?」
言って、コノミはようやく手に取った。
「開けていい?」
「もちろん。気に入ってくれるといいんだけど」
リボンとテープで止められた口を丁寧に外し、中からぬいぐるみを取り出す。
「可愛いっ! 結衣ってとっても器用なんだね!」
私がコノミにあげたのは、青い鳥が小さな小枝をくわえている姿をデザインしたキーホルダー。手で握ると見えなくなるほどの大きさのものである。
「これくらいしか特技がないからね」
「嬉しいよ! 大事にするね!」
コノミはにっこりと微笑むと、スポーツバッグに取り付け始める。彼女の緑色のスポーツバッグには一つも飾りがつけられていないのを私は知っていた。
「うん。なかなか合ってる。本当にありがとう」
「どういたしまして。これからも仲良しでいようね」
私もにっこりと笑んだところで、担任の先生が入ってきた。すでにチャイムが鳴り終わっていたことを思い出し、そそくさと自分の席に戻る。
席についた私に、コノミはそっとキーホルダーを揺らして手を振ると前を向いた。
――気に入ってくれたみたいだ。
私はいろいろと安心して、今日も一日を乗り切れそうだなと思えた。
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