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コラボ回
【番外編】西の大賢者と異邦の旅人
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「――フクロウ……? いや、違うな……」
丸くて茶色い鳥が窓から覗いている。その影はとてもフクロウに似ているのだが、個体差にしてはだいぶ妙な部分がある。新種かあるいは魔物の類かと考えて、俺は表に出た。
「あ! よかった、出てきてくれて!」
玄関の外に、茶色い髪と青い瞳を持つ少年が立っていた。
見慣れない服だな……
俺たちが着ている賢者の標準服や魔道士の服装ではないし、平民の服装でも見かけたことはない。ひょっとしたらこの国の人間ではないのかもしれないが、言葉は流暢だ。
その彼は俺を見るなり人差し指と親指で四角を作ってこちらを覗き、ニコニコしながら近づいてきた。
「西の大賢者様から、今の君宛ての本を預かっているんだ」
そう告げて、少年は自分の肩掛けカバンを漁っている。
「《今の俺》宛?」
俺が尋ねると、少年は大きく頷く。やがて一冊の本を取り出した。
ってか、そのカバンの見た目より大きな本が出てきたんだが……
自分の知らない魔法のようだ。彼はやはり異国の魔道士かなにかなのだろう。
「はい、どうぞ」
ニコニコと人懐っこい顔で見上げてくる。俺が本を受け取るまで移動しない気配があったので、しぶしぶ受け取った。
「君の物語を必要としている人は今の君ではないみたいだから、その時がきたら届けるね」
「お、おう……」
少年が何を言っているのか意味がさっぱりわからないが、また来ると言っているのだから謎はそのときに明らかになるに違いない。俺は言及するのをやめておいた。
満足げに微笑んだ少年は、屋敷の窓にくっつくようにしてとまっている謎の鳥に目をやった。
「トリ、仕事終わったよ! ここに着くまで散々迷わせたんだから、帰りの道案内くらいしてくれよな!」
道に迷って苦労してまで届けに来てくれたなんてご苦労なことである。
そんなに頑張って運んでくれた本だったら、一応目を通すか……
謎の鳥が飛び立つと、少年はわぁわぁ言いながら慌てて追いかけて行った。
「――あ。あの鳥を調べるの忘れた……まあいっか」
俺はさっきの少年たちが幻ではないことを手元の本の質量で改めて認識する。この世界をあちこち旅してきたが、まだまだ知らないことはたくさんありそうだ。
「大賢者と呼ばれるには早いよな……師匠の背中が遠いぜ」
ふぅっと小さくため息をついて屋敷の扉を開けると、左側に髪をまとめた童顔の女性が飛びついてきた。その後ろには、眼鏡をかけた青年が困ったような、あるいは憂鬱そうな顔をして立っている。
「アウルー! 次はどこに行く?」
「リリィは次の仕事の前にやることがあるでしょ! 提出用の書類整理はどうなっているんですか⁉︎」
眼鏡の青年――ルーンが指摘すると、リリィは俺を解放して小さく膨れた。
「えー。そういうのはルーンの仕事でしょ?」
「僕の仕事じゃありません! 任務をこなした全員が、それぞれ調査書として情報をまとめなければいけないんです。何年この仕事をしているんですか!」
「めんどうくさい……」
尻尾のような毛先がしょんぼりと下がる。あの髪は動物の尾のようにある程度の動きを制御できるものなんだろうか。謎だ。
いつもの光景に、俺はつい笑ってしまった。
「ったく、しょうがねえな。少しくらいなら手伝ってやるよ」
「わーい!」
「アウル、あんまりリリィを甘やかさないでください!」
「人には得手不得手があるんだ。無理なもんは無理だと諦めろ」
「師匠みたいなこと、言わないでください。だからリリィが――」
ルーンの説教を聞き流す。たぶん、これからも俺はリリィを甘やかし続けるし、ルーンに何度も説教されるのだろう。
でも、それでいい気がする。
この景色、このやり取りこそが亡くなった師匠が望んでいた光景のように思えるから。俺に与えた最後の贈り物であるなら、悪くはない。
「アウル、聞いてるんですか⁉︎」
「へいへい」
そして、俺は自分の日常に戻っていくのだった。
丸くて茶色い鳥が窓から覗いている。その影はとてもフクロウに似ているのだが、個体差にしてはだいぶ妙な部分がある。新種かあるいは魔物の類かと考えて、俺は表に出た。
「あ! よかった、出てきてくれて!」
玄関の外に、茶色い髪と青い瞳を持つ少年が立っていた。
見慣れない服だな……
俺たちが着ている賢者の標準服や魔道士の服装ではないし、平民の服装でも見かけたことはない。ひょっとしたらこの国の人間ではないのかもしれないが、言葉は流暢だ。
その彼は俺を見るなり人差し指と親指で四角を作ってこちらを覗き、ニコニコしながら近づいてきた。
「西の大賢者様から、今の君宛ての本を預かっているんだ」
そう告げて、少年は自分の肩掛けカバンを漁っている。
「《今の俺》宛?」
俺が尋ねると、少年は大きく頷く。やがて一冊の本を取り出した。
ってか、そのカバンの見た目より大きな本が出てきたんだが……
自分の知らない魔法のようだ。彼はやはり異国の魔道士かなにかなのだろう。
「はい、どうぞ」
ニコニコと人懐っこい顔で見上げてくる。俺が本を受け取るまで移動しない気配があったので、しぶしぶ受け取った。
「君の物語を必要としている人は今の君ではないみたいだから、その時がきたら届けるね」
「お、おう……」
少年が何を言っているのか意味がさっぱりわからないが、また来ると言っているのだから謎はそのときに明らかになるに違いない。俺は言及するのをやめておいた。
満足げに微笑んだ少年は、屋敷の窓にくっつくようにしてとまっている謎の鳥に目をやった。
「トリ、仕事終わったよ! ここに着くまで散々迷わせたんだから、帰りの道案内くらいしてくれよな!」
道に迷って苦労してまで届けに来てくれたなんてご苦労なことである。
そんなに頑張って運んでくれた本だったら、一応目を通すか……
謎の鳥が飛び立つと、少年はわぁわぁ言いながら慌てて追いかけて行った。
「――あ。あの鳥を調べるの忘れた……まあいっか」
俺はさっきの少年たちが幻ではないことを手元の本の質量で改めて認識する。この世界をあちこち旅してきたが、まだまだ知らないことはたくさんありそうだ。
「大賢者と呼ばれるには早いよな……師匠の背中が遠いぜ」
ふぅっと小さくため息をついて屋敷の扉を開けると、左側に髪をまとめた童顔の女性が飛びついてきた。その後ろには、眼鏡をかけた青年が困ったような、あるいは憂鬱そうな顔をして立っている。
「アウルー! 次はどこに行く?」
「リリィは次の仕事の前にやることがあるでしょ! 提出用の書類整理はどうなっているんですか⁉︎」
眼鏡の青年――ルーンが指摘すると、リリィは俺を解放して小さく膨れた。
「えー。そういうのはルーンの仕事でしょ?」
「僕の仕事じゃありません! 任務をこなした全員が、それぞれ調査書として情報をまとめなければいけないんです。何年この仕事をしているんですか!」
「めんどうくさい……」
尻尾のような毛先がしょんぼりと下がる。あの髪は動物の尾のようにある程度の動きを制御できるものなんだろうか。謎だ。
いつもの光景に、俺はつい笑ってしまった。
「ったく、しょうがねえな。少しくらいなら手伝ってやるよ」
「わーい!」
「アウル、あんまりリリィを甘やかさないでください!」
「人には得手不得手があるんだ。無理なもんは無理だと諦めろ」
「師匠みたいなこと、言わないでください。だからリリィが――」
ルーンの説教を聞き流す。たぶん、これからも俺はリリィを甘やかし続けるし、ルーンに何度も説教されるのだろう。
でも、それでいい気がする。
この景色、このやり取りこそが亡くなった師匠が望んでいた光景のように思えるから。俺に与えた最後の贈り物であるなら、悪くはない。
「アウル、聞いてるんですか⁉︎」
「へいへい」
そして、俺は自分の日常に戻っていくのだった。
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