転生前から狙われてますっ!!

一花カナウ

文字の大きさ
38 / 54
後日譚・番外編置き場

あなたと同じ夢を見る

しおりを挟む
番外編 あなたと同じ夢を見る


 例年通りであれば静かな年始も、彼女がやってきてくれたおかげで少し賑やかだ。

「レネレットさん……」

 オスカーが隣でくっついて眠る少女――レネレットの頭を撫でると、くすぐったそうに動いてすぐに静かになった。

 ――仔犬みたい。

 クスッと小さく笑って、オスカーは彼女の額に口づけを落とす。
 神職の仕事から戻ると、彼女はいつも待ちわびたかのような顔をして現れる。留守番を命じられた仔犬が主人を見つけた時のような調子で来るものだから、自分の中のピリピリした気持ちがふっと緩んでしまう。
 この不思議な心境を腐れ縁であるジョージに相談したら、「それは惚気と言うのだ」と教えられた。自分の感情は淡白だと感じていたので、彼女への想いが愛と呼ばれるものなのか実感できない。肌に触れてみればわかるかも、などと少々短絡的に考えてそうしてみたが、心地よさは感じられたものの愛情だとは思えなかった。

「どうすればいいんでしょうね」

 キスをしたり、入浴と称して肌を触れ合わせたりと、そういう恋人や夫婦なら自然としているものだと聞いたことは実践してみた。形だけでも整えて、レネレットを満たしてやりたいのだ。

 ――再会に失敗して嫌われてしまったのだと思っただけに、僕を頼ってくれたことは嬉しかったんですよ。

 素直になれれば、もっと想いを伝えられるだろうか。一方で、素直になっても、自分の気持ちが見えないままでは、彼女が望むような関係を築くきっかけにすらならないのではなかろうか。
 漠然とした不安は、彼女と過ごす中で膨れていく。

「子どもがほしい……家族だと証明できるものが、僕には足らないのです。レネレット、僕はまた同じ過ちを繰り返していませんか?」

 起点の世界よりもずっといい関係を築くことはできているはずだ。そう自分に言い聞かせていても、不安が解消されるわけではない。
 小さな温もりを抱きしめて、オスカーは目を閉じる。


 *****


 私がオスカーの腕の中で目が覚めた時、彼が泣いているのに気づいてびっくりした。外はまだ真っ暗なので寝かせたままにしようかとも思ったのだが、この世界で泣いている彼を見たことがなかったのを思い出し、私は声をかけることにする。

「オスカー……? 大丈夫?」

 尋ねると、私を抱き締める力が増して、ふっと緩んだ。
 オスカーが目を開けて、私の顔に焦点を合わせるのがわかる。泣いていたのと眼鏡がないことで、私の顔をすぐに認識できなかったようだ。彼はぼんやりしている気がする。

「うなされていたわよ。平気?」

 心配で尋ねると、オスカーは涙を軽く指先で拭いて苦笑した。

「どうしてでしょうね。あなたを失う夢を見ました」
「新年からずいぶんと不吉な夢ね……あ。私を抱き締めて寝たせいじゃない? 腕の血が滞っちゃって、夢見が悪いのよ」

 かつていた世界では、悪夢は就寝中の身体の状態に影響されて起きるという意見が一般的だった。この世界でも似たようなものがあってもおかしくはない。
 私が離れようと動くと、オスカーに引き止められ、身体の位置が変わる。私はベッドとオスカーに挟まれた。

「オスカー?」

 いつもとちょっと違う、必死さが感じられる気配に、私は困惑する。

「――僕は、レネレットさんとの子どもがほしいです」

 前にもオスカーはそんなことを言っていた気がする。理由を聞いたが、その時は適当にはぐらかされてしまった。

「でも、子どもって授かりものだもの。オスカーは縁結びの神さまに仕えているんだし、そういう縁も見えたりするんじゃないの?」

 私が尋ねると、オスカーは困ったように笑って私にキスをした。そして、私の長い金髪を横に避けて首筋に口づけを落とす。

「んんっ……? くすぐったい、オスカー。どうしたの?」
「レネレットさんの体温をもっと感じさせて。少しだけでいいから、我慢してください」

 私が答える間も無く、寝間着の中に滑り込んだ手はひんやりとしていた。直接肌に触れられると、まだ慣れなくて過剰に反応してしまう。

 えっと、一応夫婦なんだし、肌を触れ合わせるくらいは普通にすることだと思うけど……どうしたの?

 つい身悶えする私の身体を、オスカーは優しく丁寧に撫で回した。存在を確認するような動きに、その意図をようやく察する。

「――オスカー、私、ちゃんとここにいるよ?」

 私を失う夢が、よほど彼を不安にしたのだろう。声をかけると、オスカーはふっと笑った。

「ええ。温かくて安心しました」

 慈しむように撫でていた手のひらは、ゆっくりと身体から離れていく。

「僕が触れるあなたはいつも冷たかったから、時々、ここにいるのが幻ではないかと不安に駆られるのです」

 そう言われて、転生の最期にはいつも彼が立ち会っていたことを思い出した。
 どういう思いであの場所にいたのか私には想像できなかったが、もし、最初の世界の時のような気持ちを抱えてあの場にいたのだったら、胸が苦しかったのではないだろうか。

「オスカー、あなた……」

 今なら聞けるだろうか。オスカーが私をどうしたいと考えているのか。私が願うことは叶えると言い切った彼だが、彼自身の主体はなんなのか、聞くことができる格好の機会ではないか。
 そう思うのに、私は怖くて言葉が出ない。

「レネレットさん。僕はこの世界でもあなたに会えて嬉しい」
「私も、今は嬉しく思うわ。わだかまりも解けたしね」

 結局、私はそう答えるのが精一杯だった。

「……そうだ。ひとつ、教えて差し上げましょうか。あなたがこの世界と縁を結んだ時の話を」
「え?」
「僕がこの神殿で修行をしていた頃、十歳になる前だと思うのですが、あなたのお父上が訪ねてきましてね。最初はいつものように寄付金の話だろうと思ったのですが、その日はどうも様子が違って。聞けば、あなたのお母上が流産を繰り返してしまって子どもができないから、縁を恵んでほしいと祈りに来たことがわかりました。跡継ぎ問題があるので、できるなら自分たちの子どもがほしいと。僕の父は熱心に祈りを捧げてくれました。――それからしばらくして誕生したのがレネレットさんなのだと知ったのは、去年のことなんですよ」
「私の父と神殿に縁があったのは確かだけど、まさかそんな縁が……」

 唐突な昔話に、私は驚きを隠せない。同じ歳の友人たちの親と比べて私の親は高齢だと感じていたが、子どもができにくかったというのは初耳だ。
 目を瞬かせていると、オスカーは優しく笑って私の頭を撫でた。

「あの時祈っていなかったら、レネレットさんはここにいなかったかもしれませんね」

 祈っていなかったら?

 それは妙な話だ。オスカーは私の転生に合わせて自分も転生してきたのではなかったのか。私がこの私であるのは、オスカーが私の幸せを願い、人生を優位に楽しむためにとのことだと本人から聞いた気がしたのだけど。

「……ねえ、オスカーって、私を転生させる場所も意図的に選んでいたんじゃなかったの?」
「ふふ、さて、どうでしたかね。――この話はこれで終わりです。まだ仕事を始めるまでには時間がありそうなので、もう一眠りしますね」

 そう告げて、オスカーは私の隣に仰向けで寝る。すぐに寝息が聞こえてきた。オスカーの寝つきは非常によい。

 聞きそびれたけどまあいっか。

 誕生の話を聞いて思い出した。私が生まれたのは真冬で、雪深い日だったことを。誕生日という概念が薄いシズトリィ王国では、正確な生まれの時季を聞くことはほとんどなく、たいていの人間が忘れているかそもそも知らないだろう。それなのに両親が私が生まれた日の話を何度も聞かせてくれたのは、私が待望の赤ん坊だったからかもしれない。

 今度会ったら、私が生まれた時の話を聞いておこうかな。

 そんなことを思いながら、私はオスカーの隣で目を閉じたのだった。


《番外編 あなたと同じ夢を見る 終わり》
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

三十年後に届いた白い手紙

RyuChoukan
ファンタジー
三十年前、帝国は一人の少年を裏切り者として処刑した。 彼は最後まで、何も語らなかった。 その罪の真相を知る者は、ただ一人の女性だけだった。 戴冠舞踏会の夜。 公爵令嬢は、一通の白い手紙を手に、皇帝の前に立つ。 それは復讐でも、告発でもない。 三十年間、辺境の郵便局で待ち続けられていた、 「渡されなかった約束」のための手紙だった。 沈黙のまま命を捨てた男と、 三十年、ただ待ち続けた女。 そして、すべてを知った上で扉を開く、次の世代。 これは、 遅れて届いた手紙が、 人生と運命を静かに書き換えていく物語。

冷遇王妃はときめかない

あんど もあ
ファンタジー
幼いころから婚約していた彼と結婚して王妃になった私。 だが、陛下は側妃だけを溺愛し、私は白い結婚のまま離宮へ追いやられる…って何てラッキー! 国の事は陛下と側妃様に任せて、私はこのまま離宮で何の責任も無い楽な生活を!…と思っていたのに…。

私に姉など居ませんが?

山葵
恋愛
「ごめんよ、クリス。僕は君よりお姉さんの方が好きになってしまったんだ。だから婚約を解消して欲しい」 「婚約破棄という事で宜しいですか?では、構いませんよ」 「ありがとう」 私は婚約者スティーブと結婚破棄した。 書類にサインをし、慰謝料も請求した。 「ところでスティーブ様、私には姉はおりませんが、一体誰と婚約をするのですか?」

娼館で元夫と再会しました

無味無臭(不定期更新)
恋愛
公爵家に嫁いですぐ、寡黙な夫と厳格な義父母との関係に悩みホームシックにもなった私は、ついに耐えきれず離縁状を机に置いて嫁ぎ先から逃げ出した。 しかし実家に帰っても、そこに私の居場所はない。 連れ戻されてしまうと危惧した私は、自らの体を売って生計を立てることにした。 「シーク様…」 どうして貴方がここに? 元夫と娼館で再会してしまうなんて、なんという不運なの!

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

【一話完結】断罪が予定されている卒業パーティーに欠席したら、みんな死んでしまいました

ツカノ
ファンタジー
とある国の王太子が、卒業パーティーの日に最愛のスワロー・アーチェリー男爵令嬢を虐げた婚約者のロビン・クック公爵令嬢を断罪し婚約破棄をしようとしたが、何故か公爵令嬢は現れない。これでは断罪どころか婚約破棄ができないと王太子が焦り始めた時、招かれざる客が現れる。そして、招かれざる客の登場により、彼らの運命は転がる石のように急転直下し、恐怖が始まったのだった。さて彼らの運命は、如何。

【完結】20年後の真実

ゴールデンフィッシュメダル
恋愛
公爵令息のマリウスがが婚約者タチアナに婚約破棄を言い渡した。 マリウスは子爵令嬢のゾフィーとの恋に溺れ、婚約者を蔑ろにしていた。 それから20年。 マリウスはゾフィーと結婚し、タチアナは伯爵夫人となっていた。 そして、娘の恋愛を機にマリウスは婚約破棄騒動の真実を知る。 おじさんが昔を思い出しながらもだもだするだけのお話です。 全4話書き上げ済み。

五年後、元夫の後悔が遅すぎる。~娘が「パパ」と呼びそうで困ってます~

放浪人
恋愛
「君との婚姻は無効だ。実家へ帰るがいい」 大聖堂の冷たい石畳の上で、辺境伯ロルフから突然「婚姻は最初から無かった」と宣告された子爵家次女のエリシア。実家にも見放され、身重の体で王都の旧市街へ追放された彼女は、絶望のどん底で愛娘クララを出産する。 生き抜くために針と糸を握ったエリシアは、持ち前の技術で不思議な力を持つ「祝布(しゅくふ)」を織り上げる職人として立ち上がる。施しではなく「仕事」として正当な対価を払い、決して土足で踏み込んでこない救恤院の監督官リュシアンの温かい優しさに触れエリシアは少しずつ人間らしい心と笑顔を取り戻していった。 しかし五年後。辺境を襲った疫病を救うための緊急要請を通じ、エリシアは冷酷だった元夫ロルフと再会してしまう。しかも隣にいる娘の青い瞳は彼と瓜二つだった。 「すまない。私は父としての責任を果たす」 かつての合理主義の塊だった元夫は、自らの過ちを深く悔い、家の権益を捨ててでも母子を守る「強固な盾」になろうとする。娘のクララもまた、危機から救ってくれた彼を「パパ」と呼び始めてしまい……。 だが、どんなに後悔されても、どんなに身を挺して守られても、一度完全に壊された関係が元に戻ることは絶対にない。エリシアが真の伴侶として選ぶのは、凍えた心を溶かし、温かい日常を共に歩んでくれたリュシアンただ一人だった。 これは、全てを奪われた一人の女性が母として力強く成長し誰にも脅かされることのない「本物の家族」と「静かで確かな幸福」を自分の手で選び取るまでの物語。

処理中です...
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。
番外編を閲覧することが出来ません。
過去1ヶ月以内にレジーナの小説・漫画を1話以上レンタルしている と、レジーナのすべての番外編を読むことができます。

このユーザをミュートしますか?

※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。