欲望の神さま拾いました【本編完結】

一花カナウ

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アフターストーリー【不定期更新】

暑さ寒さも

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 暑さ寒さも彼岸までとはいうが、朝晩の冷え込みに限ってはまあまあ寒さを感じられるようになった。
 正確には、人肌に触れると心地がいい室温、だ。

「――そんなに見つめたら穴があいてしまうよ」

 私がじぃっと見ていたことに気づいていたらしい。長い睫毛がゆっくりと動いて、彼の瞳が私の顔を映す。

「穴なんてあきませんよ」
「ふぅん」

 何か思いついたらしい。彼はにやりと含みのある笑みを浮かべた。こういう顔をする時はろくでもないことを考えているものだ。

「……なんですか?」
「君の穴が塞がってしまうよ、が正しいかなあって」

 逃げねばと構えたときにはすでに彼の下敷きになっていた。彼の熱が私に当たっている。腰を動かさないでほしい。

「よくそういう下ネタ思いつきますよね……」
「嫌いじゃないでしょ?」
「…………」

 彼に求められるのは嫌ではないが、別に私が見つめていたのは誘うつもりがあったからではない。
 今にも消えてなくなってしまいそうな儚さを寝姿に感じていたからなのだ。
 最近はとみに思う。目が覚めたら、何もかも忘れて私だけが取り残されているんじゃないかって。
 ただ彼がいなくなるだけなら探しにいけばいい。だが、彼がいた記憶ごと消されてしまったらどうにもならない。
 そうなったらきっと、私は、彼を、二度と思い出せないだろうから。

「弓弦ちゃん」

 黙って顔を逸らしていたら名を呼ばれた。なおも無視していたら、彼の唇が私の肌に降ってくる。くすぐったい。

「ん……神様さん」
「君の深いところに触れたいよ。いいかい?」
「昨夜もシたじゃないですか……」

 昨晩はたくさん熱を交換したから、今はまだ気だるい。休日の朝はゆっくりしたいのだ。

「時間とか回数とか、問題じゃないよ」
「元気ですね……」
「僕は、ここにいるよ」

 強引に顔を向かい合わせにさせられる。
 彼はとても真面目な顔をしていた。

「勝手に消えたりなんかしないさ。僕は、ここに、いるんだよ」

 口づけられる。深く深く、息もままならないような激しいキス。
 抵抗せず、受け入れて。
 私は彼の背中に手をまわす。ほどよく筋肉がのって厚みのある背中は、汗でほんのり濡れていて、とても熱かった。

「んんっ」
「弓弦ちゃん、ねえ」

 切なげな声を聞いてしまうと、ほかの理由なんて考えられなかった。

「うん……いいよ」

 私の言葉に安心したようにふにゃりと笑って。
 私たちは再び口づけて、昨夜の熱の名残りをむさぼるのだった。

《終わり》
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