欲望の神さま拾いました【本編完結】

一花カナウ

文字の大きさ
上 下
95 / 96
神さま(?)拾いました【本編完結】

39.御守りのゆくえ

しおりを挟む

 ◆◇◆◇◆◇◆◇◆


 遅い昼食を終えた頃、一件のメッセージが飛んできた。アニキからだ。その直後に父からもメッセージが届いて、離島から無事に脱出したことを知った。元気そうでなによりである。

「――御守り、アニキ経由でいただけることになりましたよ。一週間くらいはかかりそうですけど」
「そう。向こうも大変だっただろうねえ」
「何かご存知なんですか?」
「知っているというか、今朝ここにきた怪異の本体があるところに行っていたんだろうって思って」

 あ、そこが繋がるのか……
 裏で糸を引いているやつが出てくれば離島から出られるという話だったと記憶しているが、それがあの燕尾服の怪異関連だったということか。遠方で面倒ごとに巻き込まれていたらしかった。
 詳しくは落ち着いてから連絡をすると書いてあったので、そのうち電話がかかるだろう。お疲れ様である。

「いよいよこれで怪異まわりは安全になったかな」

 神様さんがほっとしたような顔をした。気に掛けてくれていたようだ。

「ところで、御守りとお札が揃うまではこちらにいるって話でしたけど、どこかにいく予定でもあるんですか?」
「ううん? アテはないよ」
「じゃあどうしてそんな話を?」
「区切りをつけるならそこかなって思っただけさ。他の理由はない」

 昼食の片付けを終えて、彼はさらりと答えた。ちょっと様子がおかしい。

「んー、父がここに来るかもしれないと警戒したからではないんですか?」
「まあ……それはちょっとある。梓くん相手のようにはいかないだろうなあって思ってたから」

 そう呟くように告げて、彼らしくない苦虫を噛み潰したような顔をした。

「神様さんは昔、幼い私に会ったことがあるっておっしゃっていましたが、父にも会っています?」

 そう切り出せば、彼はあからさまに震えた。意外な反応。

「あはは……正直に話すとね、会ったことはあるよ」
「どうして怯えているんです? 父の話をしたとき、そこまで反応しなかったじゃないですか」
「あれから思い出したことが、ちょっと、うん……」

 どうにかこの話題を回避したいという顔をしている。意図的に嘘はつけない体質だというのだから、的確な質問をぶつければいろいろ聞き出せそうではある。
 私は頭を巡らせた。

「――神様さんは、私を口説こうとしているのが見つかって、封じられていたんじゃないですか? それこそ……私の御守りに」

 行方不明になった私の御守り。梅の花があしらわれた、ちょっと年季の入った見た目の御守り。どこに行くにも持ち歩くように言われて、なくさないように大事にしてきたものだ。
 それがあの夜を境に消えてしまった。およそ落としたりしないだろう場所にしまっていたのに。
 私が問えば、彼は目をまんまるにした。

「そう……だとしたら?」
「あ、いえ。どうもしませんよ。効果絶大な御守りだったから、ひょっとしたらと思っただけです」

 独特の気配を放っていたので、御守りを持っている間は生命の危機に至りそうな危ない怪異との遭遇はなかった。何が入っているのか聞くことがなかったから素直に持ち歩いていただけのこと。
 これ以上は追及しないと意思表示をすれば、彼は嬉しそうに笑った。

「ふふ。そうだね。ずっと、君のそばにいたよ。制限を受けていたから、全部を思い出せるわけではないけど、僕は君を守っていたんだ」

 制限と答えているが、おそらく封印されていたのだろう。父は怪異を封じる秘技を身につけている。

「次の御守り、中身は何ですかね」
「僕の神通力を込められる仕様だとありがたいなあ」

 なるほど。そういうことも可能ではあるのか。
 我が家特製の御守りである。怪異を遠ざけるために何か特別な術が施されている……らしい。

「――もしも、神様さんが思っているようなものだったら」
「うん?」
「父からの許可が出ているってことでしょうから、延長しませんか?」
「延長?」
「私のそばにいること」
「え?」

 ここで驚かれるとは思わなかった。私は慌てて首を横に振る。

「あ、無理には引き止めませんよ」
「引き止めてよ」
「私に好きな人ができるまで、という条件を課します」
「うん、それで充分さ」

 神様さんは上機嫌だ。

「君は僕を手放さないだろうからね」
「未来はわからないですよ」
「ふふ。手放す気が起きないように頑張るよ」

 頑張るところが違うんじゃないかなんて思いつつも、喜ぶ神様さんを見ていたらどうでもよくなってしまったのだった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

隣の家に住むイクメンの正体は龍神様でした~社無しの神とちびっ子神使候補たち

鳴澤うた
キャラ文芸
失恋にストーカー。 心身ともにボロボロになった姉崎菜緒は、とうとう道端で倒れるように寝てしまって……。 悪夢にうなされる菜緒を夢の中で救ってくれたのはなんとお隣のイクメン、藤村辰巳だった。 辰巳と辰巳が世話する子供たちとなんだかんだと交流を深めていくけれど、子供たちはどこか不可思議だ。 それもそのはず、人の姿をとっているけれど辰巳も子供たちも人じゃない。 社を持たない龍神様とこれから神使となるため勉強中の動物たちだったのだ! 食に対し、こだわりの強い辰巳に神使候補の子供たちや見守っている神様たちはご不満で、今の現状を打破しようと菜緒を仲間に入れようと画策していて…… 神様と作る二十四節気ごはんを召し上がれ!

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

聖女召喚されて『お前なんか聖女じゃない』って断罪されているけど、そんなことよりこの国が私を召喚したせいで滅びそうなのがこわい

金田のん
恋愛
自室で普通にお茶をしていたら、聖女召喚されました。 私と一緒に聖女召喚されたのは、若くてかわいい女の子。 勝手に召喚しといて「平凡顔の年増」とかいう王族の暴言はこの際、置いておこう。 なぜなら、この国・・・・私を召喚したせいで・・・・いまにも滅びそうだから・・・・・。 ※小説家になろうさんにも投稿しています。

貴族家三男の成り上がりライフ 生まれてすぐに人外認定された少年は異世界を満喫する

美原風香
ファンタジー
「残念ながらあなたはお亡くなりになりました」 御山聖夜はトラックに轢かれそうになった少女を助け、代わりに死んでしまう。しかし、聖夜の心の内の一言を聴いた女神から気に入られ、多くの能力を貰って異世界へ転生した。 ーけれども、彼は知らなかった。数多の神から愛された彼は生まれた時点で人外の能力を持っていたことを。表では貴族として、裏では神々の使徒として、異世界のヒエラルキーを駆け上っていく!これは生まれてすぐに人外認定された少年の最強に無双していく、そんなお話。 ✳︎不定期更新です。 21/12/17 1巻発売! 22/05/25 2巻発売! コミカライズ決定! 20/11/19 HOTランキング1位 ありがとうございます!

婚約破棄されて辺境へ追放されました。でもステータスがほぼMAXだったので平気です!スローライフを楽しむぞっ♪

naturalsoft
恋愛
シオン・スカーレット公爵令嬢は転生者であった。夢だった剣と魔法の世界に転生し、剣の鍛錬と魔法の鍛錬と勉強をずっとしており、攻略者の好感度を上げなかったため、婚約破棄されました。 「あれ?ここって乙女ゲーの世界だったの?」 まっ、いいかっ! 持ち前の能天気さとポジティブ思考で、辺境へ追放されても元気に頑張って生きてます!

将来を誓い合った王子様は聖女と結ばれるそうです

きぬがやあきら
恋愛
「聖女になれなかったなりそこない。こんなところまで追って来るとはな。そんなに俺を忘れられないなら、一度くらい抱いてやろうか?」 5歳のオリヴィエは、神殿で出会ったアルディアの皇太子、ルーカスと恋に落ちた。アルディア王国では、皇太子が代々聖女を妻に迎える慣わしだ。しかし、13歳の選別式を迎えたオリヴィエは、聖女を落選してしまった。 その上盲目の知恵者オルガノに、若くして命を落とすと予言されたオリヴィエは、せめてルーカスの傍にいたいと、ルーカスが団長を務める聖騎士への道へと足を踏み入れる。しかし、やっとの思いで再開したルーカスは、昔の約束を忘れてしまったのではと錯覚するほど冷たい対応で――?

後宮の胡蝶 ~皇帝陛下の秘密の妃~

菱沼あゆ
キャラ文芸
 突然の譲位により、若き皇帝となった苑楊は封印されているはずの宮殿で女官らしき娘、洋蘭と出会う。  洋蘭はこの宮殿の牢に住む老人の世話をしているのだと言う。  天女のごとき外見と豊富な知識を持つ洋蘭に心惹かれはじめる苑楊だったが。  洋蘭はまったく思い通りにならないうえに、なにかが怪しい女だった――。  中華後宮ラブコメディ。

処理中です...