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神さま(?)拾いました【本編完結】
37.事件についてはこれで解決
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「弓弦ちゃん」
「あー、大丈夫です。腰が抜けただけで」
「ごめんね。怖い思いをさせてしまったかな」
駆けつけてきた神様さんに、私は首を横に振る。
「いえ。父の方がもっとこう派手に怪異を散らすんで、見慣れてます」
「それは……大丈夫じゃない気がするよ」
「あなたも父を敵にまわさないほうがいいですよ」
「肝に銘じておく」
私がなにを思い出したのか、彼には読み取れてしまったのかもしれない。神様さんは苦笑して頬を軽く掻いた。
「――とりあえず、事件についてはこれで解決さ。元凶になった怪異はしばらく近づけないようにしたし、あの女も怪異に憑かれていただけだから君に対してよほどの執念がなければ寄ってこないはず。普通の人間だったら、僕がいるだけで寄りつこうとも思えないんじゃないかな」
「怪異まわりは終わりってことですね」
「そうなるね」
私はふむと唸り、人差し指を立てて、神様さんの前で軽く振った。
「それでですね、私。あの日のこと、思い出せたんですよ」
「うん?」
彼はきょとんとした。目を瞬かせる。
「刃物を持った男に襲われそうになったとき、輝く神様さんが現れて男を消しちゃったんですよね。泥酔していたし、夢だったとか記憶違いかと思ったんですけど、そういうことなんですよね?」
「そういうことって?」
これははぐらかそうとしている。私は言葉を選んだ。
「犯人を異空間に閉じ込めていたんだろうなあって」
「ありゃ……鋭いね」
「で、記憶に干渉したときにそれを思い出して、神様さん、犯人を吐き出したんでしょう?」
「ご明察」
神様さんは苦笑していた。私には思い出してほしくなかったようだ。
私は腕を組む。
「あの傷害事件の犯人って、あの怪異に操られていたってことなんですよね?」
「僕はそう考えているけれど、事実かどうかはわからないかな。犯人が動機をちゃんと自供しているなら、偶然も多分に含んでいると思うよ」
「じゃあ、事件の情報はしばらくチェックしないと、ですね」
怪異については終わったとしたのは、事件の真相まではわからないからだ。傷害事件の現場近くに自分がたまたまいただけだったかもしれないわけで。
私は一つ息を吐き出し、部屋を見渡す。まだ金色に光っているのだが、いつまでこの状態なんだろう。
「ここって神域ってやつなんですよね?」
「僕の力を最大限に引き出すにはちょうどいいからね。それに、あの怪異は君に乗り移るつもりで近づいてきたから、能力を封じるためにもこの方が都合が良かったんだ」
神様さんの本気を出せる特殊フィールドということか。
あの日の夜も、真夜中なのに世界が輝いて見えていた。車のライトだと思い込んでいたけれど、違ったということだ。
「私、帰れますよね?」
「弓弦ちゃんが望むなら、いつでも」
「じゃあ、帰る前に一つ」
「うん?」
すぐに帰せと言われると予測したのだろう。手を叩くモーションに入っていた彼は寸前で手を止めて首を傾げた。
私は小さく息を吸い込んで吐く。彼を真っ直ぐに見つめて、唇を動かした。
「僕の伴侶ってなんですか? あの小説のオマージュにしても、どさくさに紛れてなんてことを言うんですか! あなたの口からそんな言葉が出るってことは、本気でそう思っているってことでしょ?」
「ああ、そのことかあ」
彼はにこっと笑って、ぽんっと一つ手を叩いた。部屋の輝きが失われて、いつも通りの私の部屋が戻ってくる。
「なにをのほほんと……」
「弓弦ちゃんの名前を告げずに君のことを表現する適当な言葉が浮かばなくてね。契りも結んでいることだし、相棒と呼ぶよりは伴侶の方がいいなあという……願望、かな」
「伴侶ではないですよ! それに、まだ、私、ちゃんと婚約を解消できていない身ですし」
「うん。知ってる。だから」
私の手を急に取り、手のひらを上に向けさせる。そこに神様さんは何かをぽんっと置いた。彼の手が退けられると、そこには私のスマートフォンがある。
「ちゃんと、話をすべきだよ。弓弦ちゃんの気持ちを、彼に正しく伝えるべきだ」
「え? でも」
「話し合いをしなよ」
スマートフォンが震える。ケイスケの名前が画面に表示された。
「ええ、今、ですかっ?」
「今すべきなんだ」
しっかりと握らされて押しつけられる。電話はまだ震えている。
目が合った神様さんは、私に深く頷いて促した。
……今、か。
向き合わなければならない。逃げることもできなくはないけれど、ケジメをつけるなら、今なのだ。
通話ボタンを押すまでの時間が、とてもとても長く感じた。
「あー、大丈夫です。腰が抜けただけで」
「ごめんね。怖い思いをさせてしまったかな」
駆けつけてきた神様さんに、私は首を横に振る。
「いえ。父の方がもっとこう派手に怪異を散らすんで、見慣れてます」
「それは……大丈夫じゃない気がするよ」
「あなたも父を敵にまわさないほうがいいですよ」
「肝に銘じておく」
私がなにを思い出したのか、彼には読み取れてしまったのかもしれない。神様さんは苦笑して頬を軽く掻いた。
「――とりあえず、事件についてはこれで解決さ。元凶になった怪異はしばらく近づけないようにしたし、あの女も怪異に憑かれていただけだから君に対してよほどの執念がなければ寄ってこないはず。普通の人間だったら、僕がいるだけで寄りつこうとも思えないんじゃないかな」
「怪異まわりは終わりってことですね」
「そうなるね」
私はふむと唸り、人差し指を立てて、神様さんの前で軽く振った。
「それでですね、私。あの日のこと、思い出せたんですよ」
「うん?」
彼はきょとんとした。目を瞬かせる。
「刃物を持った男に襲われそうになったとき、輝く神様さんが現れて男を消しちゃったんですよね。泥酔していたし、夢だったとか記憶違いかと思ったんですけど、そういうことなんですよね?」
「そういうことって?」
これははぐらかそうとしている。私は言葉を選んだ。
「犯人を異空間に閉じ込めていたんだろうなあって」
「ありゃ……鋭いね」
「で、記憶に干渉したときにそれを思い出して、神様さん、犯人を吐き出したんでしょう?」
「ご明察」
神様さんは苦笑していた。私には思い出してほしくなかったようだ。
私は腕を組む。
「あの傷害事件の犯人って、あの怪異に操られていたってことなんですよね?」
「僕はそう考えているけれど、事実かどうかはわからないかな。犯人が動機をちゃんと自供しているなら、偶然も多分に含んでいると思うよ」
「じゃあ、事件の情報はしばらくチェックしないと、ですね」
怪異については終わったとしたのは、事件の真相まではわからないからだ。傷害事件の現場近くに自分がたまたまいただけだったかもしれないわけで。
私は一つ息を吐き出し、部屋を見渡す。まだ金色に光っているのだが、いつまでこの状態なんだろう。
「ここって神域ってやつなんですよね?」
「僕の力を最大限に引き出すにはちょうどいいからね。それに、あの怪異は君に乗り移るつもりで近づいてきたから、能力を封じるためにもこの方が都合が良かったんだ」
神様さんの本気を出せる特殊フィールドということか。
あの日の夜も、真夜中なのに世界が輝いて見えていた。車のライトだと思い込んでいたけれど、違ったということだ。
「私、帰れますよね?」
「弓弦ちゃんが望むなら、いつでも」
「じゃあ、帰る前に一つ」
「うん?」
すぐに帰せと言われると予測したのだろう。手を叩くモーションに入っていた彼は寸前で手を止めて首を傾げた。
私は小さく息を吸い込んで吐く。彼を真っ直ぐに見つめて、唇を動かした。
「僕の伴侶ってなんですか? あの小説のオマージュにしても、どさくさに紛れてなんてことを言うんですか! あなたの口からそんな言葉が出るってことは、本気でそう思っているってことでしょ?」
「ああ、そのことかあ」
彼はにこっと笑って、ぽんっと一つ手を叩いた。部屋の輝きが失われて、いつも通りの私の部屋が戻ってくる。
「なにをのほほんと……」
「弓弦ちゃんの名前を告げずに君のことを表現する適当な言葉が浮かばなくてね。契りも結んでいることだし、相棒と呼ぶよりは伴侶の方がいいなあという……願望、かな」
「伴侶ではないですよ! それに、まだ、私、ちゃんと婚約を解消できていない身ですし」
「うん。知ってる。だから」
私の手を急に取り、手のひらを上に向けさせる。そこに神様さんは何かをぽんっと置いた。彼の手が退けられると、そこには私のスマートフォンがある。
「ちゃんと、話をすべきだよ。弓弦ちゃんの気持ちを、彼に正しく伝えるべきだ」
「え? でも」
「話し合いをしなよ」
スマートフォンが震える。ケイスケの名前が画面に表示された。
「ええ、今、ですかっ?」
「今すべきなんだ」
しっかりと握らされて押しつけられる。電話はまだ震えている。
目が合った神様さんは、私に深く頷いて促した。
……今、か。
向き合わなければならない。逃げることもできなくはないけれど、ケジメをつけるなら、今なのだ。
通話ボタンを押すまでの時間が、とてもとても長く感じた。
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