欲望の神さま拾いました【本編完結】

一花カナウ

文字の大きさ
上 下
90 / 96
神さま(?)拾いました【本編完結】

34.ドア一枚隔てた向こう側

しおりを挟む

 ◆◇◆◇◆◇◆◇◆


 インターフォンの音がうるさい。私はゆっくりと目を開ける。

「……しつこい」

 インターフォンを鳴らしすぎだと思う。
 新聞の勧誘も宗教の勧誘もここまでしつこくしないのではなかろうか。オートロックの扉の前に長く居座っていると通報されるから、都合の悪い連中は早々に退散する。何者だろう。
 ケイスケの顔が一瞬よぎったが、あいつには合鍵を渡してあるからインターフォンを鳴らす必要がないことに思い至る。
 あとはアニキだろうが、アニキであればまずはスマホを鳴らすだろう。電源は入っているはずだし。
 憂鬱な気持ちで上体を起こしたところで、神様さんがダイニングの方から寝室に顔を出した。

「弓弦ちゃんは寝たままでいいよ」
「ですが、誰か来ているんでしょ?」

 まだインターフォンは鳴っている。しつこいにも程がある。
 大きく伸びをしてスマホに触れて新着を確認。時刻は十時過ぎですっかり寝坊しているのだが、誰かからの通話もメッセージも入っていないことはわかった。

「適当に追い払うから、そこにいていい」

 神様さんの様子がおかしい。どことなくピリピリしている。
 起き上がって部屋を出ようとする私をとどめるように彼は立ち塞がった。

「ん?」
「いいからいいから」

 まだしつこく音は響いている。

「知っている人?」

 この部屋からインターフォンのモニターは見えない。私が背伸びをして確認しようとすれば、彼は私をギュッと抱きしめて抵抗してきた。

「ちょ、神様さん?」
「見ないほうがいい。そのうち諦めるよ」
「怪異かなにかですか?」
「わりとその類だから、対応に困るんだよね……」

 神様さんは焦っているようだ。ここに来てほしくない誰かの訪問。
 会社の人ではないだろうし、ケイスケでもアニキでもないのだとしたら。
 突然に部屋を訪ねてくる友人は残念ながらいないのだが、一人だけ、神様さんが警戒するのも頷ける人物の顔を思い出した。

「まさか」

 インターフォンがようやく沈黙する。去ったのだろうと思って放せと促すが、神様さんはまだ警戒している。ドアの外に意識を向けている。

「神様さん?」
「黙ってて。ここまで上がってくる」
「え?」

 フロアのインターフォンが鳴った。ドアを隔てた向こう側に誰か来ている。
 もう一度、インターフォンが鳴った。そのあとにドアが叩かれる。ドンドンドン、とやや強めのノック。ご近所迷惑ではないかと思うが、向こうはお構いなしらしい。

「居留守すんじゃないわよ!」

 それなりに防音処理がされているはずの家なのだが、外廊下からの声ははっきりと聞こえた。
 この声。
 記憶の彼方に追いやられて、なんならしばらく忘れていた女の声がした。
 ケイスケと同棲中の女である。

「昨夜誰か訪ねてきた後から誰も外に出てないことは確認済みなのよ? いるんでしょ! 出てきなさいよ!」

 この喋り方、このまとわりつくような声。一度聞いただけで覚えられたが、正直なところもう忘れたい。
 一体なんの用事だ。
 ケイスケとは別れる話がついているし、居候女と競うつもりもやり合うつもりもなく潔く退くことにした私になんの用事があるのだ。

「部屋から一歩も外に出ないなんて卑怯よ! 正々堂々と勝負しなさいな!」

 部屋から一歩も出ないのは、今回に限ってのことではないのだが。
 私は腕に閉じ込められたまま神様さんの顔を見上げる。

「警察を呼びますか?」

 小声で尋ねると、神様さんは首を小さく横に振った。

「たぶん、それは意味がない」
「どうして?」

 あの夜の事件で警察が見回りを強化していたのだから、犯人が捕まったとはいえなんかしらの対応をしてくれそうなものであるが。
 私の問いに、彼は人差し指を口元に当てた。

「向こうも怪異連れなんだ」
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

隣の家に住むイクメンの正体は龍神様でした~社無しの神とちびっ子神使候補たち

鳴澤うた
キャラ文芸
失恋にストーカー。 心身ともにボロボロになった姉崎菜緒は、とうとう道端で倒れるように寝てしまって……。 悪夢にうなされる菜緒を夢の中で救ってくれたのはなんとお隣のイクメン、藤村辰巳だった。 辰巳と辰巳が世話する子供たちとなんだかんだと交流を深めていくけれど、子供たちはどこか不可思議だ。 それもそのはず、人の姿をとっているけれど辰巳も子供たちも人じゃない。 社を持たない龍神様とこれから神使となるため勉強中の動物たちだったのだ! 食に対し、こだわりの強い辰巳に神使候補の子供たちや見守っている神様たちはご不満で、今の現状を打破しようと菜緒を仲間に入れようと画策していて…… 神様と作る二十四節気ごはんを召し上がれ!

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

聖女召喚されて『お前なんか聖女じゃない』って断罪されているけど、そんなことよりこの国が私を召喚したせいで滅びそうなのがこわい

金田のん
恋愛
自室で普通にお茶をしていたら、聖女召喚されました。 私と一緒に聖女召喚されたのは、若くてかわいい女の子。 勝手に召喚しといて「平凡顔の年増」とかいう王族の暴言はこの際、置いておこう。 なぜなら、この国・・・・私を召喚したせいで・・・・いまにも滅びそうだから・・・・・。 ※小説家になろうさんにも投稿しています。

貴族家三男の成り上がりライフ 生まれてすぐに人外認定された少年は異世界を満喫する

美原風香
ファンタジー
「残念ながらあなたはお亡くなりになりました」 御山聖夜はトラックに轢かれそうになった少女を助け、代わりに死んでしまう。しかし、聖夜の心の内の一言を聴いた女神から気に入られ、多くの能力を貰って異世界へ転生した。 ーけれども、彼は知らなかった。数多の神から愛された彼は生まれた時点で人外の能力を持っていたことを。表では貴族として、裏では神々の使徒として、異世界のヒエラルキーを駆け上っていく!これは生まれてすぐに人外認定された少年の最強に無双していく、そんなお話。 ✳︎不定期更新です。 21/12/17 1巻発売! 22/05/25 2巻発売! コミカライズ決定! 20/11/19 HOTランキング1位 ありがとうございます!

婚約破棄されて辺境へ追放されました。でもステータスがほぼMAXだったので平気です!スローライフを楽しむぞっ♪

naturalsoft
恋愛
シオン・スカーレット公爵令嬢は転生者であった。夢だった剣と魔法の世界に転生し、剣の鍛錬と魔法の鍛錬と勉強をずっとしており、攻略者の好感度を上げなかったため、婚約破棄されました。 「あれ?ここって乙女ゲーの世界だったの?」 まっ、いいかっ! 持ち前の能天気さとポジティブ思考で、辺境へ追放されても元気に頑張って生きてます!

将来を誓い合った王子様は聖女と結ばれるそうです

きぬがやあきら
恋愛
「聖女になれなかったなりそこない。こんなところまで追って来るとはな。そんなに俺を忘れられないなら、一度くらい抱いてやろうか?」 5歳のオリヴィエは、神殿で出会ったアルディアの皇太子、ルーカスと恋に落ちた。アルディア王国では、皇太子が代々聖女を妻に迎える慣わしだ。しかし、13歳の選別式を迎えたオリヴィエは、聖女を落選してしまった。 その上盲目の知恵者オルガノに、若くして命を落とすと予言されたオリヴィエは、せめてルーカスの傍にいたいと、ルーカスが団長を務める聖騎士への道へと足を踏み入れる。しかし、やっとの思いで再開したルーカスは、昔の約束を忘れてしまったのではと錯覚するほど冷たい対応で――?

後宮の胡蝶 ~皇帝陛下の秘密の妃~

菱沼あゆ
キャラ文芸
 突然の譲位により、若き皇帝となった苑楊は封印されているはずの宮殿で女官らしき娘、洋蘭と出会う。  洋蘭はこの宮殿の牢に住む老人の世話をしているのだと言う。  天女のごとき外見と豊富な知識を持つ洋蘭に心惹かれはじめる苑楊だったが。  洋蘭はまったく思い通りにならないうえに、なにかが怪しい女だった――。  中華後宮ラブコメディ。

処理中です...