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アフターストーリー【不定期更新】
猫のように気まぐれ
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朝の陽射しみたいに柔らかい色をした癖毛を撫でる。気まぐれな猫みたいに、いつかすっと居なくなってしまうんじゃないかと思っていたのに、どうにも居心地がいいらしい。
「……どうかしたのかい?」
同じベッドの中で寝ていた彼はゆっくりと目を開けて私をその瞳に映した。
「すっかり見慣れてしまったなって思いまして」
「うん? 僕の裸体に欲情できなくなった?」
「……そういう話はしていないです」
昨夜もそれなりにイチャイチャしたわけで、欲情できなくなったということはあるまい。今、そういう気分じゃないのは昨夜のそれがあるからだし、これから在宅ワークだというのに盛っている場合ではないからだ。
私があきれて冷たく返せば、彼は小さく欠伸をした。
「ふふ。冗談だよ」
「知ってます」
私がベッドを出ようとしたら腕を掴まれた。掛け布団の中に引き戻されたかと思えば、組み敷かれて口づけをされる。
「始業に間に合わなくなるので、ここまでですよ」
「頭を撫でられて心地よくなっちゃったから、お返しがしたいんだ」
「じゃあ、今夜にお願いします」
迷わずに即答する。彼は目を瞬かせたあとにとろけるように笑った。
「ふふ。じゃあお利口に待たなきゃね。約束だよ?」
「神様相手に約束を破ったりしませんよ」
自称神様な怪異である彼との約束は誠意を持って遂行せねばならない。反故にした場合の代償は、約束の程度に合わせてそれなりに必要だ。
今のところ、彼を怒らせるようなことは私自身はしていないはずだが、どこで地雷を踏むかはわからない。気を引き締めていこう。
「うんうん。いい心掛けだ。弓弦ちゃんは信用しているよ」
「神様さんには信用していない相手、いるんですか?」
アニキに対しては不信感を抱いていなくとも、胡散臭い面倒な相手だとは思っていそうではあるが。
私が尋ねれば、神様さんは口元だけにたあっと笑った。珍しく怖い。
「まあ、いるにはいるよねえ」
「詳しくは聞かないことにしておきます」
「賢明な子は大好きだよ」
「それは大変有り難いことで」
ベッドから出ることを許されて、私は着替えをする。その様子を彼にじっと見られているのだが、それもなんか慣れてしまった。体の隅々まで知られているので、恥ずかしさも気まずさもないから――というのは建前みたいなもので、時間があると油断していたせいで急がねばならないからだ。
「首に痕ついてるから、隠したほうがいいよ?」
「仕事がある日はダメって言ってるじゃないですか!」
「残すつもりはなかったんだけど」
「教えてくれたことに感謝して、今は不問にします」
「次からは気をつけるね」
「お願いします」
私の着替えが終わるのを待って、彼もベッドから出てきた。
いつ見ても、どこかのグラビア雑誌の表紙を飾れそうなプロポーションである。神通力の類でこの体型を維持しているらしいが、羨ましいというのを通り越してありがたがっている自分がいる。非常に眼福。
私が堪能しているのを確認した上で、彼は手をポンと叩いて衣装チェンジ。動きやすい部屋着に変わる。
イケメンは何を着てもイケメンなんだよな……。いや、ラフな格好でも自分に似合うように着こなしているんだろうけど。
「朝ごはん、食べるかい?」
「軽いものが用意できるならお願いしたいです」
「了解」
彼はニコッと笑ってキッチンに向かってしまう。最近メキメキと料理の腕が上がっているから大したものである。自分の食生活のクオリティが間違いなく上がっているので感謝しても感謝しきれない。肌荒れが減ったのは、イチャイチャのお陰だけではないのだろう。
顔を洗って化粧をしたり髪を整えたりしているうちに美味しそうな匂いがしてくる。オニオンスープらしい。多分、ベーコンも入っている。
「弓弦ちゃん、準備できているよ」
「いま行きます」
猫みたいに気まぐれで私に構って、飽きたらどこかに行ってしまうのだとばかり思ってきたのに。
これが日常で当たり前だと思わないようにしないと――と言い聞かせながら、ずるい私は彼に甘えることを選ぶ。
《終わり》
「……どうかしたのかい?」
同じベッドの中で寝ていた彼はゆっくりと目を開けて私をその瞳に映した。
「すっかり見慣れてしまったなって思いまして」
「うん? 僕の裸体に欲情できなくなった?」
「……そういう話はしていないです」
昨夜もそれなりにイチャイチャしたわけで、欲情できなくなったということはあるまい。今、そういう気分じゃないのは昨夜のそれがあるからだし、これから在宅ワークだというのに盛っている場合ではないからだ。
私があきれて冷たく返せば、彼は小さく欠伸をした。
「ふふ。冗談だよ」
「知ってます」
私がベッドを出ようとしたら腕を掴まれた。掛け布団の中に引き戻されたかと思えば、組み敷かれて口づけをされる。
「始業に間に合わなくなるので、ここまでですよ」
「頭を撫でられて心地よくなっちゃったから、お返しがしたいんだ」
「じゃあ、今夜にお願いします」
迷わずに即答する。彼は目を瞬かせたあとにとろけるように笑った。
「ふふ。じゃあお利口に待たなきゃね。約束だよ?」
「神様相手に約束を破ったりしませんよ」
自称神様な怪異である彼との約束は誠意を持って遂行せねばならない。反故にした場合の代償は、約束の程度に合わせてそれなりに必要だ。
今のところ、彼を怒らせるようなことは私自身はしていないはずだが、どこで地雷を踏むかはわからない。気を引き締めていこう。
「うんうん。いい心掛けだ。弓弦ちゃんは信用しているよ」
「神様さんには信用していない相手、いるんですか?」
アニキに対しては不信感を抱いていなくとも、胡散臭い面倒な相手だとは思っていそうではあるが。
私が尋ねれば、神様さんは口元だけにたあっと笑った。珍しく怖い。
「まあ、いるにはいるよねえ」
「詳しくは聞かないことにしておきます」
「賢明な子は大好きだよ」
「それは大変有り難いことで」
ベッドから出ることを許されて、私は着替えをする。その様子を彼にじっと見られているのだが、それもなんか慣れてしまった。体の隅々まで知られているので、恥ずかしさも気まずさもないから――というのは建前みたいなもので、時間があると油断していたせいで急がねばならないからだ。
「首に痕ついてるから、隠したほうがいいよ?」
「仕事がある日はダメって言ってるじゃないですか!」
「残すつもりはなかったんだけど」
「教えてくれたことに感謝して、今は不問にします」
「次からは気をつけるね」
「お願いします」
私の着替えが終わるのを待って、彼もベッドから出てきた。
いつ見ても、どこかのグラビア雑誌の表紙を飾れそうなプロポーションである。神通力の類でこの体型を維持しているらしいが、羨ましいというのを通り越してありがたがっている自分がいる。非常に眼福。
私が堪能しているのを確認した上で、彼は手をポンと叩いて衣装チェンジ。動きやすい部屋着に変わる。
イケメンは何を着てもイケメンなんだよな……。いや、ラフな格好でも自分に似合うように着こなしているんだろうけど。
「朝ごはん、食べるかい?」
「軽いものが用意できるならお願いしたいです」
「了解」
彼はニコッと笑ってキッチンに向かってしまう。最近メキメキと料理の腕が上がっているから大したものである。自分の食生活のクオリティが間違いなく上がっているので感謝しても感謝しきれない。肌荒れが減ったのは、イチャイチャのお陰だけではないのだろう。
顔を洗って化粧をしたり髪を整えたりしているうちに美味しそうな匂いがしてくる。オニオンスープらしい。多分、ベーコンも入っている。
「弓弦ちゃん、準備できているよ」
「いま行きます」
猫みたいに気まぐれで私に構って、飽きたらどこかに行ってしまうのだとばかり思ってきたのに。
これが日常で当たり前だと思わないようにしないと――と言い聞かせながら、ずるい私は彼に甘えることを選ぶ。
《終わり》
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