82 / 96
神さま(?)拾いました【本編完結】
26.代わりになりたかったかい?
しおりを挟む
◆◇◆◇◆◇◆◇◆
まもなく、二度目のインターフォンが鳴った。つづいて、ドアを開ける気配がある。神様さんが応対しているのだろう。
大丈夫そうね?
彼は私を優先している節があるから、任せておいて問題はないはずだ。私は彼を信用している。ただ、朝の電話のやりとりのことがある。ほったらかしというわけにはいかない。
すごく怒ってる、なんて報告するからどうなるかと思ったわ……
顔を合わせるなり怒鳴り合うような展開にはならなかったようなので、そこはひとまず安堵した。さっさと髪をすすいで風呂を出よう。
……っと、待てよ。着替えを用意しなかったよね?
髪をすすぎ終えて髪を拭いているときに気づいた。浴室に入るときはすでに全裸だったので、身につけていた服すらない。このタイミングで誰かが訪ねてくるなんてことを想定していなかったのだ。
しまったな。アニキの前にすっぽんぽんは流石にまずいし、神様さんに服を取ってきてもらうのも微妙な気が。いや、神様さんは私の衣類がどこにしまってあるのかを把握しているからその点については問題ないんだけど、その様子をアニキに見られるというか聞かれるというかそういうのが大変よろしくない。
だとしてもなあ……
部屋の間取りの都合上、風呂場から寝室までを身を隠して移動することは不可能なのだ。どうにかして、服を調達する必要がある。
現状を打開する妙案は浮かばなかったが、髪を拭いて体も拭き終えてしまった。浴室に届く音声からは非常事態ということはなさそうである。慌てて出て行く必要はないとはいえ、長湯ともいかない。私はバスタオルを体に巻き付けて、そっと脱衣所に出る。脱衣所の先はダイニングキッチンになっているので、そこに二人がいるはずだ。
ダイニングキッチンと脱衣所を隔てるドアに顔を静かに寄せる。
聞き耳を立てると二人の会話がはっきりとした。
「――この状況を受け入れろっていうことの方が無理があるだろ」
その言葉に続くのはアニキの深い深いため息。
神様さんの笑う声がする。
「でもこれが現実なんだよねえ」
「その合いの手は不要だ」
不満な気持ちを隠さない兄の声に、私は心の中で同意した。現実だと言われたところで、すんなり受け入れられる状況ではない。
「君がどんな手を使おうとも、もう後戻りはできないってことさ」
諦めて流されろと言いたげな口調で神様さんが諭す。
私の見えないところでアニキがなにをしているのか知らないが、アニキなりに尽力しているのはわかる。いろいろ申し訳ない。
「先延ばしにできただけ、上等だろ。オレは一般人なんだよ」
「梓くんはとても優秀な一般人だよ」
アニキの特大のため息。お疲れのようである。
「優秀だろうと、オレはどうせ蚊帳の外だろ。どんなに努力したところで、そっち側にはいけないじゃないか」
愚痴に対し、神様さんはふむと唸る。
「君にしては後ろ向きな言葉だねえ」
「非力な自分に打ちのめされているんだよ」
移動する足音。カタンと何かがぶつかる音。たぶん、ダイニングテーブルか椅子に何かがぶつかったのだろう。
「ふうん。弓弦ちゃんの代わりになりたかったかい?」
「いや。代わりにはならないな。オレじゃ背負えない。だが、少しでもオレがあいつの荷物を背負えたらって、思ってはいる」
沈黙。
たぶん、神様さんがじっと兄の目を覗き込んでいるところなのだろう。彼はそうやって心を覗こうとする癖があるから。
彼のそういう態度に、兄はじっと見つめ返すだろうことも想像にたやすい。兄は相手が人間であれ怪異であれ、いつだって真っ正面に立ち向かう。自分が弱いことを認めた上で、それでも今できることを全力でやることを選ぶ人なのだ。
「――ふふ。君は賢い」
神様さんが退いたらしかった。満足げな声。お気に召したようだ。
「そっちはどうするつもりなんだ? オレを駒にするなら、そう言えよ。命は賭けられないが、協力はする」
アニキの発言はちょっと意外だった。神様さんとの共闘を選ぶのか。
となると、アニキもアニキでなにか情報を掴んできたのかな?
会話の頭から聞いていたわけではないから、どんな情報を共有したのかわからない。ただ進展があったらしいことは察せられる。
神様さんは小さく唸る。
「そうだねえ。なにやら意図せず面倒なことになってしまったようだから、一つ一つ潰させてもらうよ。そろそろ、速報が出ると思う」
速報とは?
アニキが探りを入れるかと思いきや、そこには触れないようだ。
「ここを出ずに手を回せるのか?」
「むしろ、ここを動かないからこそできるんだけどね。それを潰せば、移動できるようになるから、ラクになると思うよ」
「……そうか」
兄の返事は気乗りがしない感じだった。アニキにとっては朗報ではなさそうだ。
まもなく、二度目のインターフォンが鳴った。つづいて、ドアを開ける気配がある。神様さんが応対しているのだろう。
大丈夫そうね?
彼は私を優先している節があるから、任せておいて問題はないはずだ。私は彼を信用している。ただ、朝の電話のやりとりのことがある。ほったらかしというわけにはいかない。
すごく怒ってる、なんて報告するからどうなるかと思ったわ……
顔を合わせるなり怒鳴り合うような展開にはならなかったようなので、そこはひとまず安堵した。さっさと髪をすすいで風呂を出よう。
……っと、待てよ。着替えを用意しなかったよね?
髪をすすぎ終えて髪を拭いているときに気づいた。浴室に入るときはすでに全裸だったので、身につけていた服すらない。このタイミングで誰かが訪ねてくるなんてことを想定していなかったのだ。
しまったな。アニキの前にすっぽんぽんは流石にまずいし、神様さんに服を取ってきてもらうのも微妙な気が。いや、神様さんは私の衣類がどこにしまってあるのかを把握しているからその点については問題ないんだけど、その様子をアニキに見られるというか聞かれるというかそういうのが大変よろしくない。
だとしてもなあ……
部屋の間取りの都合上、風呂場から寝室までを身を隠して移動することは不可能なのだ。どうにかして、服を調達する必要がある。
現状を打開する妙案は浮かばなかったが、髪を拭いて体も拭き終えてしまった。浴室に届く音声からは非常事態ということはなさそうである。慌てて出て行く必要はないとはいえ、長湯ともいかない。私はバスタオルを体に巻き付けて、そっと脱衣所に出る。脱衣所の先はダイニングキッチンになっているので、そこに二人がいるはずだ。
ダイニングキッチンと脱衣所を隔てるドアに顔を静かに寄せる。
聞き耳を立てると二人の会話がはっきりとした。
「――この状況を受け入れろっていうことの方が無理があるだろ」
その言葉に続くのはアニキの深い深いため息。
神様さんの笑う声がする。
「でもこれが現実なんだよねえ」
「その合いの手は不要だ」
不満な気持ちを隠さない兄の声に、私は心の中で同意した。現実だと言われたところで、すんなり受け入れられる状況ではない。
「君がどんな手を使おうとも、もう後戻りはできないってことさ」
諦めて流されろと言いたげな口調で神様さんが諭す。
私の見えないところでアニキがなにをしているのか知らないが、アニキなりに尽力しているのはわかる。いろいろ申し訳ない。
「先延ばしにできただけ、上等だろ。オレは一般人なんだよ」
「梓くんはとても優秀な一般人だよ」
アニキの特大のため息。お疲れのようである。
「優秀だろうと、オレはどうせ蚊帳の外だろ。どんなに努力したところで、そっち側にはいけないじゃないか」
愚痴に対し、神様さんはふむと唸る。
「君にしては後ろ向きな言葉だねえ」
「非力な自分に打ちのめされているんだよ」
移動する足音。カタンと何かがぶつかる音。たぶん、ダイニングテーブルか椅子に何かがぶつかったのだろう。
「ふうん。弓弦ちゃんの代わりになりたかったかい?」
「いや。代わりにはならないな。オレじゃ背負えない。だが、少しでもオレがあいつの荷物を背負えたらって、思ってはいる」
沈黙。
たぶん、神様さんがじっと兄の目を覗き込んでいるところなのだろう。彼はそうやって心を覗こうとする癖があるから。
彼のそういう態度に、兄はじっと見つめ返すだろうことも想像にたやすい。兄は相手が人間であれ怪異であれ、いつだって真っ正面に立ち向かう。自分が弱いことを認めた上で、それでも今できることを全力でやることを選ぶ人なのだ。
「――ふふ。君は賢い」
神様さんが退いたらしかった。満足げな声。お気に召したようだ。
「そっちはどうするつもりなんだ? オレを駒にするなら、そう言えよ。命は賭けられないが、協力はする」
アニキの発言はちょっと意外だった。神様さんとの共闘を選ぶのか。
となると、アニキもアニキでなにか情報を掴んできたのかな?
会話の頭から聞いていたわけではないから、どんな情報を共有したのかわからない。ただ進展があったらしいことは察せられる。
神様さんは小さく唸る。
「そうだねえ。なにやら意図せず面倒なことになってしまったようだから、一つ一つ潰させてもらうよ。そろそろ、速報が出ると思う」
速報とは?
アニキが探りを入れるかと思いきや、そこには触れないようだ。
「ここを出ずに手を回せるのか?」
「むしろ、ここを動かないからこそできるんだけどね。それを潰せば、移動できるようになるから、ラクになると思うよ」
「……そうか」
兄の返事は気乗りがしない感じだった。アニキにとっては朗報ではなさそうだ。
1
お気に入りに追加
27
あなたにおすすめの小説
隣の家に住むイクメンの正体は龍神様でした~社無しの神とちびっ子神使候補たち
鳴澤うた
キャラ文芸
失恋にストーカー。
心身ともにボロボロになった姉崎菜緒は、とうとう道端で倒れるように寝てしまって……。
悪夢にうなされる菜緒を夢の中で救ってくれたのはなんとお隣のイクメン、藤村辰巳だった。
辰巳と辰巳が世話する子供たちとなんだかんだと交流を深めていくけれど、子供たちはどこか不可思議だ。
それもそのはず、人の姿をとっているけれど辰巳も子供たちも人じゃない。
社を持たない龍神様とこれから神使となるため勉強中の動物たちだったのだ!
食に対し、こだわりの強い辰巳に神使候補の子供たちや見守っている神様たちはご不満で、今の現状を打破しようと菜緒を仲間に入れようと画策していて……
神様と作る二十四節気ごはんを召し上がれ!
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。

聖女召喚されて『お前なんか聖女じゃない』って断罪されているけど、そんなことよりこの国が私を召喚したせいで滅びそうなのがこわい
金田のん
恋愛
自室で普通にお茶をしていたら、聖女召喚されました。
私と一緒に聖女召喚されたのは、若くてかわいい女の子。
勝手に召喚しといて「平凡顔の年増」とかいう王族の暴言はこの際、置いておこう。
なぜなら、この国・・・・私を召喚したせいで・・・・いまにも滅びそうだから・・・・・。
※小説家になろうさんにも投稿しています。
貴族家三男の成り上がりライフ 生まれてすぐに人外認定された少年は異世界を満喫する
美原風香
ファンタジー
「残念ながらあなたはお亡くなりになりました」
御山聖夜はトラックに轢かれそうになった少女を助け、代わりに死んでしまう。しかし、聖夜の心の内の一言を聴いた女神から気に入られ、多くの能力を貰って異世界へ転生した。
ーけれども、彼は知らなかった。数多の神から愛された彼は生まれた時点で人外の能力を持っていたことを。表では貴族として、裏では神々の使徒として、異世界のヒエラルキーを駆け上っていく!これは生まれてすぐに人外認定された少年の最強に無双していく、そんなお話。
✳︎不定期更新です。
21/12/17 1巻発売!
22/05/25 2巻発売!
コミカライズ決定!
20/11/19 HOTランキング1位
ありがとうございます!
婚約破棄されて辺境へ追放されました。でもステータスがほぼMAXだったので平気です!スローライフを楽しむぞっ♪
naturalsoft
恋愛
シオン・スカーレット公爵令嬢は転生者であった。夢だった剣と魔法の世界に転生し、剣の鍛錬と魔法の鍛錬と勉強をずっとしており、攻略者の好感度を上げなかったため、婚約破棄されました。
「あれ?ここって乙女ゲーの世界だったの?」
まっ、いいかっ!
持ち前の能天気さとポジティブ思考で、辺境へ追放されても元気に頑張って生きてます!
将来を誓い合った王子様は聖女と結ばれるそうです
きぬがやあきら
恋愛
「聖女になれなかったなりそこない。こんなところまで追って来るとはな。そんなに俺を忘れられないなら、一度くらい抱いてやろうか?」
5歳のオリヴィエは、神殿で出会ったアルディアの皇太子、ルーカスと恋に落ちた。アルディア王国では、皇太子が代々聖女を妻に迎える慣わしだ。しかし、13歳の選別式を迎えたオリヴィエは、聖女を落選してしまった。
その上盲目の知恵者オルガノに、若くして命を落とすと予言されたオリヴィエは、せめてルーカスの傍にいたいと、ルーカスが団長を務める聖騎士への道へと足を踏み入れる。しかし、やっとの思いで再開したルーカスは、昔の約束を忘れてしまったのではと錯覚するほど冷たい対応で――?
後宮の胡蝶 ~皇帝陛下の秘密の妃~
菱沼あゆ
キャラ文芸
突然の譲位により、若き皇帝となった苑楊は封印されているはずの宮殿で女官らしき娘、洋蘭と出会う。
洋蘭はこの宮殿の牢に住む老人の世話をしているのだと言う。
天女のごとき外見と豊富な知識を持つ洋蘭に心惹かれはじめる苑楊だったが。
洋蘭はまったく思い通りにならないうえに、なにかが怪しい女だった――。
中華後宮ラブコメディ。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる