60 / 96
神さま(?)拾いました【本編完結】
4.消えた御守り
しおりを挟む
◆◇◆◇◆◇◆◇◆
今は彼がお風呂中である。人の身を得ている状態なので、身を清めることはしたほうがいいらしい。
しかしまあ、なんかすごいことになってるな……
お風呂に入って気がついたのだが、体のあちこちにキスマークが残っていた。なにか呪いでもかけられているんじゃないかと疑うくらいあちこちに痕があって、私は憂鬱になる。肌を見せるような相手はもういないので気にする必要はないにせよ、昨夜の記憶が朧げなので頭が痛い。
痕を隠せるような露出が低い服を選んで身につけていると、彼がひょこっと顔を出した。さっき私が使ったタオルを彼は借りている。
「外に食べにいくんだっけ?」
「そうですよ。外食するか買って帰るかしないと、カップ麺すらこの家にはないので」
「今ここで大きな災害が起きたらまずいんじゃないかい?」
「避難所はこの裏の体育館なので問題ないですよ」
「そうなんだ」
彼はタオルで全身を拭くと、手をポンっと合わせて服に着替えた。それ、すごく便利だな。
さっきの和装ではなく、清潔感のあるちょっとだけオシャレな感じのシャツとスラックス姿に、私はちょっと惚れた。和装も好みではあるのだが、彼の髪色やふんわりした癖毛を思うとこちらの方がピッタリくる。格好いい。
「君に合わせるなら、服はこんな感じかな。どう?」
「すっごく素敵ですけど、すごく目立つような気が。ナンパされたりスカウトされそうな感じです」
「うーん。それは面倒だけど、人払いすれば大丈夫かな。君のお陰でいろいろできるし、問題ないよ」
彼はにこっと笑った。可愛く見えるのは服が変わったからだけだろうか。
「くっついて来るつもりなんですね」
「君のことをもっと知りたいしね」
当然のように一緒に外出をするつもりらしい彼にツッコミを入れると、ニコニコされた。敵意はないし、私を知りたいという言葉にも嘘はないように見えた。
「神様さんは食べられないものってあります? 私、行きつけの店に行くつもりでいるんですが、メニューに偏りがあるので」
「僕は水かお酒があれば充分かな。あとは、君がいればいい」
君がいればいい、のあとにぺろっと唇を舐める。その仕草にドキリとした。
記憶がとぶくらいのことをしたってことか……いちいち変な反応をするなよ、私。
はあ、と大きくため息をつく。あまりしょうもないやり取りをするのはやめようと誓い、放置されたままだった鞄を手に取った。
「……あれ?」
職場に持って行っているショルダーバッグに傷がついている。お気に入りのピンクの鞄だったのに、結構目立つ擦り傷だ。そのこと自体にはもちろんショックだったものの、その中に入れていたはずの御守りが見当たらない。
「どうかしたのかい?」
私があからさまに焦っているので、彼も気になったらしい。私の手元を覗いて心配してくれる。
「御守りが見当たらなくて」
実家から送ってもらっているのはお札だけではなく御守りもだった。外出時には出来るだけ身につけているようにと言われた梅の花があしらわれた白っぽい御守り。鞄を替えるなら御守りを移動させないといけないと思ったのに、いつもの場所にないのだった。
「おかしいな。普段は絶対に開けないポケットに入れているから落とすはずがないのに」
ショルダーバッグのあらゆるポケットを覗いてみるものの、やはり見つからないのだった。
「それはないと困るものなのかい?」
「持ち歩いていないと、あなたみたいなものに魅入られちゃうんですよ。面倒じゃないですか」
「じゃあ、僕がいるからなくても大丈夫じゃないかな」
「増えたら碌なことにならないでしょ」
「僕は独占欲の強い神様だから、他のものを寄せ付けたりさせないよ」
その発言に私は手を止めて彼を見やった。
「それはそれでちょっと……」
「ありゃ」
彼なりの励ましのつもりだったらしい。彼は苦笑した。
「むむ……こうなったら出前でも頼みますか」
ショルダーバッグから取り出したスマホを見る。すぐに返信が必要になるような通知はなかった。
「一歩も外に出ないつもりなのかい?」
「私の行きつけの店、出前もしてるんでとりあえずそれでしのごうかと」
私はスマホの時計を見やる。十時前。昼食の混雑時間帯に被らなければ、きっと届けてくれるだろう。行きつけの店というだけあって常連なわけで、それ以外の理由でも私のわがままをある程度は聞いてもらえる見込みがあった。
「君がそれでいいなら、僕は構わないよ」
私が一時しのぎだと強調したからか、彼は素直に応じてくれた。その上で、彼は部屋全体を見て肩をすくめる。
「でも、それならそれで少し掃除をしたほうがいいかもしれないね」
「出前を待っている間に掃除と洗濯を済ませますよ」
「僕も手伝うね」
「無理のない範囲で、よろしくお願いします」
「任せて」
なんで神様が家の片付けを手伝うのか意味不明ではあるが、部屋が散らかっていてベッドの上以外に座る場所もままならない状況なのは事実だ。手伝いたいという彼の気持ちはありがたく利用させてもらおう。
「じゃあ、まずはサクッと出前を頼んじゃいますね。ちょっとお待ちください」
私はスマホを操作してメッセージアプリを立ち上げる。ちょこっと事情を書いて状況を説明しつつ、私はブランチの注文を送ったのだった。
今は彼がお風呂中である。人の身を得ている状態なので、身を清めることはしたほうがいいらしい。
しかしまあ、なんかすごいことになってるな……
お風呂に入って気がついたのだが、体のあちこちにキスマークが残っていた。なにか呪いでもかけられているんじゃないかと疑うくらいあちこちに痕があって、私は憂鬱になる。肌を見せるような相手はもういないので気にする必要はないにせよ、昨夜の記憶が朧げなので頭が痛い。
痕を隠せるような露出が低い服を選んで身につけていると、彼がひょこっと顔を出した。さっき私が使ったタオルを彼は借りている。
「外に食べにいくんだっけ?」
「そうですよ。外食するか買って帰るかしないと、カップ麺すらこの家にはないので」
「今ここで大きな災害が起きたらまずいんじゃないかい?」
「避難所はこの裏の体育館なので問題ないですよ」
「そうなんだ」
彼はタオルで全身を拭くと、手をポンっと合わせて服に着替えた。それ、すごく便利だな。
さっきの和装ではなく、清潔感のあるちょっとだけオシャレな感じのシャツとスラックス姿に、私はちょっと惚れた。和装も好みではあるのだが、彼の髪色やふんわりした癖毛を思うとこちらの方がピッタリくる。格好いい。
「君に合わせるなら、服はこんな感じかな。どう?」
「すっごく素敵ですけど、すごく目立つような気が。ナンパされたりスカウトされそうな感じです」
「うーん。それは面倒だけど、人払いすれば大丈夫かな。君のお陰でいろいろできるし、問題ないよ」
彼はにこっと笑った。可愛く見えるのは服が変わったからだけだろうか。
「くっついて来るつもりなんですね」
「君のことをもっと知りたいしね」
当然のように一緒に外出をするつもりらしい彼にツッコミを入れると、ニコニコされた。敵意はないし、私を知りたいという言葉にも嘘はないように見えた。
「神様さんは食べられないものってあります? 私、行きつけの店に行くつもりでいるんですが、メニューに偏りがあるので」
「僕は水かお酒があれば充分かな。あとは、君がいればいい」
君がいればいい、のあとにぺろっと唇を舐める。その仕草にドキリとした。
記憶がとぶくらいのことをしたってことか……いちいち変な反応をするなよ、私。
はあ、と大きくため息をつく。あまりしょうもないやり取りをするのはやめようと誓い、放置されたままだった鞄を手に取った。
「……あれ?」
職場に持って行っているショルダーバッグに傷がついている。お気に入りのピンクの鞄だったのに、結構目立つ擦り傷だ。そのこと自体にはもちろんショックだったものの、その中に入れていたはずの御守りが見当たらない。
「どうかしたのかい?」
私があからさまに焦っているので、彼も気になったらしい。私の手元を覗いて心配してくれる。
「御守りが見当たらなくて」
実家から送ってもらっているのはお札だけではなく御守りもだった。外出時には出来るだけ身につけているようにと言われた梅の花があしらわれた白っぽい御守り。鞄を替えるなら御守りを移動させないといけないと思ったのに、いつもの場所にないのだった。
「おかしいな。普段は絶対に開けないポケットに入れているから落とすはずがないのに」
ショルダーバッグのあらゆるポケットを覗いてみるものの、やはり見つからないのだった。
「それはないと困るものなのかい?」
「持ち歩いていないと、あなたみたいなものに魅入られちゃうんですよ。面倒じゃないですか」
「じゃあ、僕がいるからなくても大丈夫じゃないかな」
「増えたら碌なことにならないでしょ」
「僕は独占欲の強い神様だから、他のものを寄せ付けたりさせないよ」
その発言に私は手を止めて彼を見やった。
「それはそれでちょっと……」
「ありゃ」
彼なりの励ましのつもりだったらしい。彼は苦笑した。
「むむ……こうなったら出前でも頼みますか」
ショルダーバッグから取り出したスマホを見る。すぐに返信が必要になるような通知はなかった。
「一歩も外に出ないつもりなのかい?」
「私の行きつけの店、出前もしてるんでとりあえずそれでしのごうかと」
私はスマホの時計を見やる。十時前。昼食の混雑時間帯に被らなければ、きっと届けてくれるだろう。行きつけの店というだけあって常連なわけで、それ以外の理由でも私のわがままをある程度は聞いてもらえる見込みがあった。
「君がそれでいいなら、僕は構わないよ」
私が一時しのぎだと強調したからか、彼は素直に応じてくれた。その上で、彼は部屋全体を見て肩をすくめる。
「でも、それならそれで少し掃除をしたほうがいいかもしれないね」
「出前を待っている間に掃除と洗濯を済ませますよ」
「僕も手伝うね」
「無理のない範囲で、よろしくお願いします」
「任せて」
なんで神様が家の片付けを手伝うのか意味不明ではあるが、部屋が散らかっていてベッドの上以外に座る場所もままならない状況なのは事実だ。手伝いたいという彼の気持ちはありがたく利用させてもらおう。
「じゃあ、まずはサクッと出前を頼んじゃいますね。ちょっとお待ちください」
私はスマホを操作してメッセージアプリを立ち上げる。ちょこっと事情を書いて状況を説明しつつ、私はブランチの注文を送ったのだった。
2
お気に入りに追加
27
あなたにおすすめの小説
隣の家に住むイクメンの正体は龍神様でした~社無しの神とちびっ子神使候補たち
鳴澤うた
キャラ文芸
失恋にストーカー。
心身ともにボロボロになった姉崎菜緒は、とうとう道端で倒れるように寝てしまって……。
悪夢にうなされる菜緒を夢の中で救ってくれたのはなんとお隣のイクメン、藤村辰巳だった。
辰巳と辰巳が世話する子供たちとなんだかんだと交流を深めていくけれど、子供たちはどこか不可思議だ。
それもそのはず、人の姿をとっているけれど辰巳も子供たちも人じゃない。
社を持たない龍神様とこれから神使となるため勉強中の動物たちだったのだ!
食に対し、こだわりの強い辰巳に神使候補の子供たちや見守っている神様たちはご不満で、今の現状を打破しようと菜緒を仲間に入れようと画策していて……
神様と作る二十四節気ごはんを召し上がれ!
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。

聖女召喚されて『お前なんか聖女じゃない』って断罪されているけど、そんなことよりこの国が私を召喚したせいで滅びそうなのがこわい
金田のん
恋愛
自室で普通にお茶をしていたら、聖女召喚されました。
私と一緒に聖女召喚されたのは、若くてかわいい女の子。
勝手に召喚しといて「平凡顔の年増」とかいう王族の暴言はこの際、置いておこう。
なぜなら、この国・・・・私を召喚したせいで・・・・いまにも滅びそうだから・・・・・。
※小説家になろうさんにも投稿しています。
貴族家三男の成り上がりライフ 生まれてすぐに人外認定された少年は異世界を満喫する
美原風香
ファンタジー
「残念ながらあなたはお亡くなりになりました」
御山聖夜はトラックに轢かれそうになった少女を助け、代わりに死んでしまう。しかし、聖夜の心の内の一言を聴いた女神から気に入られ、多くの能力を貰って異世界へ転生した。
ーけれども、彼は知らなかった。数多の神から愛された彼は生まれた時点で人外の能力を持っていたことを。表では貴族として、裏では神々の使徒として、異世界のヒエラルキーを駆け上っていく!これは生まれてすぐに人外認定された少年の最強に無双していく、そんなお話。
✳︎不定期更新です。
21/12/17 1巻発売!
22/05/25 2巻発売!
コミカライズ決定!
20/11/19 HOTランキング1位
ありがとうございます!
婚約破棄されて辺境へ追放されました。でもステータスがほぼMAXだったので平気です!スローライフを楽しむぞっ♪
naturalsoft
恋愛
シオン・スカーレット公爵令嬢は転生者であった。夢だった剣と魔法の世界に転生し、剣の鍛錬と魔法の鍛錬と勉強をずっとしており、攻略者の好感度を上げなかったため、婚約破棄されました。
「あれ?ここって乙女ゲーの世界だったの?」
まっ、いいかっ!
持ち前の能天気さとポジティブ思考で、辺境へ追放されても元気に頑張って生きてます!
将来を誓い合った王子様は聖女と結ばれるそうです
きぬがやあきら
恋愛
「聖女になれなかったなりそこない。こんなところまで追って来るとはな。そんなに俺を忘れられないなら、一度くらい抱いてやろうか?」
5歳のオリヴィエは、神殿で出会ったアルディアの皇太子、ルーカスと恋に落ちた。アルディア王国では、皇太子が代々聖女を妻に迎える慣わしだ。しかし、13歳の選別式を迎えたオリヴィエは、聖女を落選してしまった。
その上盲目の知恵者オルガノに、若くして命を落とすと予言されたオリヴィエは、せめてルーカスの傍にいたいと、ルーカスが団長を務める聖騎士への道へと足を踏み入れる。しかし、やっとの思いで再開したルーカスは、昔の約束を忘れてしまったのではと錯覚するほど冷たい対応で――?
後宮の胡蝶 ~皇帝陛下の秘密の妃~
菱沼あゆ
キャラ文芸
突然の譲位により、若き皇帝となった苑楊は封印されているはずの宮殿で女官らしき娘、洋蘭と出会う。
洋蘭はこの宮殿の牢に住む老人の世話をしているのだと言う。
天女のごとき外見と豊富な知識を持つ洋蘭に心惹かれはじめる苑楊だったが。
洋蘭はまったく思い通りにならないうえに、なにかが怪しい女だった――。
中華後宮ラブコメディ。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる