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影の王女の成婚
ふたりの王女 1
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「離して」
「あの国の王女はふたりいた。公式にはひとりだが、僕の前に現れたことがあるのはふたりだ」
私は手を振り解こうとしていたが、その言葉を聞いてぴたりと止まる。
「知らないふりをしていたが、彼女は双子だったのだろう」
――知らないふりをしていた?
胸がドキドキする。そして、これ以上はなにも言わないでほしいと願った。
「……離してください」
声が震える。
バルドゥインは私を引き寄せて抱きしめた。
「外交で僕の国にきていたのが君で、向こうの王宮で顔を合わせていたのが公式の王女マリアンネだな?」
思わず呼吸が乱れた。
――見抜かれていた?
「君には公式の名がない。王女マリアンネの影として、ずっと国に仕えていたからな。我が国と険悪だったから、大切な王女を外に出せなかったというわけだ」
「……それはあなたさまの妄想ですよ」
これ以上の秘密を語るわけにはいかない。私は緩く否定した。マリアンネが生きているとなったら、話がややこしくなる。今は明かすべきではない。
「僕が愛しているマリアンネは、僕を助けようと身をていしたマリアンネで、僕が一目惚れをしたのもこの国を訪ねてくれたマリアンネなんだよ」
耳元で囁かれるとときめいた。
彼が好きなのは、姉じゃない。私なのだ。
「……わ、私は自身の言葉で自分について語ることを禁じられております」
――お願い。これ以上は近づかないで。
不覚にも嬉しいと思ってしまった。両親以外に、私を私だと認識してくれる人がいたなんて。
でも、明かすわけにはいかない。祖国の血を絶たれるわけにはいかないのだ。
――それに……バルドゥイン王子は姉の婚約者。もう姉様はいないけれど。
私が顔を伏せると、バルドゥインは強引に私を上向かせて口づけをする。舌を絡められると体の力が抜ける。
「……もう離して」
計画が破綻してしまう。
バルドゥイン王子を避けていたのは正解だった。計画の都合上危害を加えるわけにもいかないし、秘密裏に事を進める必要もある。過ちを起こさないために、もっと慎重に、彼と距離をおくべきだった。
――胸が苦しい。
「マグダレナ。君を探していた。君の秘密は、僕がその日を迎えるときまで必ず守ろう」
赤い瞳に私の泣きそうな顔が映っている。
――姉様が愛した人。
私はどうしたらいいのかわからない。
目を閉じて身を委ねる。
*****
「――マグダレナ」
再会を喜ぶように身体を重ねる。肌が触れ合って熱が交わされる。
疼く深い場所に熱が届いて、私の視界が爆ぜた。
「ああっ」
「絶対に離さないからな。もう二度と君を失うようなことはしない」
狡いことをしている。
私は彼を愛してはいないのに、身を委ねてしまった。バルドゥインを王にするためにも必要だと自分に言い聞かせて、身体を開く。
むなしいはずなのに、満たされていく。
――私の願いは、祖国の復興。この血を絶やさず、次世代に繋ぐこと。そのために、味方であるバルドゥイン王子に取り入るのが最善手……そう教えられたけれど。
身体を揺さぶられると快感に支配される。任務のことなどすべて忘れて、ただの女になる。
「僕が君の願いを叶えると誓う。だから、受け入れて」
彼の指先が私の傷に触れて、臍の下あたりをなぞって軽く押した。そこまで彼が入っている。
「バルドゥインさま……」
口づけをする。抽挿が早くなり、最奥で熱が爆ぜた。
「あの国の王女はふたりいた。公式にはひとりだが、僕の前に現れたことがあるのはふたりだ」
私は手を振り解こうとしていたが、その言葉を聞いてぴたりと止まる。
「知らないふりをしていたが、彼女は双子だったのだろう」
――知らないふりをしていた?
胸がドキドキする。そして、これ以上はなにも言わないでほしいと願った。
「……離してください」
声が震える。
バルドゥインは私を引き寄せて抱きしめた。
「外交で僕の国にきていたのが君で、向こうの王宮で顔を合わせていたのが公式の王女マリアンネだな?」
思わず呼吸が乱れた。
――見抜かれていた?
「君には公式の名がない。王女マリアンネの影として、ずっと国に仕えていたからな。我が国と険悪だったから、大切な王女を外に出せなかったというわけだ」
「……それはあなたさまの妄想ですよ」
これ以上の秘密を語るわけにはいかない。私は緩く否定した。マリアンネが生きているとなったら、話がややこしくなる。今は明かすべきではない。
「僕が愛しているマリアンネは、僕を助けようと身をていしたマリアンネで、僕が一目惚れをしたのもこの国を訪ねてくれたマリアンネなんだよ」
耳元で囁かれるとときめいた。
彼が好きなのは、姉じゃない。私なのだ。
「……わ、私は自身の言葉で自分について語ることを禁じられております」
――お願い。これ以上は近づかないで。
不覚にも嬉しいと思ってしまった。両親以外に、私を私だと認識してくれる人がいたなんて。
でも、明かすわけにはいかない。祖国の血を絶たれるわけにはいかないのだ。
――それに……バルドゥイン王子は姉の婚約者。もう姉様はいないけれど。
私が顔を伏せると、バルドゥインは強引に私を上向かせて口づけをする。舌を絡められると体の力が抜ける。
「……もう離して」
計画が破綻してしまう。
バルドゥイン王子を避けていたのは正解だった。計画の都合上危害を加えるわけにもいかないし、秘密裏に事を進める必要もある。過ちを起こさないために、もっと慎重に、彼と距離をおくべきだった。
――胸が苦しい。
「マグダレナ。君を探していた。君の秘密は、僕がその日を迎えるときまで必ず守ろう」
赤い瞳に私の泣きそうな顔が映っている。
――姉様が愛した人。
私はどうしたらいいのかわからない。
目を閉じて身を委ねる。
*****
「――マグダレナ」
再会を喜ぶように身体を重ねる。肌が触れ合って熱が交わされる。
疼く深い場所に熱が届いて、私の視界が爆ぜた。
「ああっ」
「絶対に離さないからな。もう二度と君を失うようなことはしない」
狡いことをしている。
私は彼を愛してはいないのに、身を委ねてしまった。バルドゥインを王にするためにも必要だと自分に言い聞かせて、身体を開く。
むなしいはずなのに、満たされていく。
――私の願いは、祖国の復興。この血を絶やさず、次世代に繋ぐこと。そのために、味方であるバルドゥイン王子に取り入るのが最善手……そう教えられたけれど。
身体を揺さぶられると快感に支配される。任務のことなどすべて忘れて、ただの女になる。
「僕が君の願いを叶えると誓う。だから、受け入れて」
彼の指先が私の傷に触れて、臍の下あたりをなぞって軽く押した。そこまで彼が入っている。
「バルドゥインさま……」
口づけをする。抽挿が早くなり、最奥で熱が爆ぜた。
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