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贈り物には罠がある?

離れがたいから

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「行かないで、フィルギニア」
「で、でも」
「もっと触れ合いたい」

 引き寄せられると、背後から抱き締められた。首筋に顔を埋められ、においを嗅がれているのがわかる。

「アナスタージウスさま?」
「フィルギニア……どうも君の体質は僕が予想していたものよりも厄介なもののようだ。僕がこんなふうになってしまうのは、君を愛しているからだけではないのかもしれない」

 彼の手が私の気持ちのいい場所をまさぐる。私は甘く震えた。

「あぁ、んっ……と言いますと?」
「魅了の力が付与される……感じかな。とにかく、こういうお茶や薬を服用するときは、僕の前だけにして。約束」
「わ、わかりましたから、その、さわさわされると……ああんっ、また、イっちゃうぅっ⁉︎」

 身悶えする私の耳に彼の唇が寄せられた。

「イって、フィルギニア」
「ああっ⁉︎」

 声でついに限界を超えてしまって、私は身体をしならせる。視界がチカチカと明滅した。すごく気持ちがいい。

「……あまり夢中になりすぎるのもよくないと思うけど、離れがたいんだよねえ。だから――フィルギニア君、僕と結婚しない?」
「え、あのっ、頭真っ白なんですけど、私」

 結婚しないかって言った?
 求婚されたの?

 裸で抱き合っている最中に、最愛の人から結婚を申し込まれた……らしかった。

「ウチのゴタゴタに巻き込みたくなかったから、もう少し様子をみてからにしようと考えてきたんだよ。でも、そんな悠長に構えていられるほど、僕は大人ではないみたいだ。フィルギニア、君を手放すことはおそらくない。公的にも関係を認めてもらおう?」

 アナスタージウス室長の血筋のことを思い起こすと、確かに面倒が起こりそうな気配はある。今でこそ実家とは距離を置いて生活しているが、結婚となるとそうはいかないはずだ。衝突することもあるだろう。
 それを踏まえた上で覚悟を決めたと告げているわけで、私はアナスタージウス室長のこの申し出に応えねばならない。

「わ、私はすごく嬉しいです。家族も、あなたが迎えてくれるなら大喜びでしょうし」
「そうだと……いいけど」
「なにか問題でも?」

 なおも不安げな様子に私が問うと、アナスタージウス室長はため息をついた。

「家柄も地位も悪くはないだろうけど、年齢がねえ。どう思われるか」

 なるほど、年齢!
 そうなると、私も結婚適齢期を超えているのでどう思われるか。ドキッとしながらも、私は励ますことにする。

「嫁き遅れ同士ですし、気にしませんよ」
「結婚は家同士の問題になるから……憂鬱だが、僕がフィルギニア君を独占するためには避けられないからねえ。手続きと交渉はやれるだけやるよ」
「私ももちろん協力します!」
「フィルギニア君……」

 情けない声を出すのは私の前だけで、それは甘えているからだとわかるようになってきた。私は身体の向きを変えて、アナスタージウス室長を抱き締める。

「結婚しましょう、アナスタージウスさま。私だって手放すつもりはないんですもの」

 口づけをする。見つめ合って、深い口づけをして。
 そのまま互いの身体を貪りあってしまった。


 ヨーズア室長が様子を伺いにやって来るまで仕事中だったことをすっかり忘れており、彼に呆れられたことを付記しておく。

《終わり》
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