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改めて二人きり
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事情の説明は俺がするから、アルはテアを送ってくれ――そう告げて、ドロテウスはこの場を去った。
静まった裏庭にテオドラとアルフレッドの二人だけが残された。
「あの……駆け落ちがどうのとは?」
到着して告げられた言葉が引っかかっていた。
どうして駆け落ちの心配を?
向き合ってアルフレッドを見上げると、彼は苦笑していた。
「君が黙って姿を消したからだよ。テアが僕に知られたくないことと言ったら、そのくらいしか浮かばなかったんだ」
「駆け落ちなんてしませんよ。私にはアルお兄さまがいるんですから」
テオドラとアルフレッドの間での隠しごとはほとんどないと言える。そんなアルフレッドに対して言えないことがあるとすれば、彼以外の人間と結ばれたいということだと早とちりするのはわからないでもない。
恋愛感情がないのだとしても、婚約は婚約ですものね。それも相手に少しも瑕疵がないのに反故にするのなら、黙って行動するかもしれないわ。
安心させるためにテオドラが微笑みながら話せば、アルフレッドはむすっとする。
「だが、最近テアに構ってやれてなかったし、政略結婚がどうのとか不穏なことを言うし、僕のことが嫌いになったんじゃないかって心配するだろうが」
立派な成人男性らしからぬ子どもじみた態度に、テオドラはクスクスと笑う。
昔からそうだ。八つも離れているというのに、彼はときどき同年代の少年のような振る舞いをする。それが自分だけに向けられているものらしいことに気づいたときから、密かに好感を抱いていた。
「私はアルお兄さまのことをずっと好いていますよ。心配するなんて、自信がないのですか?」
いつだってアルフレッドは自分の中ではヒーローだ。困ったときには手を差し伸べてくれたし、窮地に陥れば必ず助けにきてくれた。
今日はさすがに助からないんじゃないかと覚悟を決めてしまいましたけど。
テオドラはアルフレッドに感謝している。心から信用している。それなのに、テオドラの好意を自覚できないなんてことがあるのだろうか。
アルフレッドは真面目な顔をしてゆっくりと首を振った。
「それは家族愛のようなものだろう? ドロテウス兄さんに向けている気持ちと同じものじゃないか」
「え? ですが、アルお兄さまとは近い将来に家族になります」
家族愛のようなものはある。アルフレッドとは物心がついたときからの付き合いであり、幼いころから親戚以上に親しくしてきた。彼がいない人生など、もう考えられない。
首をかしげると、唐突にアルフレッドがテオドラの肩に手を置いた。右肩に左手が、左肩に右手がしっかり置かれて見つめ合う。
「それはそうなんだが、そういうことじゃなくて……」
どうして口ごもるのか理解できない。
「アルお兄さまは、違うんですか?」
アルフレッドはテオドラを可愛がってくれている。それこそ妹のように。ドロテウスがテオドラにしてくれることとそう大きく変わりがないことも、テオドラが自分は彼にとって妹みたいなものだと認識しているに違いないと考える根拠でもあった。
恋人だったら、キスくらいはするもの。手だって手袋なしで握るものじゃないの?
好きだと言われても、それは兄妹愛の延長線上のようにしか思えない。恋人になろうと言われたことはないし、愛を囁かれたこともない。徹底して身体に触れないようにしているのは、兄妹としての線引きゆえだと理解してきた。
数年前ならそれでも充分だった。
だけど、今は物足りない。
はしたない令嬢だと言われてもいい。だが、好きな人にもっと触れてもらいたいと望むことは自然なことのはずだ。友人たちから恋人との逢瀬の話を聞かされて、自分の気持ちがおかしいことではないとわかった。
それでも彼に気持ちを伝えるのははばかられる。アルフレッドが同じ気持ちじゃなかったらどうしよう。貞淑な妻を求めているのだとしたら、嫌われてしまうかもしれない。この関係が終わり、壊れてしまうことに恐怖した。ずっとそばにいたいのに、それが叶わなくなったら……。
彼に会えなくなることよりも、彼に嫌われるほうがずっとずっと怖かったのだ。
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