3 / 12
パーティー会場にて
しおりを挟む*2*
パーティ会場はいつでもきらびやかで、華やかだ。
隣でエスコートしてくれるアルフレッドは、少々疲れた顔をしているものの、そのほかはいつもどおり。着飾った姿は年頃の少女たちにとっての憧れになる。いつでも少女たちの熱っぽい視線を感じ、テオドラは自分が婚約者でよかったのだろうかと疑問に思うこともしばしばあった。
私が事業に融資してもらうために政略結婚するだけじゃなく、アルお兄さまも融資してもらえそうな人と結婚することも可能なのよね……。
ふと、彼の横顔を見て、その可能性に気づく。
この美貌とスタイルであれば、それだけで縁談を望む声はあるかもしれない。また聞いた話では、事業が傾き始めても致命に至らなかったのは彼の活躍があったからだそうだ。なので、事業を継ぐのは実兄のドロテウスではなくアルフレッドになるだろうとも言われている。
お兄さまが結婚して融資を得られるようにするのもいいんでしょうけど……今の忙しさでは縁談どころではないでしょうからね……。
少しでも早く事業が立ち直ってほしい。前のような穏やかな日常が戻ってきてほしい。
「テア、どうかしたかな?」
不安な気持ちが顔に出てしまっていたようだ。アルフレッドが困ったように微笑んで問いかけてきた。
「い、いえ、アルお兄さま。私なら心配いりませんわ。ただ、アルお兄さまの顔色が少々悪いようでしたから、気になってしまって」
無難な言い訳を告げれば、彼は表情を曇らせる。
「アルお兄さま、ね……。こういう場ではアルだけで呼んでほしいものだけどな」
「ご、ごめんなさい……」
前々から注意されてきたが、呼び方は変えられない。婚約者ではあるが恋人ではないからと気がひけて言いにくかったのだ。
しゅんとすると、アルフレッドは苦笑した。
「悪い。少し口調がきつかった」
「ううん。大丈夫です」
どことなく会話がぎこちない。アルフレッドの様子がいつもと違うのだ。落ち着きがないというか、様子をうかがっているというか、そんな感じだ。
そんな態度に、テオドラはいつもと違うことがなんなのかに思い至る。
「あ。ドロテウスお兄さまは欠席だそうですよ。アルお兄さまがいれば充分だろうっておっしゃっていましたわ」
ふだんならばここにはドロテウスの姿もある。三人で行動することが多いことを思うと、今夜は珍しくアルフレッドと二人きりだ。
「そうか」
返事はそっけない。ドロテウスを気にしていたわけではないのかもしれない。
「お兄さまに信頼されているのですね。後継者をお兄さまにするかアルお兄さまにするかで競っているとお聞きしていましたが、アルお兄さまが有力なのですかね」
「どうかな。ここのところは僕が任せられることが多いけれど、それは僕が得意な分野だからってだけだと思うし。そもそも、ドロテウス兄さんだって、そういう意味で言ったわけじゃないと思うが」
そういう意味じゃないとしたら、どういう意味なんだろうか。
こういう社交の場は政治的な意味合いも多く含む。仕事の話もよく話題になるわけで、誰が顔を出しているのか、誰が誰に挨拶をしたかなどものちのち話題にされる。ドロテウスが欠席してアルフレッドが出席することには、事業をどちらが継ぐのかを決めるのに大きく関わるとテオドラは思ったのだが。
首をかしげると、アルフレッドがくすっと笑った。
「彼は君のエスコートは僕ひとりで充分だろうって言ったつもりだったんだと思うよ。テアはもう成人しているわけだし、一応僕が婚約者だ。エスコートするのは僕だけで充分だろう?」
「ああ、そういう……」
彼が《一応》と言ったのが引っかかった。
婚約者だと胸を張って言えないの?
不安が胸を覆う。
「今日は仕事の話は抜きにして、パーティを楽しもうじゃないか。リフレッシュしたいと思っていたんだよね。挨拶を済ませたら、一緒に踊ろうか」
ダンスは好きだ。婚約者の特権で、パートナーはアルフレッドが務めていたが、相性もよいらしくてとても気持ちよく踊れる。付き合いでほかの男性と踊ることもあったが、やはりアルフレッドが一番だと感じられた。息がぴったりで自然に動けるのは、彼と過ごした時間が長いからというのもあるのだろう。
しかし、今日は笑顔でうなずけなかった。
「あの……」
「ん?」
会場を進むのをやめて立ち止まると、アルフレッドが振り向いた。
テオドラは意を決して唇を動かす。
「本当に仕事は大丈夫なんですか? 事業が傾いていることは知っています。もし、融資をいただくことでどうにかできるのでしたら、私、政略結婚をしても構わないのです」
「な、なんだい、急に」
目を丸くするアルフレッドに、テオドラは続ける。
「先日、私と結婚できるなら融資をしてもいいという申し出を受けました。アルお兄さまが婚約者なのでこれまで考えもしなかったのですが、そういう方法でお父さまの事業を助けることができるということを知ったのです。だから、私――」
「お取り込み中のところ、申し訳ない。君がテオドラ・マクダニエルズさんですね」
アルフレッドの気持ちの確認をしようとしたところで会話を遮られた。
2
お気に入りに追加
514
あなたにおすすめの小説
【完結】王子妃候補をクビになった公爵令嬢は、拗らせた初恋の思い出だけで生きていく
たまこ
恋愛
10年の間、王子妃教育を受けてきた公爵令嬢シャーロットは、政治的な背景から王子妃候補をクビになってしまう。
多額の慰謝料を貰ったものの、婚約者を見つけることは絶望的な状況であり、シャーロットは結婚は諦めて公爵家の仕事に打ち込む。
もう会えないであろう初恋の相手のことだけを想って、生涯を終えるのだと覚悟していたのだが…。
【完結】愛くるしい彼女。
たまこ
恋愛
侯爵令嬢のキャロラインは、所謂悪役令嬢のような容姿と性格で、人から敬遠されてばかり。唯一心を許していた幼馴染のロビンとの婚約話が持ち上がり、大喜びしたのも束の間「この話は無かったことに。」とバッサリ断られてしまう。失意の中、第二王子にアプローチを受けるが、何故かいつもロビンが現れて•••。
2023.3.15
HOTランキング35位/24hランキング63位
ありがとうございました!
【完結】可愛くない、私ですので。
たまこ
恋愛
華やかな装いを苦手としているアニエスは、周りから陰口を叩かれようと着飾ることはしなかった。地味なアニエスを疎ましく思っている様子の婚約者リシャールの隣には、アニエスではない別の女性が立つようになっていて……。
私が愛する王子様は、幼馴染を側妃に迎えるそうです
こことっと
恋愛
それは奇跡のような告白でした。
まさか王子様が、社交会から逃げ出した私を探しだし妃に選んでくれたのです。
幸せな結婚生活を迎え3年、私は幸せなのに不安から逃れられずにいました。
「子供が欲しいの」
「ごめんね。 もう少しだけ待って。 今は仕事が凄く楽しいんだ」
それから間もなく……彼は、彼の幼馴染を側妃に迎えると告げたのです。
【完結】お姉様の婚約者
七瀬菜々
恋愛
姉が失踪した。それは結婚式当日の朝のことだった。
残された私は家族のため、ひいては祖国のため、姉の婚約者と結婚した。
サイズの合わない純白のドレスを身に纏い、すまないと啜り泣く父に手を引かれ、困惑と同情と侮蔑の視線が交差するバージンロードを歩き、彼の手を取る。
誰が見ても哀れで、惨めで、不幸な結婚。
けれど私の心は晴れやかだった。
だって、ずっと片思いを続けていた人の隣に立てるのだから。
ーーーーーそう、だから私は、誰がなんと言おうと、シアワセだ。
王子殿下の慕う人
夕香里
恋愛
エレーナ・ルイスは小さい頃から兄のように慕っていた王子殿下が好きだった。
しかし、ある噂と事実を聞いたことで恋心を捨てることにしたエレーナは、断ってきていた他の人との縁談を受けることにするのだが──?
「どうして!? 殿下には好きな人がいるはずなのに!!」
好きな人がいるはずの殿下が距離を縮めてくることに戸惑う彼女と、我慢をやめた王子のお話。
※小説家になろうでも投稿してます
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる