魔導師として宮廷入りしたので、殿下の愛人にはなりません?

一花カナウ

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すべての始まり

選べなくなりました

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「メルヒオール……さん?」

 その名前を聞いて、私は閃いてしまった。聞き覚えのある名前、そしてこの美麗な容姿には思い当たるものがあった。

 そうか。だから見覚えがあるような気がしたのね。

 腑に落ちた。メルヒオールの名前は有名だ。最年少で宮廷魔導師採用試験を突破した人物として。
 そして、それ以上に彼はこの店のお姉さんがたがよく知る人物の……弟君であるはずだ。

「ファイエって、あなた……ラフィエット王家の人間でしょう?」
「え?」

 メルヒオールの目が驚きで見開かれた。動揺しているのがわかる。

「だって、殿下とそっくりだし」

 この店に頻繁に出入りしているリシャール殿下と面影がそっくりだ。雰囲気は陰と陽くらい違うが、髪の感じも瞳の色もまったく一緒。他人のそら似にしては似すぎている。
 指摘されたメルヒオールが頭を抱えた。
 私は彼の様子に気を向けることなく、自分の知識をひけらかす。

「王位継承権を捨てて宮廷魔導師になったと聞いていたけど……まさかこんな場所でお目にかかれるなんて」

 臣下になったからファイエ姓を名乗っているのだということに、私は自分で言いながら思い出していた。かつては王家の人間だった、というのが正しい説明だ。
 私がサラサラと告げれば、メルヒオールは顔を上げて素早く近づいてきた。ベッドに乗り、私を押し倒す。逃さないつもりらしい。

 え、あの、そんなに近づいたら、また魔力の暴走が始まりませんかね?

 だが、私の心配はよそに、何も起きなかった。ひょっとしたら、彼とは魔力の相性がいいのかもしれない。

「へえ。《王位継承権を捨てた話》を記憶している人がこんなところにいるとは思いもしませんでしたよ」

 待って、その笑顔、怖いんですが!

 不埒なことを考えている場合ではない。私は触れてはいけない事実に触れてしまったらしかった。冷や汗が流れてくる。

「きっと精霊王の導きなのでしょうね。力の扱い方を覚えてもらうついでに、君には宮廷魔導師になっていただきましょうか。事情を話して手続きをしてきますので、君は服を着て待っていてください」

 ニコニコとしながら一方的に告げると、メルヒオールは私を解放してベッドから飛び降りた。

「え、あの」
「俺が君を買い取ります。先行投資としては悪くないでしょう?」

 本気ですか。

 メルヒオールは有無を言わせず命令すると、ポカンとする私を置いて出ていった。

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