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すべての始まり
金髪の少年宮廷魔導師
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「これで問題ないでしょう。この現象、今まで経験は?」
彼がこちらを見ずに尋ねてきたのは、おそらく私が全裸だからだ。彼のウブな反応は私の心を和ませた。
「いえ。一度もないです」
こういう態度をするってことは、こんな場所にいるのに経験が浅いのかしらね?
まだまだ成長途中のように感じられる細い背中を見て、私は彼が自分の歳とそんなに離れていないのだろうと見積もった。青年と呼ぶには幼さが抜けきっていないのだ。男性に対して美人と表現したら失礼だろうと思うものの、長めの髪ということもあって女性的な印象を受けた。
「こういう商売なのに、それは随分と幸運でしたね」
「あ、いえ。店に出たのは今日が初めてで」
正直に答えると、彼は驚いたような顔を私に向けた。そしてすぐさま顔が壁に向けられる。
私のお客じゃないとはいえ、少しくらい見ても構わないけどなあ。
助けてくれた対価はきっちり支払うつもりだが、身体を見るくらいならサービスしてもいいと思っているのに。私の見立てが正しいのであれば、血気盛んなお年頃だろうに、ずいぶんと律儀な男である。
「なるほど……」
そう呟いて、少年宮廷魔導師はうーんと唸り、何かを思案しているらしく腕を組んだ。
何か問題でもあるのかしら?
彼の告げた内容を反芻してみたところ、気になったのは一点。
この現象に遭遇したのは初めてだと説明したら、こういう商売なのに幸運だと言われたことである。
つまり、この現象は私が娼婦を続けるのなら頻繁に遭遇することを示唆するものではないだろうか。
だとしたら、なぜ?
彼が出て行く前にこの現象の詳細は聞いておこうと心に決めたところで、少年宮廷魔導師がゆっくりとこちらに向き直った。私の顔だけを見るようにしているらしく、動きがぎこちないのだが指摘しないでおこう。
形のよい唇が重々しく動き始める。
「――今日引き起こされた現象は、魔力の相性が悪かったことによって生じたものだと思われます。強力な魔力を持つ者同士が交わりをすると、しばしば起きるのです。魔力の相性がよければこのような反発はないのですが」
「強力な魔力? 私には魔導師特性があるってこと?」
今まで自分に魔導師特性が備わっているだなんて考えたことはなかった。この国では魔法を扱えるのは貴族ばかりであり、庶民は基本的に扱えない。精霊王に守護されている国というだけあって、魔法の存在は知っているが、私のような立場の人間には手が届かない力なのだ。
驚きの気持ちを隠さずに私が訊ねれば、少年宮廷魔導師はすぐに首肯した。
「はい。しかも、かなり能力が高い。扱いを知らないままでは、今後もこういう事態に遭遇することでしょう」
「じゃあ、私にはこの仕事は無理だと……」
「残念ながら」
彼がこちらを見ずに尋ねてきたのは、おそらく私が全裸だからだ。彼のウブな反応は私の心を和ませた。
「いえ。一度もないです」
こういう態度をするってことは、こんな場所にいるのに経験が浅いのかしらね?
まだまだ成長途中のように感じられる細い背中を見て、私は彼が自分の歳とそんなに離れていないのだろうと見積もった。青年と呼ぶには幼さが抜けきっていないのだ。男性に対して美人と表現したら失礼だろうと思うものの、長めの髪ということもあって女性的な印象を受けた。
「こういう商売なのに、それは随分と幸運でしたね」
「あ、いえ。店に出たのは今日が初めてで」
正直に答えると、彼は驚いたような顔を私に向けた。そしてすぐさま顔が壁に向けられる。
私のお客じゃないとはいえ、少しくらい見ても構わないけどなあ。
助けてくれた対価はきっちり支払うつもりだが、身体を見るくらいならサービスしてもいいと思っているのに。私の見立てが正しいのであれば、血気盛んなお年頃だろうに、ずいぶんと律儀な男である。
「なるほど……」
そう呟いて、少年宮廷魔導師はうーんと唸り、何かを思案しているらしく腕を組んだ。
何か問題でもあるのかしら?
彼の告げた内容を反芻してみたところ、気になったのは一点。
この現象に遭遇したのは初めてだと説明したら、こういう商売なのに幸運だと言われたことである。
つまり、この現象は私が娼婦を続けるのなら頻繁に遭遇することを示唆するものではないだろうか。
だとしたら、なぜ?
彼が出て行く前にこの現象の詳細は聞いておこうと心に決めたところで、少年宮廷魔導師がゆっくりとこちらに向き直った。私の顔だけを見るようにしているらしく、動きがぎこちないのだが指摘しないでおこう。
形のよい唇が重々しく動き始める。
「――今日引き起こされた現象は、魔力の相性が悪かったことによって生じたものだと思われます。強力な魔力を持つ者同士が交わりをすると、しばしば起きるのです。魔力の相性がよければこのような反発はないのですが」
「強力な魔力? 私には魔導師特性があるってこと?」
今まで自分に魔導師特性が備わっているだなんて考えたことはなかった。この国では魔法を扱えるのは貴族ばかりであり、庶民は基本的に扱えない。精霊王に守護されている国というだけあって、魔法の存在は知っているが、私のような立場の人間には手が届かない力なのだ。
驚きの気持ちを隠さずに私が訊ねれば、少年宮廷魔導師はすぐに首肯した。
「はい。しかも、かなり能力が高い。扱いを知らないままでは、今後もこういう事態に遭遇することでしょう」
「じゃあ、私にはこの仕事は無理だと……」
「残念ながら」
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