魔導師として宮廷入りしたので、殿下の愛人にはなりません?

一花カナウ

文字の大きさ
上 下
11 / 38
魔導師として宮廷入りしたので、殿下の愛人にはなりません?

密かに誓って

しおりを挟む
 それはさておき。

「――メルヒオールは私のことが嫌いなんですか? 世話を焼いてはくれましたけど、色仕掛けにも無反応で面白くないんですが」

 メルが嫌がった、と聞いて、私は少し傷ついていた。
 メルヒオールは恩人で、いつか親友になれるだろうとも思っている男性だ。性的に興味を持ってほしいと願っているわけではないが、自分が持っている知識や技術は男性に奉仕することに今でも偏っている。何かしてやりたいのにできないのはもどかしい。
 私が膨れると、リシャール殿下はくすくすと小さく笑った。

「メルには想い人がいるのです。彼女のために、遊ぶのは控えているそうですよ」

 そんなことしてないで、もっと楽しめばいいのに、とリシャール殿下の言葉は続く。私もその言葉には同意だ。

「片想いってことですか? 彼ほど引く手あまたな人材はいないと思うのですが」

 メルヒオールのように容姿も魔導師としての能力も知性も持ち合わせている人間はそういない。告白してしまえば、どんな女性でもすぐに手に入れられるだろう。なのにそうしないということは、家柄の事情で断られる可能性が高い相手なのだろうか。

 そうでなければ、偽名や今の立場だとまずい相手ってことよね?

 どんな相手を想っているのだろうかと、私は好奇心で思わず訊ねていた。

「未成年者に手は出せないから、と。彼女が宮廷魔導師になるのを待っているのです」
「あー、なるほど。メルヒオールは生真面目ですもんね」

 未成年……そうか、そういう場合もあるか。でも、求婚してしまえばいいんじゃない? 婚約者ではいけないのかしら。

 メルヒオールの想い人を思い浮かべる。もしその人と関わりができたなら、全力で応援しようと密かに誓った。

「――ところで」

 私の頬に手が添えられて、目と目を合わさせられた。リシャール殿下の瞳がちょっと怒っている。

「メルに色仕掛けをしたとのことですが、今後は全て私に対してのみ使用するようにしてくださいね」
「どういう意味ですか、それ」
「君が誘惑する相手は私だけにしろと命じたのです」

 顔が迫ってくる。私の背後は壁なので、逃げ場はない。

「え、あの。身元が明らかじゃない人間とは距離を置くようにするっていう話の流れじゃないんですか?」

 私の出生にまつわる話をしたのはそういうことではなかったのか。リシャール殿下の身に危険が迫るかもしれないから、出生の謎が明かされるまでは近づくな――そういう話の流れだと覚悟をしていたつもりだったんだが。

「君の背景を漁っているのは、君に宮廷魔導師師範までのぼりつめていただくためですよ。出世するには政治が絡んでくるので、後ろ盾が必要です。私が表立って直接支援するにはいろいろと不便ですから、邪魔なものの排除くらいはして差し上げようと、ね」
「ずいぶん気に入られてしまったようですね、私」

 唇に口づけをされるのだと構えていたが、リシャール殿下はすっと顔を横に動かして耳の後ろに口づける。そして甘く囁いた。

「君がしてくれたことがとてもよかったので。これからも期待していますからね。次回は胸でしごいてほしいですし」
「あ、今からでも構いませんけど?」

 素直に返すと、彼は私の耳元で小さく吹き出していた。

「今日は充分です。次回の楽しみに取っておくと言っているんだから、それでいい」

 耳を舐められると、身体がビクッと震えた。ゾクゾクと内側から湧いてくるのは快感のようだ。

「今夜は休みましょう。朝、その気になったらしようかな」

 押し倒されて、ベッドとリシャール殿下に挟まれる。彼はとても愉しげな笑みを浮かべていた。

しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

不器用騎士様は記憶喪失の婚約者を逃がさない

かべうち右近
恋愛
「あなたみたいな人と、婚約したくなかった……!」 婚約者ヴィルヘルミーナにそう言われたルドガー。しかし、ツンツンなヴィルヘルミーナはそれからすぐに事故で記憶を失い、それまでとは打って変わって素直な可愛らしい令嬢に生まれ変わっていたーー。 もともとルドガーとヴィルヘルミーナは、顔を合わせればたびたび口喧嘩をする幼馴染同士だった。 ずっと好きな女などいないと思い込んでいたルドガーは、女性に人気で付き合いも広い。そんな彼は、悪友に指摘されて、ヴィルヘルミーナが好きなのだとやっと気付いた。 想いに気づいたとたんに、何の幸運か、親の意向によりとんとん拍子にヴィルヘルミーナとルドガーの婚約がまとまったものの、女たらしのルドガーに対してヴィルヘルミーナはツンツンだったのだ。 記憶を失ったヴィルヘルミーナには悪いが、今度こそ彼女を口説き落して円満結婚を目指し、ルドガーは彼女にアプローチを始める。しかし、元女誑しの不器用騎士は息を吸うようにステップをすっ飛ばしたアプローチばかりしてしまい…? 不器用騎士×元ツンデレ・今素直令嬢のラブコメです。 12/11追記 書籍版の配信に伴い、WEB連載版は取り下げております。 たくさんお読みいただきありがとうございました!

愛人をつくればと夫に言われたので。

まめまめ
恋愛
 "氷の宝石”と呼ばれる美しい侯爵家嫡男シルヴェスターに嫁いだメルヴィーナは3年間夫と寝室が別なことに悩んでいる。  初夜で彼女の背中の傷跡に触れた夫は、それ以降別室で寝ているのだ。  仮面夫婦として過ごす中、ついには夫の愛人が選んだ宝石を誕生日プレゼントに渡される始末。  傷つきながらも何とか気丈に振る舞う彼女に、シルヴェスターはとどめの一言を突き刺す。 「君も愛人をつくればいい。」  …ええ!もう分かりました!私だって愛人の一人や二人!  あなたのことなんてちっとも愛しておりません!  横暴で冷たい夫と結婚して以降散々な目に遭うメルヴィーナは素敵な愛人をゲットできるのか!?それとも…?なすれ違い恋愛小説です。 ※感想欄では読者様がせっかく気を遣ってネタバレ抑えてくれているのに、作者がネタバレ返信しているので閲覧注意でお願いします…

嫌われ女騎士は塩対応だった堅物騎士様と蜜愛中! 愚者の花道

Canaan
恋愛
旧題:愚者の花道 周囲からの風当たりは強いが、逞しく生きている平民あがりの女騎士ヘザー。ある時、とんでもない痴態を高慢エリート男ヒューイに目撃されてしまう。しかも、新しい配属先には自分の上官としてそのヒューイがいた……。 女子力低い残念ヒロインが、超感じ悪い堅物男の調子をだんだん狂わせていくお話。 ※シリーズ「愚者たちの物語 その2」※

腹黒宰相との白い結婚

恋愛
大嫌いな腹黒宰相ロイドと結婚する羽目になったランメリアは、条件をつきつけた――これは白い結婚であること。代わりに側妻を娶るも愛人を作るも好きにすればいい。そう決めたはずだったのだが、なぜか、周囲が全力で溝を埋めてくる。

夫の色のドレスを着るのをやめた結果、夫が我慢をやめてしまいました

氷雨そら
恋愛
夫の色のドレスは私には似合わない。 ある夜会、夫と一緒にいたのは夫の愛人だという噂が流れている令嬢だった。彼女は夫の瞳の色のドレスを私とは違い完璧に着こなしていた。噂が事実なのだと確信した私は、もう夫の色のドレスは着ないことに決めた。 小説家になろう様にも掲載中です

【R18】純粋無垢なプリンセスは、婚礼した冷徹と噂される美麗国王に三日三晩の初夜で蕩かされるほど溺愛される

奏音 美都
恋愛
数々の困難を乗り越えて、ようやく誓約の儀を交わしたグレートブルタン国のプリンセスであるルチアとシュタート王国、国王のクロード。 けれど、それぞれの執務に追われ、誓約の儀から二ヶ月経っても夫婦の時間を過ごせずにいた。 そんなある日、ルチアの元にクロードから別邸への招待状が届けられる。そこで三日三晩の甘い蕩かされるような初夜を過ごしながら、クロードの過去を知ることになる。 2人の出会いを描いた作品はこちら 「純粋無垢なプリンセスを野盗から助け出したのは、冷徹と噂される美麗国王でした」https://www.alphapolis.co.jp/novel/702276663/443443630 2人の誓約の儀を描いた作品はこちら 「純粋無垢なプリンセスは、冷徹と噂される美麗国王と誓約の儀を結ぶ」 https://www.alphapolis.co.jp/novel/702276663/183445041

処理中です...