9 / 38
魔導師として宮廷入りしたので、殿下の愛人にはなりません?
目が覚めました
しおりを挟む
身体がなんだか重い。この気だるさは魔力を使い果たしたときと似ている気がする。だが、そんなことよりも下腹部の鈍痛が気にかかった。
えっと……何があったんだっけな?
もぞもぞと動けば、身体の下に敷かれた布の肌触りがやたらといいことに思い至る。それがきっかけとなって、ここにこうしているに至るまでの全てを思い出した。
目をぱちっと開ける。
「あ、起きた?」
「ひっ」
きっと近くにリシャール殿下の顔があるに違いないとは考えていた。だが、目と鼻の先という至近距離でまじまじと顔を見られているとは思うまい。
私は悲鳴を押し殺して逃げ、立てかけられていた枕に頭を突っ込んだ。
「急に動くと危ないですよ」
そう告げて、潰れた枕が取り払われる。やれやれといった表情だ。
「で、殿下がおどかすからです。そんな近くにいないでください」
「顔も好みだなって感じたので、じっくり見たかったのです。寝顔、可愛いですよ」
無邪気な様子でリシャール殿下は返してくる。おそらく、彼の本心そのままを告げているのだろう。
なお、互いに裸のままだ。
「はいはい、そうですか」
視線を動かして周囲を確認する。
部屋の明るさから考えて、あれから時間はそんなに経っていないようだ。よく見れば、行為の残滓が敷布のあちこちに散らばっている。それを見て、ふいに身体に熱が宿った。きゅうっと膣が締まる感じがして、それに私は驚く。これは余韻だ。
あれ?
この部屋にいるだろう人物の姿が見えない。隠れているのか気になって、つい頭を動かしてしまった。
「……メルヒオールは?」
「呼びます?」
「そうじゃなくて。どこにいったかなって」
呼べば出てこられる場所にいるのだろうか。
師範代になる最年少記録を大幅に更新するだろうと期待されている優秀な魔導師のメルヒオールなら、姿を消す魔法を使って潜んでいることも可能だろう。しかし、彼の性格的にはこの場をそっと離れたのだと推測できる。
リシャール殿下はメルヒオールを探す動作をせず、ただ口を開く。
「扉の外で魔力の暴走に備えた魔法をかけているところじゃないですか? 多少アレコレがあっても平気なように」
「はあ。――今までそういったことはあったのですか?」
今後の参考にしようかと思い、私は訊ねる。
魔力の相性によって魔法が暴発することが稀にあることを考えると、傾向を知っておくことは行為中に使う魔法の良し悪しにも関係するだけに重要だ。
「うーん、あったようななかったような?」
「どうして曖昧なんですか。大事な部分ですよ、それ」
「立場上、行為中に命を狙われることもあるから、さ」
リシャール殿下はおどけた言い方をしてきたが、つまりそれは――。
えっと……何があったんだっけな?
もぞもぞと動けば、身体の下に敷かれた布の肌触りがやたらといいことに思い至る。それがきっかけとなって、ここにこうしているに至るまでの全てを思い出した。
目をぱちっと開ける。
「あ、起きた?」
「ひっ」
きっと近くにリシャール殿下の顔があるに違いないとは考えていた。だが、目と鼻の先という至近距離でまじまじと顔を見られているとは思うまい。
私は悲鳴を押し殺して逃げ、立てかけられていた枕に頭を突っ込んだ。
「急に動くと危ないですよ」
そう告げて、潰れた枕が取り払われる。やれやれといった表情だ。
「で、殿下がおどかすからです。そんな近くにいないでください」
「顔も好みだなって感じたので、じっくり見たかったのです。寝顔、可愛いですよ」
無邪気な様子でリシャール殿下は返してくる。おそらく、彼の本心そのままを告げているのだろう。
なお、互いに裸のままだ。
「はいはい、そうですか」
視線を動かして周囲を確認する。
部屋の明るさから考えて、あれから時間はそんなに経っていないようだ。よく見れば、行為の残滓が敷布のあちこちに散らばっている。それを見て、ふいに身体に熱が宿った。きゅうっと膣が締まる感じがして、それに私は驚く。これは余韻だ。
あれ?
この部屋にいるだろう人物の姿が見えない。隠れているのか気になって、つい頭を動かしてしまった。
「……メルヒオールは?」
「呼びます?」
「そうじゃなくて。どこにいったかなって」
呼べば出てこられる場所にいるのだろうか。
師範代になる最年少記録を大幅に更新するだろうと期待されている優秀な魔導師のメルヒオールなら、姿を消す魔法を使って潜んでいることも可能だろう。しかし、彼の性格的にはこの場をそっと離れたのだと推測できる。
リシャール殿下はメルヒオールを探す動作をせず、ただ口を開く。
「扉の外で魔力の暴走に備えた魔法をかけているところじゃないですか? 多少アレコレがあっても平気なように」
「はあ。――今までそういったことはあったのですか?」
今後の参考にしようかと思い、私は訊ねる。
魔力の相性によって魔法が暴発することが稀にあることを考えると、傾向を知っておくことは行為中に使う魔法の良し悪しにも関係するだけに重要だ。
「うーん、あったようななかったような?」
「どうして曖昧なんですか。大事な部分ですよ、それ」
「立場上、行為中に命を狙われることもあるから、さ」
リシャール殿下はおどけた言い方をしてきたが、つまりそれは――。
0
お気に入りに追加
383
あなたにおすすめの小説

腹黒宰相との白い結婚
黎
恋愛
大嫌いな腹黒宰相ロイドと結婚する羽目になったランメリアは、条件をつきつけた――これは白い結婚であること。代わりに側妻を娶るも愛人を作るも好きにすればいい。そう決めたはずだったのだが、なぜか、周囲が全力で溝を埋めてくる。
不器用騎士様は記憶喪失の婚約者を逃がさない
かべうち右近
恋愛
「あなたみたいな人と、婚約したくなかった……!」
婚約者ヴィルヘルミーナにそう言われたルドガー。しかし、ツンツンなヴィルヘルミーナはそれからすぐに事故で記憶を失い、それまでとは打って変わって素直な可愛らしい令嬢に生まれ変わっていたーー。
もともとルドガーとヴィルヘルミーナは、顔を合わせればたびたび口喧嘩をする幼馴染同士だった。
ずっと好きな女などいないと思い込んでいたルドガーは、女性に人気で付き合いも広い。そんな彼は、悪友に指摘されて、ヴィルヘルミーナが好きなのだとやっと気付いた。
想いに気づいたとたんに、何の幸運か、親の意向によりとんとん拍子にヴィルヘルミーナとルドガーの婚約がまとまったものの、女たらしのルドガーに対してヴィルヘルミーナはツンツンだったのだ。
記憶を失ったヴィルヘルミーナには悪いが、今度こそ彼女を口説き落して円満結婚を目指し、ルドガーは彼女にアプローチを始める。しかし、元女誑しの不器用騎士は息を吸うようにステップをすっ飛ばしたアプローチばかりしてしまい…?
不器用騎士×元ツンデレ・今素直令嬢のラブコメです。
12/11追記
書籍版の配信に伴い、WEB連載版は取り下げております。
たくさんお読みいただきありがとうございました!

夫の色のドレスを着るのをやめた結果、夫が我慢をやめてしまいました
氷雨そら
恋愛
夫の色のドレスは私には似合わない。
ある夜会、夫と一緒にいたのは夫の愛人だという噂が流れている令嬢だった。彼女は夫の瞳の色のドレスを私とは違い完璧に着こなしていた。噂が事実なのだと確信した私は、もう夫の色のドレスは着ないことに決めた。
小説家になろう様にも掲載中です
嫌われ女騎士は塩対応だった堅物騎士様と蜜愛中! 愚者の花道
Canaan
恋愛
旧題:愚者の花道
周囲からの風当たりは強いが、逞しく生きている平民あがりの女騎士ヘザー。ある時、とんでもない痴態を高慢エリート男ヒューイに目撃されてしまう。しかも、新しい配属先には自分の上官としてそのヒューイがいた……。
女子力低い残念ヒロインが、超感じ悪い堅物男の調子をだんだん狂わせていくお話。
※シリーズ「愚者たちの物語 その2」※
片想いの相手と二人、深夜、狭い部屋。何も起きないはずはなく
おりの まるる
恋愛
ユディットは片想いしている室長が、再婚すると言う噂を聞いて、情緒不安定な日々を過ごしていた。
そんなある日、怖い噂話が尽きない古い教会を改装して使っている書庫で、仕事を終えるとすっかり夜になっていた。
夕方からの大雨で研究棟へ帰れなくなり、途方に暮れていた。
そんな彼女を室長が迎えに来てくれたのだが、トラブルに見舞われ、二人っきりで夜を過ごすことになる。
全4話です。
敗戦国の姫は、敵国将軍に掠奪される
clayclay
恋愛
架空の国アルバ国は、ブリタニア国に侵略され、国は壊滅状態となる。
状況を打破するため、アルバ国王は娘のソフィアに、ブリタニア国使者への「接待」を命じたが……。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる