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虫除け令嬢は薬学博士に捕われる
8.3 ※※
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*****
横たわるフロランの上にまたがり、彼のシャツのボタンを外していく。
「シュザンヌ、君のほうが無理をしていないかね?」
「無理なんてしていないですよ」
「本当に? ……ああ、そうだ。君はコンスタンに暴力を振るわれたのだろう? ドレスの背中側がだいぶ汚れていた。ぶつけた場所は痛まないのかな」
フロランの指摘で、コンスタンに蹴り飛ばされて壁にぶつかっているのを思い出せた。背中を強めにぶつけたはずだが、違和感はない。
「あとから痛む可能性はありますけど、媚薬で興奮していたからか平気ですよ」
私は作業を続行する。
彼の手が私の背中をつうっと撫でて、つい嬌声を上げてしまう。
「ひゃう! 急に触らないでくださいっ」
「なるほど。痛みはなさそうだね」
「そういうのはナシで。動けなくなっちゃうじゃないですか」
「大きな傷になっていないことは、ドレスを脱がしたときに見てはいるんだ」
彼の指先が細い腰へとすべる。手つきがいやらしくて、ドキドキが止まらない。
「やっ……」
「君は綺麗だ」
「んん……イタズラ禁止ですよ」
「もうあんな真似はしないでほしい」
「現場に遭遇しなければ、しませんよ」
「それならいいんだけどね」
尻を撫でていた手が内腿に触れる。軽くさすって私が身悶えるところをフロランは熱っぽく観察していたが、やがて満足したのか手が離れていった。
私は呼吸を整えて、作業に戻る。残るボタンは二つ。
「私……ずっと、待ち望んでいたんですよ」
「うん?」
「あなたとこうして触れ合えることを」
ようやくボタンをすべて外して胸元をはだけさせる。研究職だから筋肉は薄いかと思いきや、はっきりとした胸筋が現れてドキッとした。女性と男性では体のつくりが違う。
思い返せば、彼は事件現場から屋敷まで私を横抱きで運んでいるし、実験に使う機材や試料も一度にたくさん持ち運んでいる。徹夜もなんのそのであることからも筋力と体力はあるほうなのだろう。
……ってちょっと待て。私、付き合いきれるかしら?
腕力に自信はないが、体力にはちょっと自信があった。調香師をしながら香水店も経営している人間が少ないのは、深い知識やセンスがどちらも必要だからということだけではあるまい。最後は体力勝負である。とはいえ、女性にしては体力があるという話であって、男性と張り合えるとは考えていない。
「おや、手が止まったね」
「あ、いえ……ちょっと考えごとを」
「なにか変かな」
「想像していたよりも胸に厚みがあって驚きました」
正直に白状すれば、フロランは目を瞬いた。
「ああ、なるほど。服を仕立ててもらうときにもよく言われるね。研究職ではあるけれど、現地調査にも出るし、鍛えているんだよ」
「そういえば、そうでしたね」
数週間研究室を留守にすることがあるのを失念していた。学会に呼ばれていることもあるが、新薬開発に使えそうな鉱物や植物を採取しに出ていることもしばしばだ。
「ふふ。僕からも良い眺めだ」
「なかなか見ないアングルでしょうね」
せっかくなので、結っていた髪を解いてふわりとひろげて見せる。ふわふわの髪が豊満な胸を隠した。
「いかがですか?」
「素晴らしい」
賞賛の言葉をいただけると誇らしく思える。密かに喜んでいると、フロランがクスッと小さく笑った。
「僕を誘惑する方法を練っていたと聞いたよ」
「どなたから?」
「君のお兄さんから」
なるほどね!
職業柄もあって異性を誘惑する方法はお客さまであるご婦人や令嬢から聞きたくなくてもわんさか聞かされてきたわけだが、情報源はそれだけではない。貴重な男性の意見として兄にもいくつか質問したことがあったのだ。
兄は兄で聡いところがあるので、察するものがあってそれとなく私の意中の相手に漏らすのも納得である。フロランを籠絡できるなら頑張れと、私の結婚を半ば諦める意味合いで応援してくれたのは兄だ。
「赤くなってきたようだ。さっきまでの勢いはどこに行ったんだい?」
「私に誘惑されたいなら、余計なチャチャはいれないでください」
私は頬を膨らませる。
「可愛い」
「もうっ! 誘惑するのはやめます」
「好きなだけ誘惑してみるべきだと僕は思うよ」
「結婚してからにします」
「それは残念だ」
フロランの手が私の髪に伸ばされる。一房掴んで、指の腹で優しく揉まれた。その自然な仕草を見ているとときめいてしまう。彼が私に触れること自体、珍しかったからだ。
「触り心地がいいね。こうして触れてみたかったんだ」
「言ってくだされば、いつでも触っていただけましたのに」
「君は僕のところを訪ねるときはシニョンにしているから、解いてもらうのは気が引けてね。それに、研究室で触れるには邪魔なものが多すぎる」
私は研究室を思い出す。部屋が散らかっていることはないのだが、物が多すぎる傾向にはある。イチャイチャするには不向きな場所だ。
「確かにそうですね」
「夜会では下ろしていることもあっただろうけれど、僕はあまり華やかな場は興味がなくて」
「滅多にお会いしませんもの、そんなものですわ」
「だから嬉しい」
髪をツンと強めに引っ張られると、彼の顔の上に被さるように私の頭が移動する。長い髪がフロランの顔の周囲にふんわりと広がった。
横たわるフロランの上にまたがり、彼のシャツのボタンを外していく。
「シュザンヌ、君のほうが無理をしていないかね?」
「無理なんてしていないですよ」
「本当に? ……ああ、そうだ。君はコンスタンに暴力を振るわれたのだろう? ドレスの背中側がだいぶ汚れていた。ぶつけた場所は痛まないのかな」
フロランの指摘で、コンスタンに蹴り飛ばされて壁にぶつかっているのを思い出せた。背中を強めにぶつけたはずだが、違和感はない。
「あとから痛む可能性はありますけど、媚薬で興奮していたからか平気ですよ」
私は作業を続行する。
彼の手が私の背中をつうっと撫でて、つい嬌声を上げてしまう。
「ひゃう! 急に触らないでくださいっ」
「なるほど。痛みはなさそうだね」
「そういうのはナシで。動けなくなっちゃうじゃないですか」
「大きな傷になっていないことは、ドレスを脱がしたときに見てはいるんだ」
彼の指先が細い腰へとすべる。手つきがいやらしくて、ドキドキが止まらない。
「やっ……」
「君は綺麗だ」
「んん……イタズラ禁止ですよ」
「もうあんな真似はしないでほしい」
「現場に遭遇しなければ、しませんよ」
「それならいいんだけどね」
尻を撫でていた手が内腿に触れる。軽くさすって私が身悶えるところをフロランは熱っぽく観察していたが、やがて満足したのか手が離れていった。
私は呼吸を整えて、作業に戻る。残るボタンは二つ。
「私……ずっと、待ち望んでいたんですよ」
「うん?」
「あなたとこうして触れ合えることを」
ようやくボタンをすべて外して胸元をはだけさせる。研究職だから筋肉は薄いかと思いきや、はっきりとした胸筋が現れてドキッとした。女性と男性では体のつくりが違う。
思い返せば、彼は事件現場から屋敷まで私を横抱きで運んでいるし、実験に使う機材や試料も一度にたくさん持ち運んでいる。徹夜もなんのそのであることからも筋力と体力はあるほうなのだろう。
……ってちょっと待て。私、付き合いきれるかしら?
腕力に自信はないが、体力にはちょっと自信があった。調香師をしながら香水店も経営している人間が少ないのは、深い知識やセンスがどちらも必要だからということだけではあるまい。最後は体力勝負である。とはいえ、女性にしては体力があるという話であって、男性と張り合えるとは考えていない。
「おや、手が止まったね」
「あ、いえ……ちょっと考えごとを」
「なにか変かな」
「想像していたよりも胸に厚みがあって驚きました」
正直に白状すれば、フロランは目を瞬いた。
「ああ、なるほど。服を仕立ててもらうときにもよく言われるね。研究職ではあるけれど、現地調査にも出るし、鍛えているんだよ」
「そういえば、そうでしたね」
数週間研究室を留守にすることがあるのを失念していた。学会に呼ばれていることもあるが、新薬開発に使えそうな鉱物や植物を採取しに出ていることもしばしばだ。
「ふふ。僕からも良い眺めだ」
「なかなか見ないアングルでしょうね」
せっかくなので、結っていた髪を解いてふわりとひろげて見せる。ふわふわの髪が豊満な胸を隠した。
「いかがですか?」
「素晴らしい」
賞賛の言葉をいただけると誇らしく思える。密かに喜んでいると、フロランがクスッと小さく笑った。
「僕を誘惑する方法を練っていたと聞いたよ」
「どなたから?」
「君のお兄さんから」
なるほどね!
職業柄もあって異性を誘惑する方法はお客さまであるご婦人や令嬢から聞きたくなくてもわんさか聞かされてきたわけだが、情報源はそれだけではない。貴重な男性の意見として兄にもいくつか質問したことがあったのだ。
兄は兄で聡いところがあるので、察するものがあってそれとなく私の意中の相手に漏らすのも納得である。フロランを籠絡できるなら頑張れと、私の結婚を半ば諦める意味合いで応援してくれたのは兄だ。
「赤くなってきたようだ。さっきまでの勢いはどこに行ったんだい?」
「私に誘惑されたいなら、余計なチャチャはいれないでください」
私は頬を膨らませる。
「可愛い」
「もうっ! 誘惑するのはやめます」
「好きなだけ誘惑してみるべきだと僕は思うよ」
「結婚してからにします」
「それは残念だ」
フロランの手が私の髪に伸ばされる。一房掴んで、指の腹で優しく揉まれた。その自然な仕草を見ているとときめいてしまう。彼が私に触れること自体、珍しかったからだ。
「触り心地がいいね。こうして触れてみたかったんだ」
「言ってくだされば、いつでも触っていただけましたのに」
「君は僕のところを訪ねるときはシニョンにしているから、解いてもらうのは気が引けてね。それに、研究室で触れるには邪魔なものが多すぎる」
私は研究室を思い出す。部屋が散らかっていることはないのだが、物が多すぎる傾向にはある。イチャイチャするには不向きな場所だ。
「確かにそうですね」
「夜会では下ろしていることもあっただろうけれど、僕はあまり華やかな場は興味がなくて」
「滅多にお会いしませんもの、そんなものですわ」
「だから嬉しい」
髪をツンと強めに引っ張られると、彼の顔の上に被さるように私の頭が移動する。長い髪がフロランの顔の周囲にふんわりと広がった。
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