多重世界シンドローム

一花カナウ

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未来を賭けた対決

繋がる未来【完結】

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 委員会(モイライ)に戻ったあやめは、縁に会いに行って井上に行った処置に関して訊ねた。彼女は相変わらずの不機嫌そうな表情であったが、回答は簡潔でやはりいつもどおりの様子であった。

 また、次期委員長(モイラ)の候補者の度重なる死亡に関してはまだ結論には至らず、今後も継続的に調査をしていくらしい。容疑者である井上純也から多重世界シンドロームの力を奪うことで解決できていれば良いのだがというのが縁の意見だ。

(――しかし、本当に多重世界シンドロームの力を奪っただけでしたとは……。てっきり記憶も奪うと思っていましたのに)

 自分の部屋に戻るなり、あやめは今日一日のことを思い出す。散々な目に遭った一日ではあったが、貴家との絆を確かめられたような気がしてそんなに悪いものでもなかった。

(それが本当でしたら、また井上さまが凶器を持ち出すような気がするんですけど)

 あやめの不安について、縁は問題ないと答えている。多重世界シンドロームの力によって自己催眠状態になっていただけだからとのことである。自分に対し過剰な期待をしてしまったゆえの行動であるということだろう。

(そうならないためにも、ワタシが傍でお護りせねば)

 契約を交わした以上、しばらくはともにいられる。基本的には、主が死ぬかその能力が消え去るまではその任務を解かれることはない。

(委員長(モイラ)様の容態が安定してからと霧島さまはおっしゃっていましたが、《紡ぎ手(クロトー)》と《断ち切り手(アトロポス)》はどなたがなるのでしょう。仲良くやっていけると良いのですが)

 まだまだ不安な要素はいくらでもある。任務中はほとんど下界で過ごすことになるので、それにも慣れなければならない。

(霧島さまに会えなくなるのは少々寂しいですね……)

 前の主を去ったあとはほとんどずっと霧島縁の下で働いてきた。ここでの記憶がある中ではその大半を縁と共有しているはずだ。

(やはり多分に霧島さまの影響を受けているのでしょうね)

 縁をよく知る人物たちから影響されていると指摘されてきた。自分でも納得できる。

(あれ?)

 そこで初めて、あやめはあることに気付く。

(ワタシの洗脳が解けたのってまさか……)

 霧島縁が、その《断ち切り手(アトロポス)》としての力を使って解除したからではなかろうか。

 もしかしたらそうであるのかもしれないし、そうでないのかもしれない。どっちにしろ聞かなくても構わない話だ。

「ワタシ、霧島さまからも愛されていたのですね……」

 今更ながら縁の想いを理解する。よくよく思い返してみればそうなのだ。彼女は彼女なりに励まし、支え、道を示してくれていたことを思い出す。

 自分の意志を持てるようになって様々なことに気付けるようになった。それはとても幸せなこともあったが、井上の想いのように悲しいこともあった。でも、後悔はしていない。人は成長し、変わっていく。それを悲しんではいけない。

(ワタシはもっと成長してゆくことができるのでしょうか?)

 できるなら、成長したときにこれまで受け取ってきた想いを返していきたい。受け取り従うだけだったあの頃とは違う方法で、きちんと。

(ううん。成長できるように努力せねばなりませぬ。そうですね……まずは鈍感だといわれないように努力しましょう)

 今回の件を通じて、学んだことはたくさんあったがまずはそこからと目標を定める。彼女なりに気にしていたのだった。

(でもどうしたら敏感になれるのでしょう?)

 うーんと唸って考えてみるが結論は出ない。

(ま、まずは心構えですよね、心構え)

 気合いを入れ直し、あやめは荷物をまとめる。地上での生活に必要なものはすでに縁が手配しておいてくれていた。そういうところもきちんと面倒を見ることができる人物なのだ。そんなところを見習えば良いということを、この時点のあやめは気付いていない。

(――明日からもよろしくお願いします、貴家さま)

 わくわくする感情を抑えることもせず、あやめは支度を整えた。明日からの下界の生活を夢見て。

《了》
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