宝剣の精霊と添い寝皇女

一花カナウ

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宝剣の精霊と添い寝皇女

望まぬ縁談

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 ――困りましたわ。

 まさか巫女としての役割を持つ自分に縁談が舞い込むなど、エイレーネーは思いもしなかった。
 十歳で宝剣の巫女に選ばれ、早十六年。二十六歳で相手がいないといったら、未亡人か出戻りであることがほとんどという世の中だ。そんな女性を娶りたいなどと思うのはかなりの変わり者である。

 ――私には私にしかできない使命がありますのに。それを捨ててまで、異国の地に嫁ぐなど考えられませんわ。

 第七皇女という立場でもあるから、相手は望んだのかもしれない。
 ため息とともに涙がこぼれた。

「ですが……覆ることはありえない……」

 これは政略結婚だ。エイレーネーが拒めば、ようやく落ち着いてきた両国の関係に再び亀裂が入り、多くの民が命を落とすことになりかねない。

 目の前の鏡には、十代半ばかと見間違う少女がいた。柔らかな金色の髪と、日が暮れて間もない時間の空に似た紫色の眼を持つ童顔の少女――それがエイレーネーだ。
 巫女になってからはほとんど見た目が変わらない。胸はいくらか膨らんだが、あまり肉はつかなかった。

「年齢を聞いたらひくかと思いましたのに、見た目が愛らしいから問題ないだなんて言い出すとは……」

 涙を手袋はめた手で拭い、豪奢な寝台に移動する。そして、先に寝台で横たわっていた鞘に入った長剣を優しく撫でた。

「ああ、ペトロスさま。こうしてあなたさまと添い寝をするのも終わりを迎えようとしているようです。私は一生あなたのお側に仕えると決めておりましたのに」

 エイレーネーは緩慢な動作でドレスを脱ぎ去り、裸になると鞘ごと長剣を抱いた。

「ペトロスさま……」

 長剣――それは特殊な剣で、建国とともに奉納された宝剣であり、名をペトロスという。選ばれた巫女はこの宝剣と添い寝をして神力を注ぎ、宝剣の力でこの国を災いから退けている。
 宝剣の巫女は名誉ある職業で、初代皇帝の血を引く女性から選ばれる。先代の巫女が亡くなると、皇帝の血族で初潮を迎えてすぐの処女が巫女を引き継ぐ。
 本来であれば第五皇女がこの任務を引き受けるはずだった。ところが彼女は処女を失っていたために第六皇女に権利が移る。しかし第六皇女は異国に許婚がいたために、第七皇女のエイレーネーに任務が回ってきたのだった。

「ペトロスさま……私、この地を離れたくありません」

 腰を寄せて股間を擦ると、身体が甘く痺れる。これを続けることで宝剣に巫女の神力を送ることができるとされる以上、エイレーネーは一人でそれを続ける。

「あっ……見知らぬ男にこの身体を暴かれるくらいなら、私はあなたさまにすべてを捧げたい……」

 切なくなってくる。胸の奥が苦しい。エイレーネーは宝剣ペトロスを思いながら、ひたすら行為にふける。
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