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ふたりの部屋で。*

約束をしてほしい

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「あの」
「俺は、できればもっと君のことを知りたい。この先も、経験がしたいと願う。ここで引いたら、君に逃げられてしまいそうで怖いんだ」

 私の手を取って、指先に口付ける。熱が伝わる。
 ああ、絵になるなあ。

「だから、ここで終えるために、次があると、続きはあるのだと、約束してほしい」

 導かれて、シトリンの頬に私の手の甲が触れる。彼の指先が腕をすうっとなぞるとゾクゾクした。
 まずい、流されそう……
 どこでこういう仕草を覚えてくるのだろう。これが鉱物人形の仕様なのであれば、かなり警戒したほうがよさそうだ。

「えっと……」
「約束するのであれば、俺が兄を説得する。どうだ?」
「わ、わかりました。つ、次の機会は、前向きに検討します――か、らっ⁉︎」

 前向きに検討では不満だったらしい。シトリンに睨まれた。
 冷や汗が流れる。

「約束をしてほしい」
「約束、します!」

 ヤケクソである。だが、この窮地を脱するためにはこれしかないのだ。ハジメテなのに、ふたりを相手にしたら壊れてしまう。
 私の返答に満足したのだろう。シトリンはニコッと笑って、私の上に毛布をかけてくれた。そしてようやく私の上から退いた。

「――ということだ。兄よ、今夜はここまでにしよう」
「むぅ、弟ばっかり美味しい思いをしててずるいんじゃないかな?」

 膨れるアメシストに、シトリンは音もなく距離を縮める。かと思えば、ぎゅっとハグをした。

「?????!!!!!」

 奇声をあげそうなところを、私は両手で口を押さえてやり過ごす。こんな俊敏に動く力が私に残されていたとは。
 アメシストは大きな目を瞬かせた。

「お、弟?」
「ひとまずはこれで溜飲を下げてほしい」
「む……」

 シトリンの説得に、アメシストが真剣に悩んでいる。
 そこ、天秤にかけるにあたうのか。
 アメシストからシトリンにくっつきに行くところはよく見かけるが、シトリンからアメシストへはあまり接触していないことに気づいた。シトリンの兄に対する奥の手がハグなのかもしれない。
 しっかし。くっつくのが本当に好きなんだな、彼ら。
 アメシストも簡単には考えを譲れないのだろう。わりと長いこと抱きしめられながら唸っていたが、やっと諦めの表情を浮かべた。

「……お、弟が、そういうなら」
「わかってくれたなら、嬉しい」
「あ、でも」

 アメシストがシトリンの腕の中から抜け出して、私に顔を向けた。

「僕とも約束は有効だよね?」
「気持ち的には確約としたくはないですけど、約束は約束です」

 私の返答に、アメシストも満足したらしい。腕を組んでウンウンと頷くと、シトリンと向き直った。

「まあ、それはそれとして。今夜は予定通りにマスターには泊まってもらうってことでいいかな?」
「そうだな……名残惜しいし」

 ふたりが同時に私を視線で捕らえた。動けない。

「え、……手を出したら、約束は反故にしますからね!」

 このままなし崩し的に身体を許すわけにはいかない。私が毅然とした態度で宣言すると、アメシストは妖しく笑んでベッドにのぼってくる。

「それはもちろんさ」

 反対側からはシトリンがのぼってきた。

「案ずることはない。約束は守ろう」

 私にかけられていた毛布が左右から引っ張られて、ほぼ同時に入ってきた。並んでしまう。

「ま、待って。服、着たいっ!」
「すぐに眠くなるよ」

 明かりが消される。アメシストが告げたようにすぐに眠気がやってきて、私は意識を手放した。
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