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執務室で迫られました

選ばないなら、選ばないなりの方法で。

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「じゃあ、僕か弟か、どっちか選ばないといけないねえ」
「だから、選ばないって言ってるんですけど」

 むすっとして返すと、シトリンが唸った。

「ならば、戦場で傷を負って、強制的に触れてもらう方法を取るが?」

 私はシトリンのシリアスな声に驚いて、振っていた腕をピタリと止めた。シトリンの顔を見やる。マジか。

「僕は止めたんだよ? そういうのはよくない、マスターの気持ちを聞いて、選んでもらったほうがいいよって」
「それで、ここに?」

 私が尋ねれば、ふたりとも頷いた。息はぴったり。
 アメシストがシトリンを止めてくれたことについてはすごく助かったと思う。ナイスだ兄貴、アメシストさん。
 不要な怪我を負われるのは心苦しく、本意ではない。程度にもよるが、戦績にもかかわるし、戦力が落ちるのもよくない。
 私にはここが最後の砦であるので、成績が落ちて精霊使いの職を奪われてしまったら行き場がなくなってしまう。
 役立たず……そう言われたくはない。やっとこの生活に馴染めてきたところなのに、もし、追い出されることになったら。
 私が黙って俯いてしまったのを、ふたりは心配してくれたようだ。左右から同時にぎゅっと抱きしめられた。

「……困らせたな」

 シトリンが私の耳元で呟いた。私は首を横に振る。

「困ってはいますけど、その、重傷を負う方法を取られなくて心底よかったな、と」
「ほら、弟。脅迫はよくないよ」
「む……反省している」

 アメシストが優しく頭を撫でてくれると気持ちが安らぐ。
 いや、冷静にこの状況を考えたら落ち着けない。なんで推しに挟まれているのだ、私ごときが。
 顔を上げる。
 待て、顔が近すぎるな⁉︎
 ふたりが仲よくしているのが三度の飯よりも美味しい私であるが、なにもふたりの思わせぶりな言動だけできゃあきゃあ言っているわけではない。彼らの見た目も好みなのだ。私を置いて逃げた婚約者を彷彿させるようなところがさっぱりないから。
 熱が身体をまわる。アメシストはめざとくその変化に気づいたらしかった。私の頬をそっと撫でて、舌舐めずりをした。

「ありゃ。顔が赤いね」
「確かに。ベッドで休んだほうがよさそうだ」

 シトリンも反対側の頬に触れて親指で擦ってきた。案じている気配だったのに、シトリンの黄色の瞳に熱が宿るのが見えた。危険だ。

「ま、待って。大丈夫。自分で部屋に戻れますから! もうお話はおしまいでいいですよね⁉︎」
「遠慮しなくていいよ?」
「俺たちが介抱しよう」

 下心を隠さないふたりの顔は色気を孕んでいて、この至近距離でそんなのを見せられたらクラクラする。毒に冒されているみたいだ。
 これはよくない、よくないぞ?
 逃げないと、と本能が警告を出している。でも、身体がいうことをきかないし、そもそも二人に挟まれた状態なわけで。

「やっ……」

 アメシストの長い指先が私の唇をなぞる。見つめる彼の視線に熱がこもる。
 私の脈が早まってきた。

「可愛いね。もっとその素敵な表情を見せておくれよ?」

 シトリンの少し骨張った指が私の首筋をなぞる。急所を狙われているみたいな気持ちとときめきが変な混じり方をしてしまって動悸が激しい。

「落とされてしまったほうがラクになるんじゃないか?」

 彼らはどこでそういうのを覚えてくるんだろう。
 ああ、もう逃げられない。

「……ベッドに運んでください」

 いろいろ諦めて依頼すると、私はアメシストに横抱きにされる。シトリンの案内で執務室から運び出されたのだった。
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