【完結】見ているだけでよかったはずが、気づけば間に挟まれまして。

一花カナウ

文字の大きさ
上 下
1 / 12
執務室で迫られました

呼び出されて言われたことには。

しおりを挟む
 戦況を聞いて軍議を開くための執務室。
 職場であるはずのその場所で、私は今、貞操の危機に瀕している。

「――ねえ、君はどっちが好みなの?」

 紫水晶そのもののの美しい瞳が私の目を覗く。壁に追いやられているから逃げられるはずはなく、渋々顔を横にそむける。すると今度は別の、よく似た黄水晶の瞳が私を捕らえた。

「君は弟のほうが好き?」

 耳元で囁かれてたまらず首を横に振る。

「どちらと言わず、両方であるなら、俺はそれなりに努めるが」

 澄んだ黄色い瞳の彼が真面目すぎる声で誘惑してくる。

 ってか、そういう問題じゃないんですけど!

 私はプルプルと震えながら、左右から迫ってくる彼らの胸を押した。
 仕方ないといった様子で、ふたりは距離をとってくれた。とはいえ、肉薄している。私が絶対に逃げられない距離だ。
 ふたりを私は睨む。

「いいですか、アメシストさん、シトリンさん!」

 名を呼んで威嚇。
 彼らは驚いた顔をして、私を見つめた。双子みたいなものだけに、彼らの表情も態度もどことなく似ている。
 紫水晶の鉱物人形、アメシスト。黄水晶の鉱物人形、シトリン。鉱物人形は美形の男性型であるので、彼らもまたスラリとした体型の美青年である。鉱物人形に年齢の概念はないが、彼らの見た目は二十代半ばといったところだろう。若々しく逞しいのも鉱物人形の特徴だ。

 柔和な表情であることが多く、天然ボケで純粋な感性の持ち主である兄がアメシストだ。どことなく色気がある。紫水晶の力を授かっているだけあってお酒には強いし実際に酔わないのだが、契約主(マスター)である精霊使いを恋に酔わせるとして有名。

 一方、素のときは気難しい表情をしがちで生真面目さが売りの弟がシトリンだ。兄と比べたら男らしい振る舞いをしがち。黄水晶の力を授かっており、金運と繁栄をもたらすとされる。実際、彼がいる部隊は財政難とは無縁の傾向があるし、この部隊もまた金策で苦労したことはない。

 そんな彼らを従えているのが、精霊使いの私。つまりは私のほうが立場が上。ここは毅然とした態度で説得し、任務に影響が出ないように努めなければならない。
 覚悟を決めて私は両手を腰にあてた。

「私はあなた方と関係を持とうなどとは考えておりません! 私があなた方をよく見ていたのは、おふたりがとてもとても仲がよくて絵になるからであって、そこに私は不要です。私は壁です。いいですかっ⁉︎」

 あれ。しまった。本音のほうが出ちゃったぞ。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

悪役令嬢は皇帝の溺愛を受けて宮入りする~夜も放さないなんて言わないで~

sweetheart
恋愛
公爵令嬢のリラ・スフィンクスは、婚約者である第一王子セトから婚約破棄を言い渡される。 ショックを受けたリラだったが、彼女はある夜会に出席した際、皇帝陛下である、に見初められてしまう。 そのまま後宮へと入ることになったリラは、皇帝の寵愛を受けるようになるが……。

私に告白してきたはずの先輩が、私の友人とキスをしてました。黙って退散して食事をしていたら、ハイスペックなイケメン彼氏ができちゃったのですが。

石河 翠
恋愛
飲み会の最中に席を立った主人公。化粧室に向かった彼女は、自分に告白してきた先輩と自分の友人がキスをしている現場を目撃する。 自分への告白は、何だったのか。あまりの出来事に衝撃を受けた彼女は、そのまま行きつけの喫茶店に退散する。 そこでやけ食いをする予定が、美味しいものに満足してご機嫌に。ちょっとしてネタとして先ほどのできごとを話したところ、ずっと片想いをしていた相手に押し倒されて……。 好きなひとは高嶺の花だからと諦めつつそばにいたい主人公と、アピールし過ぎているせいで冗談だと思われている愛が重たいヒーローの恋物語。 この作品は、小説家になろう及びエブリスタでも投稿しております。 扉絵は、写真ACよりチョコラテさまの作品をお借りしております。

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

不器用騎士様は記憶喪失の婚約者を逃がさない

かべうち右近
恋愛
「あなたみたいな人と、婚約したくなかった……!」 婚約者ヴィルヘルミーナにそう言われたルドガー。しかし、ツンツンなヴィルヘルミーナはそれからすぐに事故で記憶を失い、それまでとは打って変わって素直な可愛らしい令嬢に生まれ変わっていたーー。 もともとルドガーとヴィルヘルミーナは、顔を合わせればたびたび口喧嘩をする幼馴染同士だった。 ずっと好きな女などいないと思い込んでいたルドガーは、女性に人気で付き合いも広い。そんな彼は、悪友に指摘されて、ヴィルヘルミーナが好きなのだとやっと気付いた。 想いに気づいたとたんに、何の幸運か、親の意向によりとんとん拍子にヴィルヘルミーナとルドガーの婚約がまとまったものの、女たらしのルドガーに対してヴィルヘルミーナはツンツンだったのだ。 記憶を失ったヴィルヘルミーナには悪いが、今度こそ彼女を口説き落して円満結婚を目指し、ルドガーは彼女にアプローチを始める。しかし、元女誑しの不器用騎士は息を吸うようにステップをすっ飛ばしたアプローチばかりしてしまい…? 不器用騎士×元ツンデレ・今素直令嬢のラブコメです。 12/11追記 書籍版の配信に伴い、WEB連載版は取り下げております。 たくさんお読みいただきありがとうございました!

暴君幼なじみは逃がしてくれない~囚われ愛は深く濃く

なかな悠桃
恋愛
暴君な溺愛幼なじみに振り回される女の子のお話。 ※誤字脱字はご了承くださいm(__)m

どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします

文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。 夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。 エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。 「ゲルハルトさま、愛しています」 ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。 「エレーヌ、俺はあなたが憎い」 エレーヌは凍り付いた。

聖女の、その後

六つ花えいこ
ファンタジー
私は五年前、この世界に“召喚”された。

赤ずきんちゃんと狼獣人の甘々な初夜

真木
ファンタジー
純真な赤ずきんちゃんが狼獣人にみつかって、ぱくっと食べられちゃう、そんな甘々な初夜の物語。

処理中です...