婚約者に逃げられて精霊使いになりました〜私は壁でありたいのに推しカプが私を挟もうとします。〜

一花カナウ

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6:新たな門出に

婚約者に逃げられて精霊使いになりました【完結】

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※※※※※


 私たちは仮の本拠地である保養所に戻ってきた。
 ラリサとオズリックは保養所で合流ののち、精霊管理協会の関連施設へと移動になることが決まった。オズリックの自宅が半壊状態であることと、現場検証等でいろいろと手続きが必要だそうで、警備の都合も含めると移動の方がよいとのことになったのだ。

「――では、またな。迷惑をかけた」
「いえ、こちらこそお世話になりました」
「何かあれば頼ってくれて構わないぞ。僕はお前さんの味方だ」

 そう告げて、オズリックは私の頭を撫でた。こういうことをされると、彼にとって私は子どもなのだろうと感じる。いつか対等になりたいと密かに願った。
 私がくすぐったそうにしていると、隣のラリサがオズリックの脇腹をつついた。むすっとしている。

「ずいぶんと親しげだな」
「元フィアンセだ」
「……そうなのか」

 面白くなさそうな顔をするラリサを、オズリックはそっと引き寄せて抱き締める。

「そう拗ねるな。僕はラリサを忘れたことはないぞ?」
「若い娘に乗り換えたのではないのか?」
「まさか。彼女とはずっと清い関係だった」

 私はラリサに睨まれる。
 清い交際だったのは間違いないんだけどなあ……
 何を言っても言い訳に聞こえてしまいそうで、私は助けを求めてセレナに視線を送る。

「ほら、お二人さん。そろそろ行くぞ」

 セレナの指示でオパールが促す。オパールが二人を関連施設まで送り届けるらしい。ラリサの護衛としてくっついていた黒曜石の鉱物人形・オブシディアンもオパールの隣でこくこくと頷いている。

「またどこかで会うこともありましょう。それまで、どうかお元気で」
「ああ。そちらも達者で」

 ラリサが無愛想に告げると、オズリックは苦笑して会釈した。
 彼らとはこうしてお別れをした。


※※※※※


 夜。
 いつものようにアメシストとシトリンが私の部屋にやってきた。枕と毛布はそれぞれ持参している。

「……そろそろ、各自のお部屋で寝てはいかがでしょう?」
「やだよ。あの水晶の御老体が夜這いに来るかもしれないし」
「ククリさんはドラゴンの姿に戻しましたので、それは心配ないと思うのですが……」

 保養所からオズリックたちが出立したのち、気が緩んだところをロッククリスタルに襲われかけた。咄嗟に私は彼をドラゴンの姿に戻し、現在は彼の居室としてあてがうことになった別館の大広間に追い出している。身の安全は大事だということで、スタールビーとルビとダイヤがロッククリスタルの見張りをしているところだ。結界を作るのが得意なメンツであるためか、ロッククリスタルは謹慎状態である。自業自得なのだから文句は言わせまい。

「あの三にんがこっちにいないのだから、俺たちはなおさらマスターの護衛に専念するべきだ」
「それは……まあ、そうですが」

 シトリンの意見は間違いではない。私が唸っていると、アメシストがニコッとした。

「僕はね、ご褒美が欲しいよ?」
「俺も褒美をいただきたい」

 ふたりに挟まれた。一応、枕と毛布があるから触れてはいないけれど。

「おふたりには頑張っていただいたとは思っていますよ。私のわがままに付き合っていただきましたから。とても感謝しています」
「じゃあ、態度で示してよ」
「別室で寝ようなどと提案されたら傷つく」

 顔が近い。
 困ったな……
 無理はさせていないつもりなので、消耗はしていないはずだ。戦闘が続いたとはいえ、休養もしっかりとっている。回復の必要はない。
 が、それは鉱物人形としての仕様の話であって、彼らが求めているのはそういうことではないのだろう。
 私が口籠もっていると、アメシストが膨れる。

「さっきの襲われかけた件、ほんと、よくないよ? 契約者としてしっかりしていないとなめられるってことだからね」
「気を許しすぎだし、体も許しすぎだ。口づけは魔力の交流には確かに効率がよくて有効な手段ではあるが、多用するものではない」
「反省はしているんですよ。それに……おふたりがいつも一緒にいて、止めてもらえるって信じているからこそ気が抜けてしまうわけで……」

 言い訳っぽいうえにふたりに責任を押し付けるような文句になってしまったと思った。申し訳ない。
 私が答えると、ふたりは同じタイミングで一歩離れる。まだ近いけど。

「ねえマスター、僕は君の一番になりたいよ」
「俺も、兄に負けず君の一番でありたい」

 紫水晶の瞳と黄水晶の瞳が私を見つめる。
 私はにっこり笑って、ふたりを同時に抱きしめた。

「なに言っているんですか。とっくにおふたりは私の一番ですよ。信用しています。そうじゃなければ、部屋に入れたりしませんし、同じベッドで寝られませんから」

 そう答えると、ふたりが同時に小さく唸った。
 あれ? 喜ぶかなと思ったのに、反応がちょっと違うぞ?

「……ううーんとね、それはそれでもちろん嬉しいんだけど」
「兄も俺も、求めていることが伝わっていないというか……」

 困惑している。何故だろう。
 私は大きくあくびをしてふたりから離れた。

「アメシストさん、シトリンさん、私、もう眠気で限界です。部屋に戻れと命じたことは撤回します。そばで寝てくださいませんか?」

 私が誘うと、ふたりは顔を見合わせて、仕方がないという表情をした。
 ほんと、言葉を交わさずともすぐに通じて仲がいいなあ。
 私は仲のいいふたりを眺めているのが心底好きなようだ。

「そういうことなら――」
「――喜んで」

 アメシストが私を横抱きにしてベッドに運び、シトリンが整えたベッドの上におろされる。そして毛布をシトリンに被せてもらうと、ふたりが私の左右にそれぞれ寝転んだ。

「おやすみ、マスター」
「マスター、よい夢を」

 それぞれが告げると、ふたりともすっと眠りに落ちてしまう。私はアメシストとシトリンの穏やかな寝顔を見てほっとすると、目を閉じる。
 明日から精霊使いになるための勉強を再開する。立派な精霊使いになって、私は私として生きていこう。


《婚約者に逃げられて精霊使いになりました 終わり》
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