婚約者に逃げられて精霊使いになりました〜私は壁でありたいのに推しカプが私を挟もうとします。〜

一花カナウ

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6:新たな門出に

あなたも私のものになってください

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「ん!」

 驚いて目を瞬かせているうちに、ドラゴンは姿を変えていく。
 すぐに人型に変わった。サラサラの白銀の長髪、色白の肌。薄布を巻いたような衣装の長身の彼は、薄く微笑んだ。
 人型になれたのならと離れようとする私の腰に手が回され、躊躇するそぶりなく深く口付けられる。

「んんん!」

 クラクラしてくる。魔力が流し込まれていると理解して、私は動かせる両手を振った。
 状況を察したスタールビーがドラゴンだった水晶の彼を慌てて引き剥がす。

「調子に乗るな色ボケじじい!」
「人間の姿を得たら一度してみたかったのだ。愛情表現なのだろう?」
「魔力を流し込むな」
「我がものに対して何をしても構わないのでは?」
「主従が逆だ。あんたが、ジュエルの所有物になったんだ。許可は取れ」
「許可……」

 長い髪をサラリと後ろに流し、水晶の彼は私を見て不敵に笑んだ。見た目の年齢が三十代半ばくらいだからか、妙に色っぽい。

「許可など不要だろう? 我を受け入れるに決まっている」

 それに対して、アメシストとシトリンが私の間に入った。

「あのですね? マスターはみんなのマスターであって、個人的にどうこうするのは困るんですよ」

 アメシストなりに水晶の彼に敬意はあるらしく、口調がぎこちないが注意を促す。

「兄の言うとおりだ。マスターは少し強引なほうが好みなのは確かだが、個人的には面白くないのでやめていただきたい」

 めちゃめちゃ個人的な感情による主張であるが、シトリンも加勢した。

「ふむ。ではじっくり口説くとしよう。気持ちがよいのは好きであろう?」

 面倒なことになった気がする。そして、彼の発言で私は気づいた。
 聖女を快楽漬けにするのは水晶の彼の趣味っぽいな……
 私は数歩下がって、状況を確認する。とりあえず、今のところは問題ないようだ。

「ええっと……お名前を伺っても? 私はジュエルです。一時的になると思いますが、あなたを使役する契約者になりました。私の言葉に耳を貸さないと言うのであれば、契約を解除して石の姿に戻っていただきます」

 気を取り直して、はっきりと告げれば、水晶の彼はつまらなそうな顔をした。

「なかなか興味深い交渉をする娘だな。この姿を得てしまえば、お主に制御できるとも思えないのだが」
「……名を名乗るとまずいパターンなんです?」

 私が尋ねれば、水晶の彼はふぅと息をはいた。

「いや、お主に呼んでもらいたいから名乗ろう。我が名はロッククリスタル・クォーツ。この国の土地のすべてに影響を及ぼすことができるだけの力を持つ透明度が高い水晶だ。ほかと区別して、お主はククリとでも呼んでくれ」
「ククリさん、ですか」
「ククリ、で構わないぞ?」
「いえ、ククリさんとお呼びします」

 何度か名前を呼んだからか、ロッククリスタルは気をよくしたようだ。表情が柔らかくなった。

「……土地のすべてに影響を及ぼすというなら、先の地震も国土全体に及んだのか」
「そうみたいね。何事だと通知がたくさんきているわ」

 ラリサの呟きに、セレナが宙空に画面を表示して確認をしている。地震は想定外だ。
 ロッククリスタルがセレナを見やる。

「地震は起きたが、被害はそうなかろう? もともと、対魔物のために頑丈に作るなり結界が展開するようになっている。守り石を持ち歩いていれば、自動で結界が持ち主を守るはずだしな」
「そうね。怪我人はチラホラ出てるけれど、命に別状はないみたい」

 セレナの説明に、私は安堵する。まさか契約にともなって国全体が揺れるとは思わなかった。

「結界については問題ない。契約にともなって一時的に緩んだが、口吸いで安定させたからなあ。国を維持するつもりなら、我と口吸いすることを勧めるぞ、娘」
「ジュエルと呼んでください。でなければ、マスター呼びあたりで」
「承知した、ジュエル」

 私はスタールビーに顔を向けた。彼はキョトンとしている。

「とりあえず、問題の一つは解決しましたので、スタールビーさんも私のものになってください」

 手を差し出す。
 スタールビーは迷わず私の手を取った。

「そうだな。よろしく頼むよ、お嬢さん――いや、ジュエル」
「はい。こちらこそ、よろしくお願いします」

 触れて気持ちが通じ合ったのだろう。何も言わずとも契約が上書きされていく。見た目には何も変わらないけれど、彼のまとう魔力が変化した。
 セレナには伝わっていたのだろう。ひと通りの手続きが完了したタイミングで彼女がポンポンと手を叩き注目を集めた。

「することも片付いたところで、帰りましょう。ラリサさんはオズリックさんのところに送るわ」
「それはありがたい」
「聖女としての勤め、ありがとうございました」
「……久しぶりの自由か」

 ふっと笑う。私はアメシストとシトリンを見た。

「帰りましょう、私たちの本拠地に」

 ふたりの手をとって、私は歩き出した。

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